ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

悪人

Akunin
はむちぃ: 皆様こん**は、今日の邦画レビューはゆうけいが観てきたと申しておりました「strong>悪人」でございます。ご存知の通り、深津絵里様が第34回モントリオール映画祭最優秀女優賞を受賞された事で大変な話題となっております、現在絶賛公開中の映画でございます。
ゆうけい: 確かに見るものの心を揺さぶる体当たりの演技でしたね。年度末の各映画賞や日本アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされるのはまず間違いないところでしょう。「雷桜」の蒼井優ちゃんと一騎打ちですな(^^♪
は: 「キャタピラー」の寺島しのぶ様との一騎打ちいうのが世間の専らの評判でございます(ボソッ(-.-)。
ゆ: それは言わん約束じゃ、許せよ~、あ”あ”~、優ちゃ~ん(横山たかし師匠風)

は: はいはい、それはそうと、妻夫木聡様も自ら志願して出演されただけあって鬼気迫る熱演でございました。
ゆ: パツキンスカイラインGTRを乗りまわすのと携帯出会い系サイトだけが楽しみの長崎の海岸べりの寒村の貧乏青年の屈折した心理を見事に表現し切りましたね。
は: 妻夫木様も各主演男優賞にノミネートされるでしょうね。
ゆ: ただ、あれだけリアルに役柄設定をして入れ込むのなら一言言わせていただきたい。まあ、これは原作者、監督に言うべき事なんですが、

 「今時あんな貧乏な若者にスカイラインGTR(R33)を乗りまわすのは無理です」

 両親のいないワーキングプアで、祖父が入退院の繰り返し、生計を支えるのは祖母のみ、その祖母が囲い込み詐欺で20数万円巻上げられて半狂乱になって取り返しに暴力団事務所へ出向いて行く、というような経済状態では、中古で10年落ちでも400万は下らないGTRの車両本体価格の払いはおろか、車両保険・ハイオクガソリン代だけでも払いきれんでしょう。まあどうせ自賠責以外入って無いでしょうけど、中古でボロボロのAE86(走り屋御用達だったカローラ・レビン/スプリンタートレノ)の方が余程リアリティがあるのではないでしょうか。
は: 今日はいきなりレビューに入ってしまったと言うか、単に車オタク全開というか、前フリが長くなってしまいましたが、とりあえず映画紹介に参りましょう。

『2010年日本映画、配給:東宝

スタッフ
監督:李相日 
原作:吉田修一 
脚本:吉田修一、李相日 
音楽:久石譲 

キャスト:妻夫木聡深津絵里満島ひかり岡田将生柄本明樹木希林宮崎美子光石研余貴美子 他

芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラーを妻夫木聡深津絵里主演で映画化した人間ドラマ。長崎の外れの小さな漁村に住む清水祐一(妻夫木聡)。唯一の趣味のクルマに乗るとき以外は、親代わりに暮らす祖父母の面倒を見る日々。未来に希望を見出せぬそんな日常の憂さを晴らすように出会い系サイトで知り合った女は、しかし目の前で別の金持ち男の車に乗り去って行った。 祐一はやがて別のメル友(深津絵里)を呼び出し、強引にホテルに連れ込み、鬱屈した感情をぶつけるようにその体をむさぼる。そして彼女にある告白をする。自分は人を殺してしまったんだ、と。 ……。(パンフレット、映画COM、前田有一の聴映画批評等より)』

はむちぃ: 携帯。と呟けば、今や99%の人間が思い浮かべるのは携帯電話。掌におさまってしまうようなちっぽけな物体が巨大な怪物と化し、なおかつ今の日本経済を支えていると言う事実が一つ。今の子供に一家に一台の固定電話しかなかった時代を語っても遠い昔話に興味一つ示さないだろう事実が一つ。こんな高価な機器を中学生・小学生に当たり前のように持たせる時代を我々の世代は果たして期待していたのか。この映画で殺される若い女を見よ。鬱陶しいから、自由気ままな生活がしたいから実家を飛び出し、保険の外交員と言いつつ親のコネをあてにしてその時だけ有り難がり、携帯で父親には連絡の一つもよこさずやっているのは軽薄な勘違いの恋愛ごっこと性処理の欲求不満の捌け口なる出会い系サイト。挙句がちょっと考えれば分かる事を考えもせず、愚かな挙動から殺される。知らず知らずこの不条理な世界に振り回されている事はそのような事情を知らず悲嘆にくれ憤激する両親にしても然り。自分が山中で捨てた女が殺されたと知り焦っては逃げ惑い無罪釈放されては仲間と笑い転げる軽薄な金持ちの息子しかリ。そしてこの映画の主人公たる満たされぬ思いを携帯に託す二人にして然り。携帯。この無機質な小物体から放たれる悪意孤独が支配する善悪の定かならぬ荒涼の風景をしかと見よ。これがテクノロジーの発達がもたらした世界なのか、それは少なくとも人間の福祉と幸福に寄与するはずの物体ではなかったのか。ちっぽけで悪とも呼べぬ「悪人」を産み出すための道具と化してしまったのは一体誰の責任なのか。おそらくそんな事を考えもせず販売競争は延々とこの世界が崩壊するまで続いて行くのだろう。

ゆうけい: は、はむちぃ君、いったいどうしたと言うのだ?高村薫が憑依したか(^_^;)?
は: す、すみませぬ、私メ、今高村薫様の文章を勉強中でございまして、この映画を見終わって思わずこのような思いが口をついて出てまいりましたm(__)m。
ゆ: す、凄い羊になってきたな、君も(^_^;)。。。
は: 執事でございます。それはそうと、携帯批判はこの辺でおいておきまして、ご主人様のこの映画の印象がいかがでございましたでしょうか?

ゆ: そうですね、

「愚直なまでに真面目に作りこまれた映画は批評が難しい」

これに尽きるでしょう(笑。優等生をお前は真面目すぎるからだめなんだ、なんて言えないでしょう。
は: それほどかっちりとつくってある映画だと。。。
ゆ: 原作の吉田修一、監督の李相日ともに有能な人ですからね、この二人が脚本を書き李さんが丁寧に演出していけばこれだけのレベルの映画にはなりますよね。ただ、カット割が多く、それぞれのカットでの人物が殆ど交わっていかない分ややノリが悪い印象を受けますし、全てのカットで全ての俳優さんが力の入った演技をするので暑苦しい(笑。
は: しかし、それを言ってしまえばお終いでございますよ。
ゆ: そうなんだよ、だから批評しにくいと。敢えて言うと、深津絵里が登場してようやく話が動き出してからは素晴らしい出来だと思いました。特に、観る前に

「私と一緒に逃げて」

深津絵里妻夫木聡に迫る場面はどんな風なんだろうといろいろ想像していたんですが、いい意味で見事に予想を裏切られました、あれは見事でしたね。

は: さて、その俳優さんたちの演技ですが、
ゆ: 先ほども述べた通り、演技派揃いで端役の光石研さん、余貴美子さんに至るまで凄く入れ込んだ演技をされるので、けなしようがないんですね、満島ひかりっていう若い子の事を浜村淳さんが褒めてたんですが、眉唾でどれほどのもんだろうと思ってたら、なかなかどうしてちゃんと演技してる。

は: でもその中でも妻夫木聡様の演技は群を抜いておりましたね、
ゆ: ちょっと寡黙で溜めすぎかな、四六時中暗すぎかな、と彼のこの役作りにかける思いが過剰すぎるきらいは感じましたけど、これは演出の問題かもしれません。とにもかくにも、「ジョゼと虎と魚たち」以来良い演技をしてる映画は沢山ありましたけど、初めてじゃないかな、こんなシリアスな演技で凄みを見せたのは。
は: 最後の狂気を見せるシーンの表情は凄かったですね。
ゆ: 偽りの狂気なのか、本当の「悪人」顔なのかを、観る者に委ねた李監督の手腕もさることながら、畢生の名演技でしたね。目なんかVFX処理してるんじゃないかと思ったくらいです(苦笑。

は: そして深津絵里様。
ゆ: 文句無しですね。間違いなく彼女の代表作の一つとなるでしょう。
は: わざとスッピンに近いメイクで、佐賀の一隅で冴えない人生を送ってきた疲れた女性を見事に表現していましたね。
ゆ: そしてその満たされない女が燃え上がるような激情を見せ、狂気にも似た行動を取る時の説得力の凄さ。
は: そして冒頭写真の無人灯台での二人きりの束の間の幸せな時間。どれをとっても素晴らしかったですね。
ゆ: 汚れ役をやるには痩せすぎじゃないですか、なんていって申し訳ない。ただ、寺島しのぶに比べればやや見せ惜しみはしてますけどね、一応その筋を期待しておられる方には、申し上げておきます(笑。

は: その他に印象に残った点はございますか?
ゆ: 音楽、久石譲の音楽ですね。久石節はまあご愛嬌として、映画の雰囲気を見事に反映してなおかつその流れを進めていくBGM、そして最後の主題歌に至るまで隅々まで気配りの行き届いた手腕は流石だな、と思いました。

は: さて、採点でございます。ご主人様は前半のくどさがややマイナス点となっているようでございますが、見るに値する素晴らしい映画である事は間違いございません。
ゆ: ちょっと息抜きのような役どころが欲しかったのと、もう少し早く絵里さんを出して欲しかったなとは思いましたが、今年の邦画を代表する映画の一つである事は間違いないでしょうね。

はむちぃ: 83点
ゆうけい: 79点