ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Songs From The Road / Leonard Cohen

Songs from the Road
  本日9月21日はカナダの産んだ偉大な詩人Leonard Cohen76歳の誕生日です。これを記念して昨日は1972年の、今日は2008年の「Bird On The Wire」のライブ映像を「今日の一曲」に選んでみました。まだ現役でコンサートホールを満員にする事自体奇跡的な上に、とにかくカッコいい。おそらく世界一クールな76歳ではないでしょうか。Jeniffer Warnesが惚れ込むはずだ(笑
 そのレナード・コーエンの2008-9年にかけてのコンサートツアーを収録した最新作がこのアルバムです。前作もロンドン公演のライブだったのですが、今回はCD+DVDと言う構成で音楽映像の両方が楽しめて舞台裏も覗けます。ファンには堪らないコーエンからの誕生日プレゼントですね。

Disc 1: CD
1. Lover, Lover, Lover (Ramat Gan Stadium, Tel Aviv, Israel September 24, 2009) 
2. Bird On The Wire (Clyde Auditorium, Glasgow, Scotland November 6, 2008) 
3. Chelsea Hotel (Royal Albert Hall, London, England November 17, 2008) 
4. Heart With No Companion (Oberhausen King Pilsener Arena, Oberhausen, Germany November 2, 2008) 
5. That Don t Make It Junk (O2 Arena, London, England November 13, 2008) 
6. Waiting For The Miracle (HP Pavilion, San Jose, California November 13, 2009) 
7. Avalanche (Gothenburg Scandinavium, Gothenburg, SwedenOctober 12, 2008) 
8. Suzanne (MENA Arena, Manchester, EnglandNovember 30, 2008) 
9. The Partisan (Hartwall Arena, Helsinki, Finland October 10, 2008) 
10. Famous Blue Raincoat (O2 Arena, London, England November 13, 2008) 
11. Hallelujah (Coachella Music Festival, Indio, California April 17, 2009) 
12. Closing Time (John Labatt Centre, London, Ontario May 24, 2009)

Disc 2: DVD
1-12: same as above
Bonus Feature Backstage Sketch Film By Lorca Cohen

Performers:
Leonard Cohen
(vo, g, kbd)

Roscoe Beck (musical director, b, el.b)
Rafael Bernardo Gayol (ds, perc)
Neil Larsen (kbds)
Javier Mas (banduria et al)
Bob Metzger (g)
Sharon Robinson (back vo)
Dino Soldo (sax,winds,et al)
Charley Webb (back vo, g)
Hattie Webb (back vo,harp)

  感動魔法奇跡。そんな言葉しか浮かんできませんね。CDから流れて来るお馴染みの曲のいまだに失われない瑞々しさと増していく説得力、バックのメンバーの素晴らしい演奏、DVDでの素晴らしいステージ・パフォーマンスと熱狂する観客の興奮。ボーナスのバックステージ風景で、ツアースタッフの一人が言ってましたが、コーエンは若い頃でさえ滅多にツアーを行わず、ここ20年くらいは全くしていなかったそうですから、本当に奇跡のワールドツアーといえるのではないでしょうか?

 75歳の老人が呟く様に歌う姿を見てもう一つ浮かんでくるのが

吟遊詩人

と言う言葉。年老いてなお盛んな吟遊詩人とその仲間が放浪の旅に出て、2年間かけてアメリは西海岸からイングランドスコットランドドイツスウェーデンフィンランド、そしてはるばるイスラエルまでを周遊している感じ。もちろん現在の話ですから、バックステージのドキュメンタリーを見るとそんな幻想も吹っ飛ぶわけですが、目を閉じてCDを聴いていても、深夜にホームシアターでDVDを観ていてもそんな幻想が浮かんでくるわけです。

 この歳になって3時間にもわたる公演をこなせるのか?そのキーは彼の歌唱法にあるでしょう。昔からそうでしたし、詩人ですから、詩を朗読するように歌います。キーも下がり声も枯れていますがこれなら十分可能。そして時にはちょっと派手なパフォーマンスも見せる。カルフォルニアの野外コンサートでの「ハレルヤ」でそれを観る事ができます。とにかく見かけに似合わずタフな75歳です。そしてそれにバックの演奏が彼の朗読を盛り立てれば完璧なステージとなります。レナード・コーエンを尊敬する仲間の演奏は彼に対する愛情に満ち溢れていて感動的。何度も同じ言葉しか出てきませんが感動的

 彼はその昔「Songs of Love and Hate」でバックのメンバーを「Army」と表現していました。70年代ですねえ。さすがの彼も今はバックのメンバーを「Performers」と表現しています。

 まずは音程をあまり気にしないコーエンの歌唱法を補うのが彼のツアーではお馴染みの女性バッキングボーカル。かつてはジェニファー・ウォーンズもその一人でした。今回も、ゴスペラーっぽい女性歌手シャロンがリーダーとなり、多芸なウェブ姉妹がサポートするバッキングボーカルの存在は大変重要なものでした。

 そしてバンマスが70年代からの長い付き合いでコーエンの音楽の全てを知り尽くしたベーシスト、ロスコー・ベック。演奏面では堅実なベース・サポートに徹しています。彼のことはオーディオファイルならジェニファーのアルバムでよくご存知でしょう。
 そして演奏全体の雰囲気を決めているのがニール・ラーセンのキーボード。キーボードの音色をオルガンにしているのは彼自身がバックステージのインタビューで

「コーエンの歌い方には”Gospel Slant"を感じる、だからオルガンの音色にしてあるんだ」

と語っていました。だから、「ハレルヤ」での彼の演奏はより力が入っていて見事でした。

 全員を紹介するときりがないですが、ドブロのような形をした不思議な12弦弦楽器のBanduriaマンドリンのような音色を奏でるJavier、随所で印象的なサックス、ウィンド演奏を聴かせるDino等々、さすがコーエンが自身の詩を表現するために選んだだけの事はあるメンバー揃いです。

 ちなみにコーエンもずっと黒いギターを持ち続けていますがあまり見慣れないギターです。これはバックステージの映像でギター・メカニックが説明していましたが、Godinというフレンチ・カナディアンのメーカーのセミアコだとの事です。コーエンはピックを使わない指弾きでそれに合わせたナイロン弦を選択し、また彼のキーが低いためキーをCに下げて調整してあるそうです。

  全12曲、何れも彼が愛着を持って30年以上うたい続けている曲ばかりですが、ギターとbanduiraの伴奏も素晴らしい代表曲「Bird On The Wire」、Godinのギターでしっとりと歌い上げる「Suzanne」、出だしのマイナーコードのイントロから

"it's four in the morning"

とコーエンが歌いだすと観客の嵐のような拍手が起こり、最後にアドリブで

"sincerely L.Cohen"

と〆る憎い「Famous Blue Raincoat」、そして代表曲にして先日「今日の一曲」でk.d.Langも感動的なパフォーマンスを披露していたのを覚えていただければ嬉しいですが、多くのカバーを産み続ける「Hallelujah」が聴きどころでしょう。

 CDの音質はライブにしては驚異的に良いです。DVDの画質も良好。これでこのお値段はファンでなくてもお買い得ではないでしょうか。念のため申し上げておきますと、渋い表写真の豪華な紙ジャケットは異型サイズで通常より少し縦長となっている豪華版です。

 レナード・コーエンをジェニファー・ウォーンズ等のカバーでしかご存じない若い方にも是非聴いて頂きたい、観て頂きたい傑作と思います。