ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

裁判長、ここは懲役4年でどうすか

裁判長!ここは懲役4年でどうすか [DVD]
  私のような職業の人間からすると、「裁判所」というところは決して寄り付きたくないところなのですが、世の中には「傍聴マニア」なる奇特な人種が存在します。裁判員制度が始まり、そのような人たちにスポットライトが当てられ、例えば阿蘇山大噴火という芸人が今は無き「エンタの神様」で傍聴した裁判をネタに人気を博したり、北尾トロなるルポライターが「裁判長、ここは懲役4年でどうすか」「裁判長!これで執行猶予は甘くないすか」といった本を出版して話題になったリしております。かく言う私も面白く読んだ口なのですが、このたびその北尾トロさんの原作を元に映画が作られ、DVDになりましたので観てみました。

『 2010年 日本映画

監督 豊島圭介 
脚本 アサダアツシ 
原作 北尾トロ 
主題曲/主題歌 バービーボーイズ 

キャスト
設楽統、片瀬那奈螢雪次朗

三流ライター南波タモツ(設楽統)はある日、映画プロデューサーの須藤光子(鈴木砂羽)から “愛と感動の裁判映画”の脚本執筆を依頼される。その取材のために生まれて初めて裁判所に足を踏み入れるが、法廷の中は“愛と感動”どころの騒ぎではなかった……。』

 原作は一話一話が独立したエッセイなので、全体を貫くような物語はありません。それでは一本の映画として持ちこたえられないと考えたのでしょう、まず前半は原作に良く似たエピソードを細かく重ねていき、後半には傍聴マニアである事を美人検事に罵倒された主人公が周囲の傍聴マニアを巻き込んで冤罪事件に真面目に取り組み、傍聴者も裁判に影響を与える事ができるのだ、と言うことを証明しようとするドラマ仕立てにした映画構成となっています。

 そういうわけで前半は細かいコントをつなげたような流れとなっています。傍聴人のいない法廷のだらけた雰囲気、何が何でも正午には終わりたい裁判官、大根掘りの些細な喧嘩からはずみで友人を何と大根で撲殺してしまったごく普通のサラリーマン、覚醒剤常習の女の今回は「歯が痛くて」打ってしまったという情けない言い訳、社会見学の女子学生で埋まった傍聴席を見てやたら張り切る裁判官、交通死亡事故の両親の証言の日に場違いな服装で現れる実は朴訥な男、大真面目でエロビデオの題名をとうとうと読み上げる検事、万引きした3本のうち1本はあくまで「ついでに」だったと懸命に主張する万引き犯等々。。。
 とこう書くと、あまりのトホホな展開に笑いが止まらない感じがしますが、残念ながら笑いきれないもどかしさがありました。演出のレベルが中途半端で笑いも涙も取りきれない上に、原作エッセイより随分浅く描かれていて物足りない。そして主人公の生活、傍聴マニアとの交流や美人検事ネタなどが間に挟まれるので、相乗効果も得にくくなっています。まあ笑いをとるための映画ではないと言えばそれまでなんですが。

 後半、主人公が美人鬼検事の片瀬那奈から「楽しいでしょうね、他人の人生を高みの見物して!」ときつい言葉を浴びせられてから、傍聴席で知り合った傍聴マニアたち“ウォッチメン”のメンバーと共に、母親が懸命に冤罪を裁判所前で訴えている痴漢事件に取り組み始めてからの、ドタバタ劇と最後のどんでん返しは馬鹿馬鹿しくはありますが結構面白く見ることができました。

 キャストは2、3人を除いてはいかにもB級映画という布陣です。主役を演じたバナナマン設楽統は漫才とは異なり、地味でそこはかとないペーソスを感じさせる演技で、物足りないといえば物足りないけれど、そこそこ見せてくれました。

 裁判員制度も既に定着してきたのか、この頃はあまり話題にもならなくなりましたが、実際の法廷はこんなもんだということを面白おかしく知っておくにはいい教材だと思います。でもまあ、例えば「それでも僕はやってない」などに比べると、どう見てもB級映画ではあります。レンタルでお気軽に見る分にはいい映画であると思いますのでお暇があれば是非どうぞ。

評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)