ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

英国王のスピーチ

Kingspeech
はむちぃ: 皆様こん**は、本日は本家アカデミー賞最優秀作品賞の本命と目される「英国王のスピーチ」のレビューでございます。
ゆうけい: 先日ご紹介した「ソーシャル・ネットワーク」との一騎打ちとの下馬評でございます。トレイラーを観るとなかなかよさそうでしたし、ゆうはむレビュー常連のヘレナ・ボナム=カーターも出ておりますし、アカデミー賞発表前に観ておこうかと思いました。
は: では早速作品紹介参りましょう。

『 2010年 イギリス=オーストラリア製作
監督 トム・フーパー 
脚本 デイヴィッド・セイドラー 

キャスト:
ジョージ6世: コリン・ファース 
ライオネル・ローグ: ジェフリー・ラッシュ 
エリザベス: ヘレナ・ボナム=カーター 

イギリス女王、エリザベス2世の父であり、幼い頃から吃音に悩まされ、人前に出ることを嫌う内気な性格から王になることを望まなかった男、ジョージ6世。その実話をコリン・ファース主演で映画化した人間ドラマ。ジョージ6世がスピーチ矯正の専門家と出会い、やがて強く優しい国王へと成長していく姿を描く。(Movie Walker等より)』

は: 尊厳に満ちた英国王室とオーストラリア出身の平民の心の交流を丁寧に描きこみ、観る者の心に静かな感動を呼ぶ映画でございました。
ゆ: 「ソーシャル・ネットワーク」が「」ならばこちらは対照的に「」の映画ですね。その分若干小品の印象を受けますし、ちょっと意地悪な見方をすればアカデミー賞選考委員好みではあるでしょうね。とは言え、珠玉の良品である事に異論はございません。
は: 英国らしい適度なユーモアも交えておりましたし。
ゆ: 映画館は満員でネイティブの方も多く鑑賞されておられたんですが、ビックリするくらいしょっちゅう大笑いされておられました^^;。

は: さて、通常公開されたばかりの映画のストーリーはなるべく語らないのがこのレビューの掟なのですが、
ゆ: トレーラーを見ただけで殆ど分かってしまうくらいシンプルなストーリーなので、今回は話をある程度忠実に追いかけてみましょう。

は: 冒頭ではジョージ5世が存命であり、コリン・ファース扮する次男のアルバート様はデューク・オブ・ヨークでいらっしゃいます。
ゆ: ジョージ5世はアルバス・ダンブルドアですね(笑。ちなみにチャーチルはワームテイルでございました。
は: 正しくはマイケル・ガンボン様とティモシー・スポール様でございます(-.-)。話を戻しましょう、主人公は幼少期の心の傷がもとでひどい吃音となり、にも拘らずジョージ5世は様々な式典のスピーチを彼に命じるのですが、やはり殆どできなくて失敗を重ねます。
ゆ: コリン・ファースの吃音の演技は実に素晴らしかったですね、原因となる心の傷を背負っている影もきっちり表現していましたし、吃音ゆえの癇癪をしばしば爆発させるところも巧みに演じていました。

は: さて、夫の吃音に悩む姿を見かねてロンドン中の言語聴覚士を探し回るのが、美しい妻エリザベス様(現エリザベス女王の母)でございます。
ゆ: この役をヘレナ・ボナム=カーターが演じているのですが、最近はエクセントリックな役作りばかりを観続けてきましたので、今回の彼女の素の美しさは新鮮でした。一途に夫を支え続ける妻を演じる彼女の演技力はもう折り紙つきですから何も言うことはないのですが、特にラストの国王のスピーチの後、ライオネルに対し身分とプライドの垣根を越えて初めて「ライオネル」と呼びかける場面は感動的でした。

は: しかし言語聴覚士による治療は悉く失敗し、スピーチ矯正専門家・ライオネル・ローグに辿り着きます。実は彼は正式なドクターではなく、後半でその事で一揉めはあるのですが、それはおいておきましょう。彼はオーストラリアで役者をしていたのですが、英国に移住してからは残念ながら芽は出ませんでした。しかし、言語障害に陥ってしまった戦争紳神経症の友人の発声指導を手伝った際に、心の傷に耳を傾けて語らせることにより回復させた経験を元にスピーチ矯正を仕事とするようになりました。
ゆ: このライオネルを演じるオーストラリア人ジェフリー・ラッシュがこの映画のもう一人の主人公です。いろいろな助演賞を獲得しているようですが、頷ける演技であるとともに主演賞でもいいのではないかと思うくらいです。

は: さてそのようなライオネル独特の治療法の根本は、相手と対等の立場に立ち、友人として心の交流を図り、相手の心の悩みを引き出すところにあります。
ゆ: よりによってそのやり方を一番してはいけないはずの皇太子が患者になってしまったわけですから大変です。にもかかわらずライオネルは平然と皇太子をアルバートの親称である「バーティ」と呼ぶことをルールとしてしまいます。
は: おおそれながら日本の現皇太子様を「浩ちゃん」とお呼びするようなものですから、ヘタすると不敬罪で即監獄行きですね。
ゆ: 当然ながら皇太子ははじめは戸惑い、怒り、最後は癇癪を起こし激怒して帰ってしまいます。当人たちは大変でしょうがこのあたりのユーモア溢れるやり取りがネイティブの方には大受けしてましたね。

は: ところがその時にある方法を用いて「ハムレット」の一節を録音したレコードを後日聞き返してみてビックリ、完璧に朗読できていたのです。
ゆ: その方法は見てのお楽しみですが、外部からの五感の情報や自身の恐怖心をシャットアウトする環境さえ作れば、普通にしゃべることができる。この事実を明らかにしてくれたライオネルの元に皇太子は戻り、それから彼との特訓が始まります。この「無言」の戻り方もなかなかユーモラスでよかったですね。

は: ところが彼の周囲の状況は刻々と変化していました。父王が死去し、兄エドワードは王位を継承したものの離婚歴のある女性との結婚を選び王位を去ってしまいます。
ゆ: となると当然弟であるアルバートが国王に即位しなければなりません。悩む彼と公園での散歩中ライオネルは即位の決断を迫りますが、どう考えてもこれは行き過ぎた干渉であり、さすがのアルバートも怒ります。もう二人の関係は終わりだとライオネルに告げ彼は歩み去ります。この別れのシーンのカメラワークは本作の白眉ともいえる素晴らしいシーンでした。歩み去るアルバートにフォーカスを当て、立ち止まってしまうライオネルの姿が段々とぼやけていく、二人の心の距離が段々と離れていくことを象徴しておりました。

は: しかし王位継承評議会のスピーチでも失敗した「ジョージ6世」は、やむを得ずライオネルの元に訪ね指導を請います。ここでのやりとりで、初めてジョージ6世は自らの幼少期の心の傷をライオネルに語ります。
ゆ: ついに二人がお互いに心を完全に開き合う場面であり、先ほどの別れのシーンがカメラワークの白眉なら、こちらは監督の演出、そして二人の俳優の演技の白眉でした。

は: さて彼が王位を継承した頃はナチスドイツが台頭しており、世界情勢も緊迫の度を加えておりました。イギリスでも親ナチス政権が総辞職しチャーチルを中心として対ナチス体勢が出来上がり、ついにドイツへ戦線布告します。
ゆ: 国民の団結を呼びかけるため国王ジョージ6世はラジオを通じて戦いの正義を呼びかけることになります。これがこの映画のクライマックスであり、映画の原題である「King's Speech」です。
は: さすがにこの先を語るのは野暮と言うものですので、是非映画をご覧くださいませ。
ゆ: 一点だけ、家族で映画ニュースのヒトラーの演説を見ていてがお嬢さんに「何て言ってるの?」と訊かれ、

「言葉は分からんが演説は上手いな」

と彼が答える場面は面白いとともにしんみりとしましたね。

は: というわけでございまして、演出、脚本、俳優、カメラワーク等様々な面で優れた映画であると思いましたが他に印象に残った点はございますでしょうか?
ゆ: 静かなピアノの旋律が印象的なメインテーマや、各所に散りばめられたクラシックの名曲など、音楽も良かったですね。
は: クライマックスではベートーベン交響曲7番第2楽章が流れるのですが、戦争相手のドイツの音楽でございますね、
ゆ: それが皮肉ともなんとも感じさせないほどぴったりとあっていて雰囲気を盛り上げていきましたね。

は: 以上、アカデミー賞各賞の候補にノミネートされるのも当然の傑作と申せましょう。ご評価お願いします。
ゆ: 異論はないんですが、あくまでも映画としては小品だと思うんですよね。賞レース云々をあまり気にせずにご覧になることをお勧めします。

評価: B: 秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)

追記: 第83回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞と4冠を獲得しました。