ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

一枚のハガキ

一枚のハガキ【DVD】
  御歳98歳でメガホンを撮られた新藤兼人監督の「一枚のハガキ」です。この作品を以って引退される、ということも話題になりましたし、2011年のキネマ旬報第一位にも選出され、注目を集めました。

『2011年 日本映画 近代映画協会制作、テアトル東京配給

監督・脚本・原作:新藤兼人

キャスト; 豊川悦司大竹しのぶ六平直政柄本明倍賞美津子大杉漣津川雅彦川上麻衣子 絵沢萠子大地泰仁渡辺大麿赤兒

戦争末期に徴集された100名の中年兵は、上官によるクジ引きによってそれぞれ次の戦地が決められた。宝塚に赴任する松山啓太は、フィリピンへ赴任することになった戦友・定造に妻・友子からの一枚のハガキを託される。
――今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません――
「検閲があり返事が出せない。そして俺は死ぬだろう。お前が生き残ったら、このハガキは読んだと妻に伝えてくれ」と、啓太は定造から依頼された。そして、終戦。100名の内、生き残ったのはたった6名。生き残った啓太はハガキを書いた友子を訪ねる。友子は夫の亡き後、立て続けに家族を失い、古い民家とともに朽ち果てようとしていた。戦後、全てを失った二人が見つけた“再生”への道とは…。(AMAZON解説より)』

 ご自身も戦争召集経験のある監督の執念にも似た思いいれが感じられる反戦映画です。くじで生死が決められる中年兵。兄が死ぬと家を絶やさないために弟と結婚させられる未亡人。九死に一生を得て帰郷したら、なんと父と嫁が駆け落ちしていて近所の物笑いのタネになる帰還兵。声高に反戦を叫ぶのではなく、そのような理不尽な人間模様をペーソス溢れる泣き笑いにくるみ、不幸のどん底からでも、踏まれて伸びていく麦のように人間はへこたれずに生きていくのだ、という人間賛歌で終わっているところに98歳という齢を重ねた人間新藤兼人の真骨頂を見る気がします。

 俳優陣も超一流。主人公大竹しのぶの演技は鬼気迫るものがあり、やはりこの人は天才であり、演技の鬼だな、と再認識しました。柄本明の土下座して頼みながらその後にやっと笑う表情なども、さすがと思わせます。憎めない憎まれ役の大杉漣の奮闘振りも光ります。その他豊川悦司六平直政をはじめ殆どの登場人物がさすが、と言わせる演技を見せます。
 アイドルや若手人気俳優が幅を利かせる日本映画界ですが、こういう人たちの熱演を見ると、演技のレベルがやはり一段も二段も違うなと思います。

 と、ここまで誉めるとキネ旬一位に相応しい傑作、と締めくくるべきなのでしょうし、方々の映画サイトやブログを覗いてみても絶賛の声ばかりなのですが、、、

 残念ながら個人的にはごく平凡な映画だな、という印象でした。演技の凄さに演出がついていかず、クロマキー丸分かりのシーンなど安っぽさが諸所に見受けられる映像にも疑問符がつきます(この点はおそらく低予算が一番の問題なのでしょうけれど)。

 もちろん、だからと言って見る価値のない作品ではありません。過大評価することなく、老監督の思いの詰まった愛すべき小品、として観れば納得のできる作品であると思います。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)