ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Resonance / Helene Grimaud

Resonance
 今月来日する「美しすぎるピアニスト」、エレーヌ・グリモーの新譜です。コンサートもこのとおりの演題らしいので、一足先に予習がてら聴いてみました。「共鳴」と題された今回の新譜のテーマはオーストリア-ハンガリー帝国時代精神を映し出した偉大な作曲家の作品の系譜だそうです。モーツァルト、ベルク、リスト、バルトークがとりあげられています。

Mozart: Piano Sonata No.8 in A Minor
1. Allegro maestoso 
2. Andante cantabile con espressione 
3. Presto 

Alban Berg
4. Piano Sonata op. 1 

Franz Listzt
5. Piano Sonata in B minor S 178 

Bela Bartok: Romanian Folk Dnace
6. Allegro moderato 
7. Allegro 
8. Andante 
9. Moderato 
10. Allegro 
11. Allegro 

 グリモーのタッチ、演奏スタイルは独特で、私のようなど素人にはどう評してよいやら途方にくれてしまいますが、幸いステレオサウンドの今季号で東条碩夫先生がレビューされているので、よすがとさせていただきます。

「鮮やかな感性」
「こういう並べ方を思いつくことからして感覚の冴え」
「明晰清澄な、鋭く切り込むような、しかも瑞々しく起伏躍動する表情に溢れた」

 ふむふむなるほど、その通りです。ただそのように表現されるピアニストは結構いると思うのですが、その中でも独特な感覚をお持ちのように思います。共感覚(音が光に見える)の持ち主という鋭過ぎる感受性のなせる業でしょうか。

 最初のモーツァルトから、これはモーツァルトか!?と驚かされる独特のタイム感覚、クラ用語で言うアコーギクに驚かされます。でも聴き慣れてくるにつれてやっぱりモーツァルトだと納得。楽譜より自分の解釈を重んじる点では、去年生で聴いた内田光子と通じるところもあると思いますが、では彼女と良く似た演奏かというとそうではない。ピアノ演奏の奥の深さを教えてくれます。

 次の調性の限界にベルクが挑んだと言ういかにも難解そうなソナタは、意外なほど曲の隅々まで見渡せる、明晰で透明感あふれる綺麗な演奏で、音楽の透視図を見るような感覚を覚えます。これには東条先生も書いておられますが、「すっきりと抜けの良い」素晴らしい録音も貢献しているのでしょう。

 そして目玉はリストの30分以上にわたるロ短調ソナタ。オーディオファイルの定番リファレンス・ディスク「Nojima Plays Liszt」にも入っている大曲ですが、Nojimaの演奏が教科書的で正確無比な演奏だとしたら、グリモーは感性を重視した情熱的なリスト演奏と言えましょう。劇的な強奏が終わった後静かで美しい旋律が紡がれる、潮の満ち引きの様な心地よい緊張と緩和の心地よさは格別で、実際のライブが楽しみです。この演奏なら30分間多分寝ないと思う(笑。

 最後はバルトークの小品(ルーマニア民俗舞曲)で締める粋な構成です。

 いきなりこの構成のライブを聴かされたら相当戸惑ったと思いますので、予習ができてよかったと思います。なお、SHM-CDとなっております。