ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ザ・ロード

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 猛暑日が続きますが皆さん、お元気でしょうか、ゆうけいでございます。えっ、はむちぃ君はって?実は筆頭執事のはむちぃ君、「ほころび綿吹き病」が再発して4度目の手術のため入院をしておりまして、今日はお休みでございます。幸い経過良好ですので次の映画レビューには帰ってくるでしょう。
 えっ、そんなら「今日はもう映画レビューはいいよ」って?そんなぁ~お客さん、帰らないで下さいよ~、今日は思いっきり暗い映画なんですから~、ってますますドン引き?(^_^;)
 でも主人公二人の演技だけで徹頭徹尾感動させると言う稀有な映画でございますよ。とりあえず読んでみて下さいなm(__)m。というわけで本日の映画レビューは現在公開中の洋画「ザ・ロード」でございます。

『 2009年アメリカ映画、"The Road"、Broadmedia Studio and Happinet配給

監督: ジョン・ヒルコート
原作: コーマック・マッカーシー
脚本: ジョー・ベンホール
音楽: ニック・ケイブウォーレン・エリス

出演者 : ヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィー、ロバート・デュヴァルガイ・ピアースシャーリーズ・セロンモリー・パーカー、ギャレット・ディラハント

 文明を失って10年。僅かに生き残った人々は保存食を求め彷徨い、餓死を恐れ、理性を失っていく…。そんな絶望の道を、寒さから逃れるためひたすら南へと向かう一組の父(ヴィゴ・モーテンセン)と子(コディ・スミット=マクフィ)。荒廃した世界しか知らない幼い息子に、どんな極限な状況においても他人を助けようと務め、善き者であろうと心掛け、在りし日の世界や道徳観を話して聞かせる父。心を寄せ合うように、子は父を信じ、父は子の未来を願い、人類最後の火を掲げ世界の終りを旅を続ける―。

『すべての美しい馬』『血と暴力の国』(映画「ノーカントリー」原作)等で知られ、本作でピューリッツァー賞を受賞したコーマック・マッカーシーの最高傑作がついに映画化!!主演には、『イースタン・プロミス』で米アカデミー賞主演男優賞へノミネートを果たしたヴィゴ・モーテンセン。そして息子役のコディ・スミット=マクフィが映画史上に残る名演を披露。気高く旅を続ける姿は神々しさに誰もが魂を揺さぶられる、愛する者がいる、全ての人へ贈る感動作。(公式HP、パンフレット、前田有一の超映画批評等より編集) 』

 まず何が凄いと言って、最初の2、3カットだけ普通の色調の世界を見せて、その直後にいきなり世界に終末がやってくる事にするその強引さが凄い。さすが「血と暴力の国(アカデミー賞映画ノー・カントリー原作)」を書いたコーマック・マッカーシーだけの事はある。まるでポール・オースターの傑作「最後の物たちの国で」に何の前説もなく放り込まれた感じです、といってもオースター・ファン意外には分かりにくいと思いますがm(__)m。

 その次に凄いのは直後からの映像。彩度を落とせば荒涼たる世界を描ける、なんて生易しいものではない。今のアメリカで、どこをロケすればこんな映像がとれるんだ、と言うくらい殺伐としており、主人公たちがやっと辿り着く海からし絶望的に暗い
 実際、行った映画館では2/3くらいの入りで無名映画の割には沢山入ってるなあと思っていたのですが、途中で一人抜け、二人抜け、最後は半分くらいしか残ってませんでしたね(苦笑。

 それでも観客が一応見ようという気になるのは導入部。私は以前からこのブログで主張してきたように、

導入部で観客を映画に引きずりこまない映画は大抵駄作

、と言う経験則から得られた信念を持っております。この映画の導入部では、父子が荒涼たる道をカートを引きずりつつ歩く映像をバックに、ニック・ケイブのピアノのゆっくりとしたアルペジオがかぶり、その奥に弦の通奏音が滑りこむ。そして父役のヴィゴ・モーテンセンの静かな語り口の独白が始まる。これには痺れました。何の説明もなく観客を終末世界に放り込んだ事を許してやろうじゃないか、と言う気分になってきます。まあ、ならない人が怒って出ていったんでしょうけど(苦笑。

 そしてこの映画最大の魅力は、というかそれしか見所がないじゃないか、というのが主人公二人の奇跡的な演技。この無茶な設定の中で良くこれだけの演技ができるな、と圧倒されてしまいます。

 まずは超メガヒット作「ロード・オブ・ザ・リング」三部作で勇者アラゴルンを演じ切ったヴィゴ・モーテンセン。「イースタン・プロミス」の演技も凄かった。この人がアカデミー賞をまだ取っていないと言う事自体がこの映画より不条理なんじゃないかと(汗。本作でも飢えを表現するために限界まで体を絞り込み、「I'm starving」と弱音も吐き、我が子が仲間に入れようとする人間を片っ端から疑って拒絶する、ある意味弱い普通の父でありながら、人肉食が当たり前の世界で「善き人」として息子を守りぬく健気な父親を、完全になりきって演じています。

 そしてそのヴィゴの演技に応えられるだけの空恐ろしい演技力を見せ付けるのが子役に抜擢されたオーストラリア人の少年コディ・スミット=マクフィ。崩壊前の世界を知らず、最初はただ父について行くだけで怖ろしい目にあっては気絶したり震えていたりするだけの少年が「善き人」とは何なのか、を少しずつ感得していき、表情にその精神的成長を見せるあたり、鳥肌が立ちますよ。ラストのワンカット

OK

の一言。猛烈な感動が襲ってきます。鳥肌が立って気分が悪くなるほど。OKでこれだけ人を感動させられますか、普通(^_^;)。

 もちろんそこに至るにはジョー・ベンホールの優れた脚本、そして監督ジョン・ヒルコートの演出があってこその事なんですが。

 多くの子役が期待に押しつぶされてだめになっていくハリウッドですが、彼だけは素晴らしい俳優に育ってほしい。そう願って止みません。

 終末映画といえばとかくSF大作ものになりがちですが、幸いと言うか残念ながらというか、この映画は救いようのない暗さと絶望を徹頭徹尾リアリスティックに描いております。最後にヴィゴのコメントを掲載しておきましょう。

結末は思い出を裸にするような美しさだ」(Viggo Mortensen)

採点:

はむちぃ: 79点
ゆうけい: 83点