ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーという2大人気俳優をキャスティングしたサスペンス映画「ツーリスト」を家内と観てきました。
こういう豪華キャスト映画にありがちなことですが、向こうでは悪評プンプンなようで、どこかの賞では「コメディ賞」にノミネートされたとか。確かにジョニー・デップはティム・バートンとのコンビ以外の映画は(パイレーツは別にして)あまりぱっとしない事も多いですし、アンジェリーナ・ジョリーといえばその美貌にも関わらずアクション女優的イメージが付きまといます。
でも先に結論を言うと結構面白くて見て損はなかったです。何よりもベニス(ヴェネチア)の街の美しさだけでも観る価値がある。帰りに家内とJTBに立ち寄ったほどです。すぐあきらめましたが(苦笑。。。
『2010年 アメリカ・フランス映画
キャスト:アンジェリーナ・ジョリー ジョニー・デップ ティモシー・ダルトン ポール・ベタニー
傷心を癒やすためイタリアを訪れたアメリカ人のフランク(ジョニー・デップ)は、ベニスに向かう車中で上流階級の美女エリーズ(アンジェリーナ・ジョリー)に声を掛けられる。魅力あふれるエリーズに誘われるがまま、アバンチュールに酔いしれるフランク。しかし、それはすべて仕組まれたわなだった……。』
まあ何が驚いたといって、監督が旧東ドイツのシュタージを描いた心理ドラマの傑作「善き人のためのソナタ」を撮ったフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクである事に腰を抜かすほど驚きました。例えて言うなら今村昌平が「踊る大捜査線」を撮るようなもんでしょうか。
その彼の趣味が出ているのでしょうか、超一流ハリウッドスターの共演サスペンス・アクション映画でありながら、予算を使いきってしまえ的ど派手な銃撃戦や何台車を壊したら気が済むねんといったカーチェイスは出てきません。そのあたり同じくトム・クルーズとキャメロン・ディアスというハリウッド二大人気俳優が共演した馬鹿馬鹿しい程無茶苦茶なアクション映画「ナイト・アンド・デイ」とは対照的です。まあどちらが良い悪いの問題ではありませんけれどもね。
映画はまずパリの街角のカフェから始まります。この美しい風景だけでもう旅情ロマン満点です(笑。そこに現れる謎の美女エリーズ(アンジェリーナ・ジョリー)、彼女を四方八方から見張っているパリ警察。彼女は国際指名手配犯アレクサンダーの恋人であり、彼が接触してくるのを当局は狙っているわけです。
定石通りの手紙による指令と優雅な逃亡で、舞台はリヨン発ベニス(ヴェネチア)行きの超特急内に移ります。この列車が疾走するフランスの田舎の美しい風景も豪華な車内も見逃せません。
アレキサンダーはロシアのマフィアからくすねた莫大な金で整形しており、当局も正体をつかみかねていることを利用し、エリーズに自分に似た体形の男をつかまえて同行するよう手紙で命じていました。エリーズは車内で平凡なアメリカ人数学教師のフランク(ジョニー・デップ)を誘惑し、見事陥落させてしまいます。まあアンジーほどの美貌があれば楽勝ですが、彼女がフランクを食堂車でのディナーに誘う際の会話がしゃれていて楽しめます。パリ上流階級の美女が田舎者の野暮なアメリカ人を軽くいたぶっているようで、欧州人には快感でしょう、多分。
さてそうこうしているうちに、当局はフランクの撮影に成功し英国スコットランドヤード、イタリア警察当局、更には内通者を通じてロシアンマフィアにまで彼の顔写真が知られる事になります。そんなこととも知らずフランクはベニスに到着。エリーズとともに超高級ホテルのプルーストやバルザックも宿泊したという超高級スイートで一夜を明かす事になりますが。。。
その後は一応サスペンスドラマらしく、ラブシーンあり、パジャマでの逃走シーンあり、ヴェニスの象徴である運河でのボートチェイスシーンありで、エリーズ、フランク、警察、ロシアンマフィア四つ巴のアクションシーンが展開されます。とはいっても先ほども述べたように節度ある抑制の効いた活劇に終始し、印象に残るのはベニスの街の美しさ。やっぱり旅情ロマン(笑。個人的にはジョニー・デップがパジャマで屋根の上を逃げるシーンでの走り方がパイレーツのスパロウ船長にちょっと似ていて面白かったです。
まあお決まりのどんでん返しについてはまだ公開されたばかりなので語らないのがエチケットでしょう。家内も「やっぱりね~」と言ってたくらいですからヒッチコック以来の伝統を引き継いだ王道的どんでん返しと申しておきましょう。前田有一も超映画批評で皮肉たっぷりにこう評しています。
『上映時間も短いし腹八分目の内容。美しい景色に美しいスターたち。こうした映画の良さがわかるのは、やはりオトナの観客といえるだろう。』
個人的には音楽も良かったです。エアポートで一旦二人が別れる際に、ケイティ・メルアの「No Fear Of Heights」が流れたのも高得点!
また語学が堪能な方にはウィットに満ちた脚本も笑えます。ネット友人のたかけんさんもご覧になったそうで、こんな感想をご自身のHPの日記に記しておられます。許可を得て転載させていただきます。
『面白かったのはアメリカ人ツーリスト(ジョニー・デップ)がイタリア語のつもりで、あるいはラテン語系だから似たようなもんだろうと、スペイン語で「ありがとう」だの「すみません」だのを連発してたこと。これにはホテルのクラークがちゃんとスペイン語で返してから「バカなアメリカ人め」と呟くシーンがあります。こういう風に、アメリカ人はバカだという風刺は結構アメリカ映画によく出てくるので、半ば自虐的ではありますが、案外アメリカ人自身にも浸透している認識のようですね。
ちなみにパジャマ姿で殺し屋から逃げまわるツーリストが叫んでいるのはカッコ付き字幕で(すいません)とあったが、あそこで彼が言っていたのはスペイン語のLo siento<ロシエント> 、でも本当ならばイタリア語のscusa<スクーザ>なのですね。』
というわけで、ヒッチコック世代のおじさんおばさんにはうってつけのサスペンス映画でした。
評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)