ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

日経メディカルの日本の医療映画10本

赤ひげ <普及版> [DVD]
 久々の医療ネタです。また日経メディカルから拾ってきました。以前「医療小説ノンフィクション40冊」をご紹介しましたが、今回は最新の臨時増刊に掲載された「日本の医療映画10本」を紹介いたします。セレクションは書評家の東えりか氏と日経メディカルの千田敏之編集長が行っています。

1: 「赤ひげ」(1965年、黒澤明

『赤ひげの下で成長する青年医師の物語』

 もう「赤ひげ」という単語自体が普通名詞化しているくらいの名作中の名作(もちろん山本周五郎の原作あってのことですが)、黒澤作品の中でも好きな映画の一つです。モノクロからカラーへの端境期でしたが、この映画はモノクロで撮られました。そしてその映像美は3Dがもてはやされる今の時代から見ても美しい、と解説にも書いてあります。更にその解説によりますと、黒澤明監督はこの映画の制作費調達のため自宅を売り払ったそうです。ちなみに三船敏郎が出た最後の黒澤作品となりました。

2: 「海と毒薬」(1986年、熊井啓
海と毒薬 デラックス版 [DVD]

『生体解剖事件がモチーフの遠藤周作原作を映画化』

 もちろん遠藤周作の原作は読んでいるのですが、この映画は見ていません。記憶が定かではないのですが、1986年頃と言えば多忙を極めていた時期だったので映画が製作されたことも知らなかったかもしれません。内容が内容だけに映画化、映像化ともに大変難しかったと思いますが、社会派の熊井啓監督ですから真正面から原作に立ち向かったことでしょう。解説にも「スタッフの献血による本物の血液も使用された」とあります。ベルリン国際映画祭銀賞・審査員特別賞、キネマ旬報1位を獲得しています。

3: 「本日休診」(1952年、澁谷實)
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『町医者の理想像を描いた人情喜劇』

 井伏鱒二原作の映画化ですが、何分古い映画でこれも見ていません。国民皆保険制度以前の話で、その頃の低所得者層は一体どんな風に診療費を払っていたのか、その実態が垣間見えるような人情喜劇である、と解説にあります。

4: 「白い巨塔」(1966年、山本薩夫
白い巨塔 [DVD]

『医療小説の金字塔、最初の映像化作品』

 これはもう説明不要でしょう、若い方も近年唐沢寿明主演でTVドラマ化されましたので良くご存知でしょう。我々の世代ではやはり故田宮二郎の印象が強烈です。TVドラマも高視聴率でしたが、名匠山本薩夫が撮ったこの映画も強烈なインパクトを世の中に与えました。これ以降山本監督は山崎豊子作品を次々と映画化していきます。一方で田宮二郎は二度目のテレビドラマ終了間際に猟銃自殺します。

5: 「ヒポクラテスたち」((1980年、大森一樹
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『府立医大を舞台とした青春映画の傑作』

 やっとほぼ同世代の監督映画が出てきました。大森一樹監督は私より5歳くらい上の方ですが、映画監督が忙しかったのか、私が医師国家試験を受けた年も同じ会場で受けておられました。というわけで医大の最終学年の臨床実習を描いた映画で、コメディタッチかと思いきや、結構シリアスなテーマも扱っており、無資格堕胎、森永砒素ミルク、徳州会など当時の時事ネタもたくさん出てきます。解説によりますと主演の古尾谷雅人はこれ以前はロマンポルノなどで活躍していたそうで、この映画がメジャーデビューということになりますね。好演だったと思いますが、彼もまた後年自殺します。どうも医師役は縁起が悪いんでしょうかねえ。ちなみに伊藤蘭さんの復帰第一作で「蘭」と言うタバコを吸っています。

6: 「大病人」(1993年、伊丹十三
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伊丹十三が病院を舞台に撮った快作』

 様々な職業を映画化し映画界に旋風をもたらした故伊丹十三氏が病院を撮った作品でまあ面白くない訳がないですね。解説によりますと、実はこの映画、デジタル合成やCGを初めて映画に導入した作品だそうです。う~ん、よく覚えてないなあ(健忘。ちなみに伊丹監督はこの映画を撮るに際して山崎章郎氏の「病院で死ぬということ」に触発されたそうです。その「病院で死ぬということ」は市川準監督によって映画化されています。

7: 「命」(2003年、篠原哲雄
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柳美里の自伝的小説を映画化』

 これは見ていません。作家柳美里が、かつて参加していた劇団の主宰者であり昔の恋人である東由多加が癌の闘病の末亡くなるまでを、自分の妊娠・出産と平行して見つめた自伝的小説の映画化です。解説によりますと江角マキコ豊川悦司ともに熱演でトヨエツは本当の患者のようにやせ細っていったそうです。しかし(もちろん演技ですが)病室でスパスパタバコを吸い続けていたそうで、医師から見れば自業自得の迷惑な患者像ですねえ。というわけであまり見る気にもならんのですが、おっ、麻生久美子が出てますねえ(^_^;)。

8: 「阿弥陀堂だより」(2003年、小泉尭史)
阿弥陀堂だより [DVD]

『仕事と都会に疲れた女医、再生の物語』

 これは好きな映画です。オールロケで撮られた美しい映像、静かなストーリーともに出色です。実際にパニック障害を患われた南木佳士氏の原作ですから主人公のパニック障害の状況も良く描けていました。小泉尭史は寡作な方ですが「雨あがる」「博士の愛した数式」「明日への遺言」など良い映画を撮っておられますね。その中でも代表作と呼んでいい映画だと思います。

9: 「感染列島」(2009年、瀬々敬久
感染列島 スタンダード・エディション [DVD]

『日本初のパンデミック映画』

 日本初といってもハリウッドの二番煎じだし、他にもパニック映画はいっぱいあるし、極論すれば「二十世紀少年」だってパンデミック映画だし(苦笑、日本初のパンデミック映画と言われてもあまりピンと来ませんが、悪くない映画だったとは思います。ちょうど新型インフルエンザ騒動があった時期だけに余計にリアリティはあったと思います。佐藤浩市をはじめみんな血を吐きまくるのには辟易しましたが(^_^;)。

10 「ディア・ドクター」(2009年、西川美和
ディア・ドクター [DVD]

『原題の深刻な医療問題をユーモラスに描く』

 この映画はこのブログでもレビューしておりますが、西川美和監督の傑作です。未見の方には是非見ていただきたい映画だと思います。解説にもありますが、本年5月に岩手県で実際に無資格の女性が着任間際に逮捕されるという事件もありました。医師偏在、限界集落の問題をいち早く提起した映画ではありますが、鶴瓶ちゃんを主演に抜擢してユーモラスに仕上げているところも秀逸な映画です。