ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

大鹿村騒動記

Ooshika
 原田芳雄氏の遺作となった大鹿村騒動記」をシネ・リーブルで観てきました。追悼企画なのか、1000円均一というサービスプライスで観られ、客席は8割方埋まっていました。そして、上演中常に笑いが絶えない本当に面白い映画でした。こうして大勢のお客さんで笑いながら見送る事が良い供養となったのではないかと思います。

『2011年 日本映画 東映配給
監督・企画: 阪本順治
脚本: 荒井晴彦阪本順治
原案: 延江浩
主題歌: 忌野清志郎
キャスト: 原田芳雄大楠道代岸部一徳松たか子佐藤浩市三國連太郎

 シカ料理専門店を営む風祭善(原田芳雄)の前に、18年前に駆け落ちをして村を離れた妻・貴子(大楠道代)と幼なじみの能村治(岸辺一徳)が現れる。貴子は前頭葉に疾患を抱えて記憶を失っており、善はそんな貴子を治ともども店に住まわせる。村では善も出演する大鹿歌舞伎の公演を目前に控えていたが、貴子は18年前に演じた役のセリフだけは記憶しており、舞台上で善と向き合うときだけ、昔の姿に戻る。(映画.comより)』

 処女作「どついたるねん」で知り合って以来、いつか原田芳雄の主演作をとりたいと願ってきた阪本順治監督に原田芳雄が長野県・大鹿村に伝わる村歌舞伎を題材にした企画を持ち込み、聞きつけた名優達がこぞって参加し、わずか2週間のロケで撮りきったといいます。だから御手軽身内受け映画かというと決してそうではなく、原田芳雄の遺作として見なくても十分に快作であると思います。

 村歌舞伎と、そこにかかわる村民たちの悲喜こもごもを涙あり笑いありで描き、認知症リニア新幹線性同一性障害、地デジ化等々いかにも現代的な問題も絡めており、それがクライマックスの伝統的歌舞伎の熱演と見事なコントラストをなして観客を引き込みます。

「普通に生きている人が否応なく漂わせるオカシミで観客を笑わせたかった」

という監督の意図は十分に達成され、監督曰くの「フェリーニ的喜劇」になっていました。

  さて俳優さんですが、原田芳雄大楠道代岸部一徳松たか子佐藤浩市三國連太郎石橋蓮司小野武彦瑛太冨浦智嗣、等々出てくる皆さん、みんな御見事。特に歌舞伎を演じられた方々は、たった二日間の練習とは思えないほどでした。そのような芸達者な方々の中でもやはり、認知症になって帰ってきた妻を演じる大楠道代さんは本当に上手いです。

 そしてなんと言っても原田芳雄。普通遺作と言えば特別出演のチョイ役かと思ってしまいますがさにあらず、先程も述べたように、阪本監督との約束どおり、バリバリに主演をはり、村歌舞伎でも主役で大立ち回りで唸らせます。実際は歌舞伎で左肩を脱臼してしまっていたそうですが、それを寸分も感じさせない役者魂には感動。これだけのものを残してあの世に旅立った原田芳雄はやはり役者の中の役者でした。彼がこれを言いたいために歌舞伎を演じたと言う台詞でレビューを閉じましょう。

「仇も恨も是まで是まで」

評価: B: 秀作
((A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)