ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

沈まぬ太陽

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はむちぃ: おっ、いよいよ本日の邦画レビューは昨年度の日本アカデミー賞受賞大作「沈まぬ太陽」でございますね。
ゆうけい: 山崎豊子は好きじゃないんだけど、今現在の邦画の力量を知る為にはこういう正攻法の映画を検証しておかないとね。
は: 確かにご主人様は山崎豊子様の小説や原作映画をあまりとりあげられませんね。
ゆ: 何度盗作疑惑が取り沙汰されても筆を折る事をしないし、小説の手法も嫌いですね。虚実皮膜を半歩踏み出して、明らかに実在のモデルのいる人物やストーリーをかなり恣意的に脚色するでしょう、この人は。
は: 確かにこの小説もそうでございますね。明らかに日本航空がモデルであり、映画化に際して会社側は強く抵抗・抗議していたと聞き及んでおります。
ゆ: おまけにこの映画公開当時には、現実にJALの会社更生法申請が取り沙汰されていて余計にこの小説が現実と混同されてしまうきらいがありました。
は: 経営破綻の一因として実際映画のようなことが全くなかったとは申せませんでしょうが、JAL側の言い分にも耳を傾けておかないと不公平でございますね。
ゆ: 映画ではエンドロールの最後に

全くのフィクションで実在の人物・会社とは無関係

とのテロップが流れますが、これは映画製作上の義務とはいえあまりにも白々しい印象を受けます。だって映画の中で「国民航空」を総理大臣が「National Flag Carrier」と呼び、事故現場を「御巣鷹山」と明言しているんですからね。だからまず日本航空側の本原作に対しての見解を書いておきましょう。でははむちぃ君、よろしく御願いしま~んねんやわm(__)m
は: そ、それは吉本の生ける化石歴史、竜爺こと井上竜夫様のギャグ。。。もう真面目な話ばかりだと10分も我慢できないんですから(--〆)。とりあえず承知いたしました、日本航空の社内誌よりの見解を明記した上で、映画紹介に参りましょう。

『本小説は、御巣鷹山事故に関する記述などから、舞台となる会社組織および登場人物のモデルとされる人々が、当社とOBを含む当社社員など実在の人物であることが連想され、この著作によって会社と一部個人のイメージ・名誉が著しく傷つけられており、遺憾である。作者は巻末において「事実を取材して小説的に再構築した内容」と付言しているが、この小説が弊社をモデルとしたノンフィクションであるという意図ならば、事実無根の部分が多く、弊社をご利用される一般のお客様の誤解を招き、企業イメージを悪化させ、営業上も甚だ問題である。弊社は、大競争時代の中においてサバイバルの途上であり、フィクションと思われるものの事実関係について争うつもりは、今のところないが、更に弊社のイメージを低下させるようであれば、別途の対応を取る所存である。(日本航空社内誌より)』

沈まぬ太陽 スタンダード・エディション(2枚組) [DVD]

『 2009年日本映画、角川映画等製作、東宝配給、3時間22分、途中休憩10分間

スタッフ:
監督:若松節朗 
製作総指揮:角川歴彦 
脚本:西岡琢也 
原作:山崎豊子 

キャスト:
渡辺謙 三浦友和 松雪泰子 鈴木京香 石坂浩二 加藤剛 神山繁 他

国民航空の労働組合委員長・恩地(渡辺謙)は職場環境の改善に奔走した結果、海外勤務を命じられてしまう。10年におよぶ孤独な生活に耐え、本社復帰を果たすもジャンボ機墜落事故が起き、救援隊として現地に行った彼はさまざまな悲劇を目の当たりにする。そして、組織の建て直しを図るべく就任した国見新会長(石坂浩二)のもとで、恩地は会社の腐敗と闘うが……。(シネマ・トゥデイ等より)』

は: 途中で10分の休憩をはさむ3時間半にも及ぶ長尺にもかかわらず、観る者を飽きさせる事なく最後まで引っ張っていく出来栄えは見事でございました。
ゆ: 確かにね、これだけの作品を作れるという自信・誇りを邦画界に取り戻させてくれる映画だとは思いました。前々から何十億もかけて「20世紀少年」三部作のような情け無い映画を作ってしまう邦画の現状を憂いておりましたが、こういう映画を観ると少しほっとしますね。
は: 先ほど述べたような軋轢をのりこえて映画を完成させた製作者の情熱、監督・脚本・カメラ・美術・衣装・編集・現像等々のクオリティ、綺羅星の如くのオールスター・キャストの演技レベル、そしてアジア・アフリカにまたがる海外ロケを敢行できる資金力、全てが高水準であったと申せましょう。
ゆ: う~ん、全てが高水準かどうかはちょっと意見が分かれる部分もあると思うけれども、

「全ての製作過程において一定の守るべき水準をクリアしている」

事は間違いないですね。特に時系列に思い切ったメスを入れ完成度の高い脚本を書いた西岡琢也はさすがの力量でした。
は: もともとはポルノ映画の脚本から始められた方ですけど、いまや押しも押されもせぬ大御所になられましたね。
ゆ: 山崎豊子本人の「あれも入れろこれも入れろ」の無理難題をクリアして納得させるにはこのレベルの人が必要だったということでなんでしょう。
は: まず御巣鷹山のジャンボ機墜落事故を冒頭にドンと据えて、その処理に走り廻る主人公の回想という形で労使闘争とその後の苦難の左遷人事を描いた前半は特に見事でございました。
ゆ: 冒頭で主人公がしとめた巨象を航空会社に重ね合わせたかのような映像を流したのは個人的にはあまり気分が良くなかったですけれどね。あと、休憩後の後半がちょっと一本調子だったのが惜しまれます。もちろん演出とのかねあいもあり必ずしも彼一人の責任ではないのでしょうが。

は: さて、邦画の力量を示した事は評価するとして、内容はいかがでございましたでしょうか?
ゆ: それなんだよねえ。。。これだけの力作であるに関わらず、

それに見合う感動に乏しい

というのが率直な感想です。日航ジャンボ機墜落事故は「クライマーズ・ハイ」のレビューの時に書いたように、リアルタイムで個人的な思い出ともリンクして深く記憶に残っているんですけどねえ。本当に不思議なくらい感動しないのは一体何故なんだろう、と今でも自問していますね。
は: それはご主人様が山崎豊子に好感を持っておられないからでは?
ゆ: はじめは私もそう思ったんですけど、色々なレビューを見ていると、想像以上に同じ感想の意見が多いんです。少なくとも渡辺謙日本アカデミー賞作品賞受賞時に壇上に上がって感極まっていたほどには観ている方は感動していないようですね。
は: 細かく分析すると色々と原因は見えてくるとは思いますが?
ゆ: アンチ山崎派の私があまり深入りしないほうが良いでしょう。既に専門の評論家の先生が色々な意見を発表しておられますしね。まあ敢えてざっくりと評価すると、

御巣鷹山のジャンボ機墜落事件: 良
第二部の政治家を巻き込んだ権力闘争: 可
主人公の海外勤務: 不可

といったところでしょうか。

は: 海外勤務が不可というのはどういうことでございましょうか?
ゆ: 主人公は報復人事により、カラチパキスタン)、テヘラン(イラン)、ナイロビケニア)と流されていきます。まあ名をあげられる国も迷惑でしょうけど率直に言って政情不安定な国ばかりです。ところが、そのシーンがどう見てもあまり深刻には見えないんですね。
は: 家族が不満を漏らす場面や仕事の頓挫に半狂乱になる場面などは描かれておりましたが、一方でバザールや浜辺でのんびり観光・買い物していたり、アフリカでハンティングしたりしておられましたね。
ゆ: まるで観光映像のようでしたね(苦笑。パキスタンケニアは私がこのブログで良く取り上げている「国境無き医師団」が深刻な人道的危機にあると指名している国の常連ですし、イランはその後イラクと戦争したり今では対米強硬路線をとって核装備を不安視されている国です。
は: その赴任先では上流階級的な家に住み安全を確保され、家族も十分養えるだけの給料は得ている。そしてそのような国の現実にはトンと関心が無いけれど観光には出かける、心配する事と言えば遠い日本の家族のことと自分の帰国のことばかり。。。
ゆ: それが日本航空の海外勤務者の本質だと言うのなら、それはそれで強烈な企業批判ですが、この映画では残念ながらそこまでの深い意図は読み取れませんでした。

は: ラストシーンのケニア雄大なサバンナの光景は見事でございましたが、それがかえって皮肉でございますね。
ゆ: 日本へ帰ってきてからの冷遇に「今はむしろケニアの生活の方が懐かしい」などと言ってみたり、墜落事故の遺族に「いつかこの国の雄大な風景をお見せしたい」などとのんびりした手紙を書く主人公は所詮は大企業に属する人間なのかなと思います。
は: 大体日本の自宅に自分がハントした巨像の牙を飾ったりするのは悪趣味極まりないプチブルですよね、
ゆ: これで「アカ」と差別され続けた家族だと言われてもね(苦笑。

は: さて、オールスター・キャストの俳優陣はいかがでございましたでしょうか?
ゆ: 紹介に書ききれないくらいの名だたる俳優がこれでもかと出てきて、皆それなりの重厚な演技をする、まあ若松監督も大変だったとは思いますが、皆さん各々の個性は良く出ていたと思います。
は: その中でもやはり渡辺謙様の入れ込みようは半端じゃなかったですね。
ゆ: ちょっと入れ込みすぎかなとは思いましたけど、彼と対峙しうるだけの敵役がいたので、かろうじて周囲から浮くのを防げたのが幸いでしたね。
は: ご主人様一押しのバイブレーヤー三浦友和様でございますね。
ゆ: この映画で多くの助演男優賞を獲得できた事で世間の認識も追いついてきたな、と手前味噌ながら言わせていただきます(笑。
は: 常々以前から良い脇役になったと褒めておられましたからね、この映画でも善の渡辺謙、悪の三浦友和というコントラストを重厚な演技でこなされました。その他に印象に残った方はおられますか?

ゆ: 香川照之、このブログで褒めまくっておりますが、もう出過ぎ(笑。ちょっとはセーブした方が良いぞ。あと宇津井健さんが久々に光っていましたね。
は: 妻に先立たれ、子供と孫を事故で一度に失い、たった一人取り残された遺族という役所を人柄がにじみ出るような渋い演技でこなしておられましたね、
ゆ: 他には薄幸の女性を演じさせたら今右に出る者はいないであろう木村多江さん、そして亡くなられた山田辰夫さんが印象に残りました。そう言えば加藤剛さん、お痩せになりましたねえ、お体の具合がちょっと心配です。

は: 以上、邦画の現在の力量をきっちりと提示した映画であると思われます。
ゆ: いろいろ批判は見受けられましたし、本レビューでも文句は言っておりますが(笑、とにもかくにも邦画のスタンダードとして一見の価値はある映画であると申しておきましょう。
は: では採点に参りましょう。これが今後の邦画レビューの一つのメルクマルとなる事に鑑みまして私メは順当な点数を出したいと存じます。
ゆ: 私はそこからどれくらい「感動の少なさ」を減点するかですな。

はむちぃ: 75点
ゆうけい: 71点

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