ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

The Road / Cormac McCarthy

The Road (Movie Tie-in Edition 2009) (Vintage International)
 以前映画でレビューした「The Road」が妙にいつまでも心に引っかかるもので、原作を読んでみることにしました。作者のコーマック・マッカーシーはピュリッツアー賞も受賞し、アカデミー賞受賞作映画「ノー・カントリー」も書いているベストセラー作家とのことで、今のアメリカの小説の一端も覗けるかなという期待もありました。

" The searing, postapocalyptic novel destined to become Cormac McCarthy's masterpiece.

A father and his son walk alone through burned America. Nothing moves in the ravaged landscape save the ash on the wind. It is cold enough to crack stones, and when the snow falls it is gray. The sky is dark. Their destination is the coast, although they don't know what, if anything, awaits them there. They have nothing; just a pistol to defend themselves against the lawless bands that stalk the road, the clothes they are wearing, a cart of scavenged food—and each other.

The Road is the profoundly moving story of a journey. It boldly imagines a future in which no hope remains, but in which the father and his son, "each the other's world entire," are sustained by love. Awesome in the totality of its vision, it is an unflinching meditation on the worst and the best that we are capable of: ultimate destructiveness, desperate tenacity, and the tenderness that keeps two people alive in the face of total devastation. (AMAZON解説より)"

 とにもかくにも驚いたのはその文体。短く単純な構文のセンテンス。時には文法無視。そういえば短縮形の「-n't」はカンマさえ入っていない。

don't = dont, can't=cant, won't=wont

など。そして極端に短い文節。短くて数行、長くてペーパーバックの1ページちょい。それが延々章分けも何もなく延々積み重なって約280Pの小説を形成している。今の日本でも一部の作家を除けば文章は随分軽く単純になってきている印象を受けますが、アメリカでもそうなんでしょうか?荒っぽく分類すれば、

スコット・フィッツジェラルド: 大学院級英語
トルーマン・カポーティ: 大学生レベル
サリンジャーポール・オースター: 高校レベル
コーマック・マッカーシー: 中学レベル

と感じます。

 もちろん大事なのは内容で、そういう意味では極めて単調で灰色の単色の絶望的な世界を描きながら不思議な感動をもたらす小説です。
 名前さえ分からない父子の放浪の旅は読んでいて決して楽しくはないし、時には辛いし、あっと驚かせるような伏線も無いし、盛り上がりも無い。無理矢理読まされたら簡単に読めてしまうだろうけど何がいいの?と思ってしまう事請け合い。これで読書感想文書けと言われたら辛いだろうねえ(笑。映画のレビューでオースターの「最後の物たちの国で」を引き合いに出しましたが、こちらの方が余程プロットに技巧の限りを尽くしてあり複雑で面白い物語となっています。

 じゃあ何故不思議な感動をもたらすのか?文明世界が崩壊し人肉食が当たり前となった世界で、それを拒み常に飢えながらも旧来の倫理観を守り続け心の「火」を絶やさない(carrying the fire)ところでしょうか。

 それに関して、何故世界がこのようになってしまったのか、そのような火を持ち続けている人々にとってどのような未来が開ける可能性があるのか、全く何の説明も無いところに常にひっかかりを感じさせつつ最後まで読ませてしまうあたりが、作者の腕なのかもしれません。

 普通は原作を読んでから映画を見るべきなのでしょうが、この小説に関しては映画である程度親子の状況や荒涼たる風景、最後の息子の凛とした顔と「Okay」の一言を知っておいてから読んだほうがいいと思います。というか、映画をDVDでご覧になって興味が湧けば読んでみて損はない小説だと思います。