ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ツレがうつになりまして。

Tureutu
 家内と一緒に「ツレがうつになりまして。」を観てきました。細川貂々さんの漫画原作は以前に読んでおり、医師が普段眼にすることのできないうつ病の患者さんの実態をありのままに、しかも暗くなりすぎることなくむしろコミカルに描いてあるところに感心しました。また、「ツレ」さんの症状には、病気こそ違え持病持ちの私には共感できるところがありすぎて涙が出てしまいました。たとえば

「電車に乗るのが怖い」
「電話が怖い」
「雨の日や台風の日は途端に体調が悪くなる」

なんてところは、私も一番しんどい頃には体験した現象です。だから、堺雅人さんと宮崎あおいさん主演で映画になると知って公開を楽しみにしておりました。

『 2011年日本映画、配給:東映

スタッフ
監督: 佐々部清
原作: 細川貂々
脚本: 青島武

キャスト
宮崎あおい堺雅人吹越満大杉漣余貴美子

仕事をバリバリこなすサラリーマンの夫、通称ツレ(堺雅人)が、ある日突然、心因性うつ病だと診断される。結婚5年目でありながら、ツレの変化にまったく気付かなかった妻・晴子(宮崎あおい)は、妻としての自分を反省する一方、うつ病の原因が会社にあったことからツレに退職を迫る。会社を辞めたツレは徐々に体調を回復させていくが……。(シネマトゥデイより)』

 映画はまずはスローペースで始まります。ストレスの多いクレーム処理係と言う仕事、なにごともきっちりとしないとしていないと気がすまない性格から、段々疲弊していくツレ(堺雅人)さん。
 そしてうつ病と言っても気分が落ち込むだけが症状ではなく、頭痛、背部痛のような身体症状で現れたり、普段段取りどおりにできていた事ができなくなったり、料理の味がわからなくなったり、睡眠中イビキがひどくなったり、そういう周辺症状もうつ病の徴候なのだという事をきっちりと丁寧に描いていきます。

 でも奥さんのハル(宮崎あおい)さんは素人ですからそれがうつ病だとは気がつきません。ツレさんがついにガス欠を起こして「死にたい」と言い始めてやっと尋常でない事が起こっていると知ります。病院受診を勧めてやっと彼が「典型的なうつ病」であり、今までの症状もそのサインだったと理解します。

 このあたりまでの進行はややかったるい面もあるのですが、うつ病という病気を観客に理解してもらうためには必要な退屈さであると思います。

 さて、それからハルさんとツレさんの一見ホノボノとしていながら実はお互いに辛い辛い闘病が始まります。当然最初は「治そう!」とあがいてみるのですが、実はそれが無駄な事、むしろ逆効果であり、無理しないで付き合っていくことしかないのだと気づくまでの過程も、原作をあちこちで改変しているため、ややオブラートに包んだようなエッジの甘い描き方ではありますが、丁寧に描かれています。二人にとって一番の癒しであるイグアナのイグ君や亀もいいアクセントになっています。

 そう言えば原作は夫婦二人とイグ君と亀とエビしか出てきませんから、これでは映画になりません。適度な脚色として、ハルさんのご両親や友達、ツレさんの会社の同僚、兄さんや通院仲間、近所の人たち、うつが治ったように見えて突然自殺してしまう少年などを登場させて原作に適度な脚色を施しています。ツレさんの兄がやたら「頑張れ頑張れ」と言うなど、この病気が理解されにくいという面を描く事に重点がおかれてはいますが、全体としては周囲描写は控えめで、あくまで夫婦二人を中心に淡々と映画は進んでいきます。

 しかしそこはやはり「半落ち」の佐々部清監督、後半~終盤の盛り上げ方、ホロッとさせる泣かせ方は上手い。このあたりは是非ご覧になって確かめていただければと思います。

 さて、主演の堺雅人宮崎あおい、どちらも芸達者であるとともにどちらもホノボノ系の雰囲気を持っていますから、辛い病気をできるだけ明るく描くには良いキャスティングだったと思います。原作ではツレさんはスキンヘッドに髭という風貌にモデルチェンジするのでそこまでやるかどうか楽しみにしていたのですが、さすがに売れっ子の堺さんですからそれはできない相談だったようです。

 音楽も実際のツレさんの趣味をであるクラシック音楽を効果的に取り入れてありますからゆったりとした気分で鑑賞する事ができます。

 うつ病と言う病気は実際にはもっともっと大変な面があり、決してその奥底まで描ききったとは言いませんが、原作の持つ開き直ったコミカルさを上手くアレンジした佳作だと思います。是非どうぞ。

評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)