ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

音楽の在りて / 萩尾望都

音楽の在りて
 「ポーの一族」や「11人いる!」などの傑作で知られ、長年第一線で活躍しておられる女性漫画家、萩尾望都の小説集が出ました。それも30年前に雑誌奇想天外に掲載されていた小説の初書籍化だそうです。まるで表題の小説「音楽の在りて」のように遺跡を発掘していたら素晴らしい音楽が聴こえてきた、という趣のある素晴らしい作品群でした。 

萩尾望都が祝福する世界に、私たちは生きている。
三〇年の時を経ていま甦る、ことばの芸術。
圧倒的な感性で紡がれた、著者唯一の小説集。

著者が二〇代のときに執筆、『奇想天外』に掲載されるや否や話題を呼んだSF小説を待望の書籍化。
人生賛歌ともいえる表題作に、豊かなる想像力に満ちあふれた傑作「ヘルマロッド殺し」。
そして、作者にとって永遠のテーマである「神への挑戦」と「自我の芽生え」を描いた中編「美しの神の伝え」など、
その後の名作マンガとも呼応する一二編を収録した、萩尾望都の原点的作品集。
*「ヘルマロッド殺し」と対をなすマンガ「左ききのイザン」も特別収録! (AMAZON解説より)』

 全体は三部構成に分けられており、Iは著者お得意のSF作品、IIではちょっとホラーがかっていたり、ユーモアに溢れていたり、私生活や当時の漫画の状況を取り巻く現実が描かれていたりとヴァラエティに富んだ作品群が収録されています。

 IIIは「美しの神の伝え」という一篇の中編小説となっており、「創生主=神」と人をテーマに、美しくも儚い、そして一皮剥くと実はむごい世界が、萩尾望都独特の哲学的叙事詩として圧倒的な筆致で描かれている傑作です。

 短編群に関しては、構成的にはブラッドベリの短編や星新一ショートショートの影響を受けている印象がありますが、透明感溢れる詩的で美しい文体は萩尾望都ならではのものでしょう。特に全体を通して感じられる漫画家ならではの絵画的な描写や美しい色彩のセンスは萩尾望都の面目躍如たるものがあります。
 個人的には冒頭の3作品、クローン人間を扱った「ヘルマロッド殺し」、漂流宇宙船で育てられた子どもを救出する「子どもの時間」、ESPが小学校に立てこもった34人の子どもを救出にいく「おもちゃ箱」の傑作3連発でノックアウトされてしまいました。

 20台でこれだけの小説「も」書いていた、萩尾望都、さすがです。