ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

白夜行 / 東野圭吾

白夜行 (集英社文庫)
 堀北真希高良健吾の二人が主役で東野圭吾の「白夜行」が映画化され、もうすぐ公開されるとのことなので読んでみました。集英社文庫で何と800ページ以上あり、辞典か!と言うほど分厚くて持ち運びにくい。1、2週間かかるかな、と憂鬱になるほどでしたが(苦笑、わずか二日で読めてしまえました。それだけ読者をグイグイ引っ張っていく力を持つ小説だとも言えるし、平易で読みやすい文章だとも言えます。

『前作「秘密」で、温かくて切ない物語を紡いだ東野圭吾が、今回は読む者の心を冷え冷えと切なくさせる。 1973年に起こった質屋殺しがプロローグ。最後に被害者と会った女がガス中毒死して、事件は迷宮入りする。物語の主人公は、質屋の息子と女の娘だ。当時小学生だった二人が成長し、社会で“活躍”するようになるまでを、世相とともに描ききる。2人の人生は順風満帆ではなく、次々忌まわしい事件が降りかかる……。当然ミステリーだから謎が隠されているわけだが、真相は途中で暗示されてしまう。しかし謎の存在などどうでもよくなるほどのスケールの大きさが読後に残る。(石飛徳樹、AMAZON解説より)』

 オイルショック当時からの世相を(ややとってつけた感はありますが)上手く絡めたり、カセットテープが記録媒体だったころからのコンピューターの進化を物語と同時平行で説明したりと、なかなか面白い仕掛けも周到に用意してあり、私のような世代には懐かしくかつ実感を伴って読めましたが、全体を覆う空気は暗く湿っており、どうしようもなく陰鬱。解説の馳星周が「ノワール」小説と表現している通りです。この小説にあえて「白夜行」という題名をつけた著者のセンスは見事だと思いますが。

 殺人事件の被害者の息子と、自殺する容疑者女性の娘は当時小学生。その二人の中学生、高校生、大学生、成人時代を克明に著者は描いていくのですが、その都度何かしら事件が起こり、著者は疑惑が主人公二人に向けられるように小出しに手がかりを示していきます。だから中盤にかかる頃には、一件接点のないこの二人が実は最初から、それもおそらくは最初の殺人事件の時からつながっており、次々と起こる陰湿な事件には悉く二人が絡んでいる、と読者は把握していきます。

 丁度コミカルなマジックで少しずつ種明かしをしつつ、最後にはあっと驚かせるというあの手口に似ているな、と思いながら読み進めていました。となると最後のあっというネタ明かしは何かと言うと、最初の殺人事件の真相と言う事になります。その真相を終盤で著者は垣間見せるのですが、主人公女性の仕組むその手段の陰湿で残酷でえげつないことといったら気分が悪くなってしまいます。

 この二人の小学生時代の家庭環境に彼ら二人の性根の悪さの原因があることには同情の余地はあり、しかも外堀を埋めるように事件を客観的に描写する事に終始し、この二人の真の心情は決して語られる事が無いため、彼らへの感情の移入度は読者の読み方に委ねられます。なかなか上手いやり方だとは思いますが、私は終始この二人には感情移入しにくかったです。

 ということで、19年にも及ぶ長い期間の二人の心の闇の深さを敢えて二人に語らせることなく終わってしまう事によってそれなりに深い余韻を残す小説ではあると思うのですが、ではこれを映画にすると、この心の闇を上手く描けるのか?19年の物語をどう取捨選択するのか?最初の殺人事件の原因となる背徳的・非倫理的な真相をどこまで描くのか?そして堀北真希はどの年代から上を演じるのか?いろいろと興味は尽きません。機会があれば劇場に出かけていって確認したいと思っております。