ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

日輪の遺産 / 浅田次郎

日輪の遺産 (徳間文庫)
 またまた映画化小説ネタなんですが、今年堺雅人主演で浅田次郎の「日輪の遺産」が映画化されるそうです。以前酷評した映画「地下鉄(メトロ)に乗って」も発刊後随分経ってからの映画化でしたが、これはそのまだ前と言う古い小説です。今回の監督の佐々部清さんが助監督時代最後の仕事が「鉄道員(ぽっぽや)」だったそうで、浅田次郎の小説には思い入れがあるのでしょう。私も浅田次郎の大ファンではあるのですが、先日の「マンチュリアン・レポート」がイマイチだったので口直しがてら読んでみました。

帝国陸軍マッカーサーより奪い、終戦直前に隠したという時価200兆円の財宝。老人が遺(のこ)した手帳に隠された驚くべき真実が、50年たった今、明らかにされようとしている。財宝に関わり生きて死んでいった人々の姿に涙する感動の力作。ベストセラー『蒼穹の昴』の原点、幻の近代史ミステリー待望の文庫化。(AMAZON解説より)』

 太平洋戦争末期の財宝探し譚という点では、上記解説の「蒼穹の昴」の原点というよりは「シェエラザード」の原点という気もしますが、どちらかというと宝探しよりも太平洋戦争末期から終戦直後の人物群像を感動的に描くことに主眼が置かれた、浅田次郎らしい泣かせる小説です。そういう意味では確かに「蒼穹の昴」の原点かもしれません。

  1992年年末の有馬記念金策に四苦八苦し起死回生の賭けに出ようとしてし損なった不動産屋の丹羽は、その原因となった謎の老人とやけ酒を飲んでいたが、突然その老人が心臓発作を起こして死んでしまい、途方にくれてしまう。しかしその老人から託された一冊の古い手帳には、すぐそこに見える山中に終戦間際に秘匿した莫大な財宝が隠されていると記してあった。。。

 その死んだ老人は真柴という終戦当時の少佐で、敗戦を前に陸軍上層部から、マッカーサーから奪い取った財宝の秘匿を託された責任者であった。その作戦のメンバーは運転手の軍曹を入れて3名、秘匿にかり出されるのは女学生35名とその引率の教師。しかもその女学生たちに任務終了後青酸カリを飲ませてその秘密を隠匿しなければならないという指令が下るに及び苦悩する真柴。

 と、なかなか面白い導入部から始まり、1945年と1992年が交互に描かれる構成は緊密でスリリングに話は展開進行して行きます。描写には上手くそれぞれの時代の雰囲気を出しており、このあたりはさすがの筆力です。

 しかしマッカーサーがいよいよ財宝奪還に乗り出したあたりからやや話が単調でかつマッカーサー賛美的になり、ラストでついに過去と現在が交錯するところまで、浅田次郎にしてはやや面白みというかコクに欠ける印象を受けます。
 エピローグの女学生の語りに泣けるかどうかはそれまでの物語にどれだけ感情移入できるかどうかによると思うのですが、個人的にはあと一歩ストーリーの構成力が足りないのではないかと思いました。

 実際浅田次郎氏も文庫版あとがきにおいて、「若書き」で人物を使いこなせず文章の稚拙な部分もあり、今なら書き直したいところが多い、と述べています。それでも書き直さなかったのは

「へたはへたなりに涙ぐましい努力を払っている」

と感じたからだそうです。そう言われればそうですね(苦笑。若書きである事を差し引けば、良くできた宝探し譚であり人間ドラマであると思います。

 さて映画化ですが、そのような小説をどう料理するか。若書きで稚拙な部分をそのままなぞる必要はないわけで、「半落ち」等泣かせる映画の得意な佐々部清監督の手腕に期待したいと思います。それにしても堺雅人は超売れっ子ですね。。。。クヒオ大佐は笑わせてくれましたが、真柴少佐のイメージとはちょっと違うような。。。ま、期待して待ちましょう。