ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ダンシング・チャップリン

Dancingchaplin
 周防正行監督の新作を観てきました。『Shall We ダンス?』『それでもボクはやってない』などの名作を手がけてこられた方ですが、世界的バレエダンサー草刈民代さんを細君に娶ったのはだてではなく、ついにどっぷりバレエにハマった映画を作ってしまわれました。
 選んだ作品は、世界的な振付師ローラン・ブティチャップリンの映画世界をバレエ化することを思いつき、これまた世界的男性ダンサー、ルイジ・ボニーノのために構築した「ダンシング・チャップリン」です。
 2時間あまりの映画にしては珍しく、途中で5分間の休憩を挟む二幕構成となっています。

「 2011年、日本映画

監督 周防正行

出演
ルイジ・ボニーノ、草刈民代、ジャン=シャルル・ヴェルシェール、ユージーン・チャップリンローラン・プティン他

周防正行監督の最新作。世界的に有名な振付師、ローラン・プティ喜劇王チャップリンの名作を基に構築したバレエ作品“ダンシング・チャップリン“を女優・草刈民代主演で映画化。盲目の娘や子供など、全7役を演じ分けた彼女の姿は圧巻。舞台裏も垣間見ることの出来る2幕構成となっている。第一幕では、周防監督とR・プティの対話や、草刈民代のほか海外のダンサーが多数参加した60日間のリハーサルの模様などを収録。第二幕では、『ライムライト』『街の灯』『モダン・タイムス』といった名作を下敷きにした13演目のバレエが映し出されていく。(シネマ・トゥデイ等より) 」

Sn3n0025  

第一幕「アプローチ
 第一幕は企画段階から本番直前までの舞台裏をドキュメンタリータッチで映像化しています。周防監督の思い、プティやユージン・チャップリンとの交渉、悩む草刈とアドバイスを送り続けるボニーノ等を見る事ができますが、昨今のDVDのおまけなどに良くある「メイキング」をかっちりと構成しただけ、という気もします。
 確かにこの一部があってこそ二部の理解も深まります。例えばプティが警官のダンスを公園でロケしたいという周防監督の希望を当初は絶対に認めなかったことに見られる、舞台監督と映画監督の主観の違い、「空中のバリエーション(モダン・タイムスより)」のリフトの難しさに悩む草刈正代の姿など。
 とはいえ、正直なところ第一部として延々メイキングを見せられるのは少々、というか、かなり退屈。もう少し短く切り上げても良かったのでは?

第二幕「バレエ
 いよいよ本編。本来2幕20演目であった舞台を1幕13演目にまとめています。この第二部は周防、草刈夫妻の意気込み、執念とボニーノの名人芸が見事に融合し、完璧なバレエによるチャップリンの映画世界の完璧な映像化に成功していて、圧巻です。

 ボニーノの名演技はもとより7つの役を演じ分ける草刈民代のダンスも完璧。先ほど述べた「空中のバリエーション」や一番長く充実している「街の灯」は惚れ惚れしてしまう程の圧巻の演技で感動しました。
 公園での警官のダンスのロケーションも成功していると思いますし、ラストシーンで公園の一本道を去っていくボニーノの映像はモダンタイムスなどを髣髴とさせてとても印象的で、これぞ映画ならではのシーンと思いました。

 敢えて不満点を述べるならばあまりにもオーソドックスに真正面(観客席側)から撮り過ぎて、役者の躍動感を伝える映画ならではのアングルやカット割りに欠ける事。これはおそらく周防監督とプティの間の取り決めごとであったのでしょうから仕方ないところはあると思います。

 以上、バレエに興味があり、更にはチャップリンの映画を良く観ている方ならば、きっと満足できる映画だと思います。でも述べてきたように特殊な題材・構成の作品ですので、映画としての評価はとても難しいです。無難に中庸の「佳作」とさせていただきます。

評価: C 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)