ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ルノアール展@NMAO

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(イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)、oil on canvas1880年、E.G.ビューレー・コレクション)
 ようやく春めいて今日は快晴、陽気につられて午前中に大阪中之島まで出かけてきました。目的は国立国際美術館(NMAO)で催されている「ルノアール展 -伝統と革新ー」です。朝一番で入りましたがそれでももう結構な人手でした。ルノアールは色々な展覧会で断片的にはしょっちゅう目にしているのですが、こうして油彩を中心に85点もの作品が集まったのを鑑賞するのは初めてで、ルノアールの真骨頂である女性像を中心に楽しんできました。

『 フランスの小説家オクターヴ・ミルボーは、1913年に刊行されたルノワールの画集の序文で、「ルノワールの人生と作品は幸福というものを教えてくれる」と書いています。この言葉は「幸福の画家」という称号をながくルノワールに与え、彼は女性と裸婦の芸術家として親しまれてきました。

 しかし、ルノワールはその初期から装飾芸術に強い関心を示し、各地を旅して風景画も多く制作しています。そこで『ルノワール─伝統と革新』展では、ルノワール芸術の魅力を4つの章(ルノワールへの旅身体表現花と装飾画ファッションとロココの伝統)にわけ、印象派という前衛から出発したルノワールが、肖像画家としての成功に甘んじることなく、絵画の伝統と近代主義の革新の間で、絶えず模索をつづけた姿をご覧いただきます。

 ボストン美術館の《ブージヴァルのダンス》やE.G.ビューレー・コレクションの《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》[大阪展のみ出品]などの代表作をはじめ、初公開作品を含む約80点からなる本展は、国内有数の印象派コレクションで知られるポーラ美術館の特別協力のもと、美術史の新しい視点からルノワールの絵画の魅力を探り、また本展を機に行われた光学調査により、画家ルノワールの技法の最新の知見をご紹介いたします。(NAMO公式HPより)』

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(水の中の裸婦、oil on canvas1888年、ポーラ美術館) 
 上記の紹介にもあるように、女性像、風景画、静物画、ブロンズ像と様々な彼の作品を紹介していましたが、やはりルノアール作品の最大の魅力と言えば女性の肌の質感の美しさです。これが「グラッシ」という手法で描かれている事は有名でご存知の方も多いかと思います。簡単に解説するとカンバスの上に白の絵具を塗り、その上に透明度の高い絵具を塗り重ねていく手法です。

 今回興味深かったのは、その手法に関して多くのルノアール作品を収蔵するポーラ美術館の協力を得てX線と赤外線による光学調査をした展示があった事です。それによると、彼の好んだ白の絵具は「シルバーホワイト(鉛白)」で、人物、地面、植物には厚く塗りこめ、空には少なく使用していた事が判明しました。また、人物の肌のグラッシは調べたうちの多くの作品で下書きをせずにいきなり鉛白で輪郭を決めています。また、緑色に関しては「エメラルドグリーン」を好んで使用していたことも赤外線分析で分かったそうです。

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(団扇をもつ若い女、oil on canvas、1879-1880年頃、クラーク美術館)
 ルノアールの父は仕立て屋で母はお針子さんだったそうで、それゆえ彼同時代の女性のファッションには敏感であったそうです。もちろん裸婦も得意でしたが(笑、様々な女性像の帽子や洋服、装飾品などに彼独特のセンスが見られました。団扇を持つ女の団扇には当時のジャポニズムが見て取れます。

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(アンリオ夫人、oil on canvas、1876年頃、ワシントン・ナショナル・ギャラリー)
 そんなルノアールですから早くから肖像画家として活躍したように思われますが、肖像画家として認められたのは意外に遅く、彼が38歳の時、「シャルパンティエ夫人とその子供たち」をサロンに出品した、1879年のことでした。

 その翌年には、カーン・ダンヴェール家から、娘イレーヌの肖像の注文を受け完成させています。それが冒頭に掲げた「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)」です。あまりにも有名な絵ですのでわざわざ見に行かなくても、と思われる方も多いと思いますが、実際に見るとその気品に圧倒されます。多くの女性肖像画の中でも傑出した作品である事が良く分かりました。

 その他に素晴らしいと思った肖像画は、男性では、
・親友を描いた「新聞を読むクロード・モネ
・美術商アンブロワーズ・ヴォラールに依頼されて描いた「闘牛士姿のアンブロワーズ・ヴォラール」、彼はこの絵を一生手放さず手許に置いていたそうです)

 そして女性では、
・柔らかいタッチの肌の質感と、当時流行の大きく胸の開いたドレスと花飾りが美しい「アンリオ夫人
・転機となったアルジェリア旅行でのルノアールにしては輪郭の明確な明るい「アルジェリアの娘」、
・マリー=クレマンティ・ヴァラドンを描いた「ブージヴァルのダンス」(彼女はユトリロの母です)
・マネとベルト・モリゾの娘、ジュリーを描いた「ジュリー・マネの肖像」、マネの描いたモリゾも美しいですが、ジュリーも彼女の血を引いて美しい

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(テレーズ・ベラール、oil on canvas、1879年、クラーク美術館)
 そしてこれだけは別に紹介しましょう。今回出典の作品中でも、イレーヌと双璧をなす傑作だと思います、「テレーズ・ベラール」。イレーヌの方は肌の、バックの、髪の褐色が印象的ですが、こちらは肌のにグラッシで重ねられた淡いピンク、そして服や背景のコントラストがとても印象的です。
 彼女はパトロンであった銀行家の娘で当時13歳!驚くほどのきりっととした知性美に圧倒されました。 

 というわけで普段モダンアートや抽象画・前衛画がどうだとかこうだとか偉そうな事を言ってますが、やっぱり女性像は良い、文句無しに良い(笑。さて冗談はさておき、晩年の作品も感慨深いものがありました。最後の安息の地エッソワの風景や静物画、女性像、どれをとってもリウマチで満足に指が動かせなくなっていたとは思えない作品ばかり。特に

・好きだったに徹底的にこだわった「イチゴのある静物
・人物三人がエッソワの溢れんばかりの陽光の中に溶け込む「風景の中の三人」の色彩

は素晴らしかったです。エッソワには梅原龍三郎も訪れ、彼のコロニスム(色彩主義)に多大な影響を受けたそうです。

  「説明を要するようなものは芸術とは言えない」とルノアールは生前語っていたそうですから、この辺で下手な解説はやめましょう。とにもかくにも85点というまとまった数のルノアールの作品を鑑賞できる機会は滅多にないと思いますので関西の方は是非どうぞ。

 そうそう、音声ガイドは松坂慶子さんで、なかなか良かったですよ。音声ガイドのBGMには

「世俗の踊り」 クロード・ドビュッシー
「アルバムの一葉」 エマニュエル・シャブリエ

が採用されていました。シャブリエルノアール夫妻と親しく交流した音楽家で、ドビュッシーラヴェルにも影響を与えたそうです。誰が弾いているかまでは分かりませんでしたがとても良い曲でルノアール展の雰囲気とてもマッチしていました。欲しくなりましたが、どなたかお勧めのアルバムをご存知でしたら教えてくださいませm(__)m。

付記: 音声ガイドに音楽提供:ナクソス・ジャパンと書いてあったので探してみたら、弾いているのはGeroges Rabol、アルバムは「Chabrier: Piano Works, Vol. 1」でした。