ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

十三人の刺客

十三人の刺客 通常版 [DVD]
 昨年の時代劇の中でも評価の高かった「十三人の刺客」のDVDがレンタル開始になったので早速観てみました。確かに久々に時代劇らしい時代劇を観た、という満足感は有りましたが、やり過ぎかな、と思わないでも無かったです。

『2010年日本映画 PG12指定

監督:三池崇史 
原作:池宮彰一郎 
脚本:天願大介

キャスト:
役所広司 山田孝之 伊勢谷友介 伊原剛志 松方弘樹 / 稲垣吾郎 市村正親

弘化元年。明石藩主・松平斉韶の暴君ぶりに土井家は斉韶暗殺を決断。その目付役を命じられたのは島田新左衛門。島田は刺客集めに乗り出す。一方、斉韶の腹心・鬼頭半兵衛が暗殺の情報を掴む。13人の刺客は、明石藩の参勤交代の道中を迎え討とうとするが……。(ピア映画生活等より)』

 実はこの映画は1963年に工藤栄一監督が撮った同名の『十三人の刺客』のリメイクです。だからかもしれませんが、最近の映画にありがちなロマンスや人情話などは一切無しの典型的な勧善懲悪のチャンバラ劇となっておりました。

 三池崇史監督は「ヤッターマン」のようなコメディから「クローズZERO」「ゼブラーマン」、更には極道モノ、時代劇まで幅広いジャンルをこなせる多才器用な方で、このようなシリアスなそして暴力的な映画でもその実力を遺憾なく発揮しております。
 特に本作前半では「グロ」の部分でその演出の才を発揮しており、公開当時極悪非道の明石藩主を演じる稲垣吾郎の悪役ぶりが話題になったのを覚えておられる方も多いかと思います。実際、明石市から実在の松平斉韶公はあれほどの暴君ではなくむしろ名君であった、と正式に抗議がなされたくらいです。
 いきなり何の説明も無くいきなり惨い切腹シーンで幕を開け、その後もこれでもかと目を背けたくなるシーンが続きます。なまじ今はVFXが発達しているので、両手両足を切られ慰みものにされた裸体女性シーンなどリアル過ぎて気持ち悪くなるほど。賛否両論はあるでしょうが、私は好きでないです。

 一方後半では「手に汗握り、ハラハラドキドキ」という時代劇映画の王道が見事に描かれます。
 街道沿いの田舎宿場一つを丸ごと買い取り、13人で総勢200人余の明石藩兵を迎え撃つ、という大立ち回りが編集しても50分以上というのは撮影はスタッフ、キャストとも大変だったであろうと思います。
 何しろ13人いますから各々の個性の描き分けは難しいですが、時代劇に長けた松方弘樹伊原剛志二人を配するだけで見事なチャンバラ劇に仕立てるあたりは巧いやり方だと思います。
 それに加えるスパイスとして今脂の乗り切った山田孝之伊勢谷友介に個性的な演技をさせるところも憎いですね。特に伊勢谷友介に侍ではなく山男を演じさせたのはとても面白かった。それにしても刀で頚部を貫かれて死んだはずなのにそのあとぴんぴんしてるのはいくらなんでも不死身過ぎやしないか?

 最後は主役の役所広司市村正親のライバル対決。これも二人の名優の演技が画面を引き締めていました。そしてついに極悪非道の稲垣吾郎を討ち取り、勧善懲悪劇が完遂され、観る者がカタルシスを得るわけです。
 が、前作が公開された1960年代ならともかく、今の時代、役所広司

切って切って切りまくれ

という檄に素直に頷けない観客も多いんじゃないでしょうか?敵方200人余のうち極悪人は藩主一人、家臣を「切って切って切りまくる」大義がどこにあるの?と思ってしまった人も多いはず。

 というわけで時代劇らしいと言えば時代劇らしい、しかしやり過ぎと言えばやり過ぎ、の感が拭えない一本でした。

評価: D: イマイチ
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)