ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

あしたのジョー

あしたのジョー スタンダード・エディション [DVD]
 昭和を代表する漫画「あしたのジョー」の実写化です。最近はCGやVFXの高度化に伴い、人気漫画の実写化が花盛りですが、正直なところ安直な作りで期待を裏切られる事もしばしばです。さて、本作はどうでしょうか。当時力石徹の死が社会現象になったほどの作品ですから、生半可な事ではファンも許さないでしょう。ですから公開前には賛否両論があり、主人公がまたまたジャニーズということで女性ファン向けの映画にならなければいいが、と危惧する声があった反面、山下智久伊勢谷友介の肉体作りが期待を抱かせもしました。できれば劇場で見たかったのですが、機会を逃してしまい、DVDでの鑑賞となりましたが、思いの外良い出来で驚きました。

『2011年日本映画

原作:高森朝雄ちばてつや
監督:曽利文彦 
脚本:篠崎絵里子 
主題歌:宇多田ヒカル

キャスト:
山下智久 伊勢谷友介 香里奈 香川照之

国民的人気漫画を山下智久伊勢谷友介主演で実写映画化。昭和40年代。東京の下町で殺伐とした生活を送っていた矢吹丈は、少年院でチャンピオンレベルの力を持つプロボクサー・力石徹と運命の出会いを果たす。通常版。 (AMAZON解説より)』

 まずイントロがとてもいいです。札付きのワルのジョーの日常をまずは遠景でサイレント風に撮りながら、この映画のバックグラウンドである昭和30-40年代の日本の底辺を手際よく説明しつつ、じっくりとジョー丹下段平の出会いに収斂させていく。その舞台である山谷のドヤ街と泪橋をCGでなくちゃんとオープンセットで作ったところも凄い。このイントロ部分だけで、曽利文彦監督が真摯にここまでこだわって作っているんだという意気込みを感じます。

 その後のストーリー展開もスピーディで、脚本も良くできていると思います。ファンが期待する試合、すなわち少年院での力石との戦い、ウルフ金串戦、そしてクライマックスの最後の力石戦と、要になるポイントを良く心得つつ手際よく見せていきます。この間のブリッジとなるエピソードや、原作で描かれるボクシング以外の要素は、映画がスピーディな分どうしても浅くなったりカットされたりしていますが、それはある程度仕方ないところでしょう。

 そしてなんといっても山下智久伊勢谷友介の、CG無しの肉体の作り込みが素晴らしい。ハリウッド俳優もかくや、という入れ込みようです。肩から腕の筋肉、きっちり6つに分かれた腹筋、そして過酷な減量を遂げた伊勢谷友介の姿。
 この二人を中心としたボクシングシーンは迫力十分で見応えがあります。もちろんボクシングシーンにはCGが多用されていますし、ノーガード戦法など荒唐無稽なシーンも多々ありますが、それが原作漫画のシーンを鮮やかに思い出させるので、かえってリアルに感じます。
 そして予告編を見たときからあまりにもそっくりで笑ってしまった香川照之丹下段平。もう少し太れば言うことなしでしたが、それにしてもそっくり。しかもそれが荒唐無稽にならずに、納得できる演技をしているところに監督の演出と香川照之の上手さを感じます。

 惜しむらくは、力石戦の後のエンディングまでの流れがやや拙劣でしたね。原作はその後も長く続いていくので処理の仕方が難しかったのでしょうけれども。あともう一点、台詞の聞き取りにくさ。特にジョーと力石の台詞が聞き取りにくくイライラしました。最近の日本映画の演出ではこういう事がしばしばありますが、演技とは別に台詞をはっきりと聞かせる努力を本人のみならずスタッフも心得て欲しいと思います。

 とにもかくにも漫画の実写版としては出色の映画だったと思います。原作ファンは必見です。

評価: C: 佳作
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ))