ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

So Beautiful Or So What / Paul Simon

ソー・ビューティフル・オア・ソー・ホワット
  ポール・サイモンの新作が話題になっているので購入してみました。以前S&Gのライブを紹介したことがありましたが、あれからもう40年以上の歳月が流れ、彼も今年の10月には70歳を迎えるそうです。アメリカ音楽界の御大と呼ぶにふさわしい存在かと思うのですが、最近のインタビューを読んでみると「いつまでもボブ・ディランに次ぐ2番目の存在として扱われて嫌になる」とこぼしています。彼ほどの存在になっても悩みは尽きないんですねえ。

1. Getting Ready for Christmas Day 
2. The Afterlife 
3. Dazzling Blue 
4. Rewrite 
5. Love and Hard Times 
6. Love Is Eternal Sacred Light 
7. Amulet 
8. Questions for the Angels 
9. Love & Blessings 
10. So Beautiful Or So What 
11. So Beautiful Or So What  (Live Rehearsal)(Japanese Bonus Track)

Produced By Phil Ramone and Paul Simon

 さて、二重螺旋っぽい光のジャケットが美しい新作は、70年代からの付き合いとなるフィル・ラモーンとの共同プロデュースで、宣伝文句を借りると、「ラテン、レゲエ、アフリカン、ボサ・ノヴァ、クラシック、エレクトロといった多様な音楽を飲み込んだ、じつに意欲的なサウンド」となっています。おまけにライナーノートをエルヴィス・コステロが書いており

「この、注目すべき、思慮深く、喜びに溢れるアルバムは、ポール・サイモンの最も素晴らしい作品として認識されるに値する(佐藤空子訳)」

と絶賛しております。
 ちなみに日本盤を購入しましたが、その理由は二つあって、一つはSHM-CDで音質が良さそうだ、という点、もう一つは彼の常で衒学的な難解な歌詞だろうから解説があった方がいいだろうと思ったことです。解説は天辰保文氏が書いておられます。これが実に誠実で丁寧な解説です、さすがアマタツさん、ありがとうございます。

 一曲目「Getting Ready for Christmas Day」は昨年のクリスマスシーズンに一足先に発売されており、ゴスペルシンガーでもあったJ.M.ゲイツ神父の1941年の説教を違和感無く織り交ぜつつポールらしい辛辣なクリスマスソングに仕上げています。というとどうしても「7時のニュース/きよしこの夜」を思い出しますが、あれほどの政治的メッセージ性は無く、どちらかと言えば一休禅師の「門松は冥土の旅の一里塚」的な諧謔を、軽快なリズムに乗せて歌っております。

 その後の曲でも、彼独特の少し哀愁と湿り気を帯びたボーカルの背景に、一曲ごとに趣向を凝らして、様々なワールドミュージックの持つ独特のリズム感を取り入れています。サイモン&ガーファンクルの音楽はメロディの美しさが際立っていたように思うのですが、ポール自身はリズム・コンシャスな人だったようで、ソロ第一作の「母と子の絆」はいち早くレゲエ(当時はレガエと書いてあった記憶があります)を取り入れ、「グレイスランド」を発表した時には絶賛の声と裏腹に「ワールド・ミュージックの搾取」と批判されたことさえありました。しかし文字通り「時の流れに」そのような批判も流れ去り、このアルバムで彼の吸収してきたリズム感が集大成されている印象を受けます。

 歌詞や題名には「」や「」が多用されていていささか説教くさい感じもしますが、まあこのような歌詞でポップ・アルバムを作れるのは彼ならではでしょうね。

 というわけでバラエティに富み過ぎて最初はやや散漫な印象を受けましたが聞き込んでいくほどにそれぞれの歌の良さが身に沁みて来る、さすがポール・サイモン、と言うに相応しいアルバムだと思います。

 音質的にもSHM-CDという先入観かもしれませんが、難しいリズムの隅々まで見通せる好録音だと思います。ただ、彼はあまりベースにあまり重きを置かないので低音が好きな方には多少物足りないかもしれません。