ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ヒミズ

ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]
 園子温監督の作品にしては珍しく漫画原作の映画化作品「ヒミズ」です。その点には興味はあったのですが、公開当時には正直なところ見る気がしませんでした。それは東日本大震災により壊滅的な打撃をこうむった土地でのロケを敢行し、フィクションであるドラマの舞台にしたからです。倫理的に問題のある行動と思わざるを得ず、見ることもないだろうと思っておりましたが、今回DVD化を機会にとりあえず見て判断してみる事にしました。

『2011年日本映画、配給:ギャガ

監督・脚本: 園子温
原作: 古谷実ヒミズ

キャスト:染谷将太二階堂ふみ、渡辺 哲、吹越 満、神楽坂 恵、光石 研、窪塚洋介吉高由里子西島隆弘、他

住田祐一、茶沢景子、「ふつうの未来」を夢見る15歳。だが、そんな2人の日常は、ある“事件"をきっかけに一変。衝動的に父親を殺してしまった住田は、そこからの人生を「オマケ人生」と名付け、世間の害悪となる`悪党'を殺していこうと決めた。自ら未来を捨てることを選んだ住田に、茶沢は再び光を見せられるのか ──。(AMAZON解説より)』

 早速被災地の映像の話になりますが、映画の冒頭、エンディングを含め数箇所で無残な廃墟と化した被災地が出てきました。その映像の持つ力は圧倒的でしたし、モーツァルトのレクイエムの使用、ドラマのラストの設定など、園子温監督の被災地へ向けた強いメッセージを私なりに感じることはできました。が、それでも、必然性は感じられませんでした。
 殺人や傷害といった暴力シーンが連続するにも関わらず警察が全く登場せず、更には少女の警察への少年の父殺しの告発に際して翌日の自首まで待ってくれるというような非現実的なドラマのストーリーと、被災地の現実の持つ厳しさがとても有機的につながっているとは言えず、被災地での役者の演技も到底納得できるものではなかったです。

 一方で、各シーンの出来は決して悪くなかったと思います。染谷将太二階堂ふみ二人の若い主役の、雨、泥、水、絵の具責めといった過酷な演出に体を張って応えた演技は見応えがありましたし、園子温組の常連俳優の脇の固め方も堅実でした。ゲスト的な窪塚洋介たちの演技もいいアクセントになっていました。

 一本の映画としてみれば「親性の喪失と親殺し」という重いテーマを大胆な演出と映像で描き、最後には一筋の光明を見せる、今の日本映画としては高レベルの映画であったと思います。それに3.11を加えたことによって更に深みを増したのか、倫理的に許し難い商業映画に堕したのか、それは観る人が判断することであると思います。残念ながら私は後者でした。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)