ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

日輪の遺産

日輪の遺産 特別版 [DVD]
  以前紹介した浅田次郎の「日輪の遺産」の映画化です。去年公開されたのですが、残念ながら劇場で観る機会を逸しておりました。小説自体は、浅田次郎にしてはこなれておらず、氏自身も「若書き」で今から思うと書き直したいところも多いと述べているやや生硬な内容・文章なのですが、映画はその辺を巧く処理し、観やすく理解しやすい内容になっておりました。

『2011年 日本映画

監督: 佐々部清
原作: 浅田次郎
脚本: 青島武

出演: 堺雅人
中村獅童 福士誠治 / ユースケ・サンタマリア 八千草薫
森迫永依 麻生久美子 塩谷瞬 八名信夫

 山下将軍が奪取した900億円(現在の貨幣価値で約200兆円) ものマッカーサーの財宝を、秘密裡に陸軍工場へ移送し隠匿せよ―!その財宝は、敗戦を悟った阿南らが祖国復興を託した軍資金であった。
 真柴は、小泉中尉、望月曹長と共に極秘任務を遂行。勤労動員として20名の少女達が呼集される。御国のため、それとは知らず財宝隠しに加担するが、任務の終わりが見えた頃、上層部は彼女ら非情きわまる命令を下す。
 そのとき真柴ら3人の軍人が取った行動とは?果たして少女達の運命は―?(AMAZON解説より)』

 先程も述べたように、まず脚本の巧さが光る映画です。原作では1945年の財宝隠匿にまつわる少女たちの悲話と、1992年の一人の不動産屋が主人公となる一種の宝探し譚が平行して描かれるのですが、映画では後者をばっさりと切り捨て、八千草薫演じる未亡人と、ミッキー・カーチス演じる元マッカーサー付き通訳二人の回想という形で物語を処理しています。
 これにより物語の見通しが良くなり、1945年の事件に観客が集中する事ができるようになりました。その事件の顛末も巧くまとめてあり、浅田次郎氏の原作に見られる過度のマッカーサー賛美も巧く抑制してありました。御涙頂戴を目的としたラスト近くのシーンなど、ちょっと脚色の過ぎるところが気になりましたが、それを差し引いても、十分合格点の脚本に仕上がっていると思いました。

 この脚本があれば「半落ち」等のヒューマン・ドラマを得意とする佐々部清も演出の腕を十分振るえます。
 終戦前夜の軍部の対立と混乱、敢えて敗戦を受け入れ将来の日本のために再訪隠匿の危険なミッションを引き受ける軍人3人、「出て来いミニッツ・マッカーサー、来れば地獄へ逆落とし」というような醜悪な歌を歌いながら、過酷な労働を嬉々として従事する無垢な少女たち、そして完遂直前に彼女たちに降りた命令に愕然とし憤然と抗議する主人公真柴少佐、そして彼らの戦後の運命。

 原作の1992年の時点でもはるか過去となっていて、ましてや、ゆとり教育とやらのせいか、日本が過去にアメリカと戦ったことを知らない若者が多い2011年現在。その今だからこそ再認識するべき内容を、佐々部清監督は当時の彼等彼女らの心に寄り添い、極端に言えば「田舎の駅から洞窟へ荷物を運ぶだけの物語」を、飽きさせることなく最後まできっちりと撮りきっています。

 ある命令の解除がなされたにもかかわらず、一人を除く少女たちがとった行動は今の若い世代には理解しがたいでしょうし、原作を読んだ時点での私も浅田次郎の小説にしては心に響いてきませんでした。この映画を観ても完全に感情移入するわけにはいきませんでしたが、ある程度受け入れる事ができたのは、やはり佐々部清の手腕だと思います。

 その演出に応える俳優陣も堅実なキャスティング。超売れっ子の堺雅人の真柴少佐役が果たして適役かどうか見るまでは若干疑問がありましたが、ちゃんとこなしていましたね。何でもできる器用な人です。ただ、当時の陸軍軍人としてはやはりスマートすぎる印象は拭えませんね。2011年度の日本アカデミー賞には「武士の家計簿」で主演男優賞にノミネートされていますが、確かにああいう役が彼の本分でしょう。
 対照的にたたき上げの傷痍軍人役の中村獅童は見事な適役ぶりを発揮しておりましたし、経理部軍人の福士誠治の熱演にも心を動かされました。意外な適役だったのが、少女たちの学級担任教師のユースケ・サンタマリア。当時にしてはリベラルで子供思いの教師の雰囲気朴訥とした演技で良く出していました。あと、陸軍大臣役の柴俊夫の凄絶な切腹が短時間の出番ながら強いアクセントを映画自体に与えておりました。
 私の好きな麻生久美子は今回は現代側の八千草薫の孫というまあ端役でしたが、画面に出てくれるだけでこの暗い物語に沈む心をを癒してくれました。

 当時の人々の構成への思いを受け止める、という難しい問題をこのような映画で語り継いでいく事は(フィクションとは言え)大変意義深いことと思います。世代を問わず観ていただきたい映画です。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)