ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~

ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~ [DVD]
はむちぃ: 皆様ようやく気候も良くなって参りました今日この頃いかがお過ごしでございましょうか、本日の邦画レビューは昨年の話題作で数々の賞にも輝きました「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」でございます。太宰治ブームの一角を担った作品でございますが、ご主人様は学生時代どっぷりとはまっておられましたね。
ゆうけい: 中高の恩師がいつも

津島修司を自堕落と簡単に批判せず、もっと理解してあげてください」

とおっしゃってたのが今でも脳裏にこびりついていますね。さて理解できたかどうかはともかくとして、とにかく一度読み始めると病みつきになるんだよね、太宰の文章ってのは。
は: で、文庫本を次から次へ買いまくったわけでございますね。
ゆ: 中毒真っ最中の頃、日曜日の朝に一冊買って読み終わって物足りずに夕方にまた買いに走った事を覚えてますね。あの頃の新潮文庫の太宰は全部黒の背表紙でね、当時出ていた文庫本を全て買い終わって本棚の一段を占拠した時にはなかなかの眺めでしたな(笑。
は: その太宰様の「ヴィヨンの妻」を元にした映画でございますが。
ゆ: あの短編だけでは映画にならないからごった煮みたいにあちこちからネタを拾ってきていますね。
は: リンク先の公式HPには「思ひで」「灯篭」「姥捨」「きりぎりす」「桜桃」「二十世紀旗手」をブレンドしたと書いてありますね。
ゆ: それ以外にもちょっとした台詞に「グッド・バイ」を入れるなんて事をやってますね。本当に必要だったとは思いませんが、まあ太宰ファンの自尊心をくすぐろうって腹ですかね。

『2009年日本映画、製作: フジテレビジョン パパドゥ 新潮社 日本映画衛星放送
制作プロダクション: フィルムメイカーズ

キャスト:
松たか子浅野忠信室井滋伊武雅刀広末涼子妻夫木聡堤真一

スタッフ:
原作: 太宰治
脚本: 田中陽造
監督: 根岸吉太郎
製作: 亀山千広 山田美千代 田島一昌 杉田成道

秀でた才能を持つ小説家の大谷(浅野忠信)と誠実で美しいその妻・佐知(松たか子)。大谷はその才能とは裏腹に、お酒を飲み歩き、借金を重ね、妻以外の女性とも深い関係になってしまう破滅的な生活を送っていた。ひょんなことから夫の借金を返すために飲み屋・椿屋で働き始めた佐知は、あっという間にお店の人気者になり、日に日に輝きを増していった。そんな佐知は、常連客の一人、大谷ファンの青年・岡田(妻夫木聡)や昔佐知が振り向いてもらえなかった弁護士・辻(堤真一)から好意を寄せられるのだった。見違えるように美しくなっていく佐知に嫉妬する大谷。そして大谷は、書くことそして生きることに苦悩し、愛人の秋子(広末涼子)と心中未遂を起こしてしまう。それを知った佐知は・・・。(AMAZON解説より)』

は: なんともはや陰鬱で救いようのない映画でございますね。主人公の大谷と言う小説家、自分は浮気はするわ、心中未遂を起こすわ、借金は踏み倒すわ、酒と薬に溺れるわ、という自堕落振りなのに、かいがいしく支える妻が浮気しないかと神経症的に疑い欝に陥ってしまう、、、はむちぃメ、あまりの身勝手さに怒りを抑え切れませんでした。
ゆ: まあまあ、はむちぃ君、そう怒らずに(^_^;)、ヴィヨンを映画化しようとしたら結局こういう作品になるんですから(笑。それよりちゃんとした映画に仕上がっていた事を評価しょう。
は: 確かにブームに乗った作品は安易な作りでろくな事が無いのですが、この作品は丁寧に作りこんであり、敗戦直後の東京も良く再現されており、立派に一本の映画として成立していたことは認めざるを得ませんね。
ゆ: 根岸さんたいしたもんですわ、コンニチワ~。
は: そ、それはこんにちは根岸。。。(-_-;)、根岸吉太郎様に怒られますよ。
ゆ: スマソ、さすがに「遠雷」「サイドカーに犬」なんかを撮った方ですね、主要な登場人物全員の人物描写に目が行き届いていて、それぞれの演技に深みを感じました。あの広末涼子でさえ、いっぱしの演技をしてたのには驚きましたよ、濡れ場を出し惜しみしなけりゃ完璧でしたね(爆。
は: これこれ、ゆうはむレビューの品位を汚さないで下さいまし。
ゆ: まあそうはいうけど、根岸さん元々は日活ロマンポルノの出身でっせ~、なんとかヒロスエを口説けなかったもんですかね(苦笑。

は: さてそれはともかく、はむちぃメ違和感がありましたのは台詞回しでございます。主人公と妻の会話など、太宰治の文章をそのまま朗読しているような感じがいたしました。
ゆ: そこですよ、はむちぃ君、この映画の、そして太宰文学の魅力は!私はこの台詞回しを今風に変えなかった脚本の田中陽造と監督の根岸に深く共鳴しますね。
は: と、申しますと?
ゆ: 太宰治の魅力を多くの人は破滅型の人生を投影した小説の内容であると思っているんだろうけど、決してそうではない。コミカルな作品や古典に素材に題を取った作品、ごく普通の小品など様々なジャンルの小説を書ける人で、その全てを通じての彼の真骨頂はその

文体、文章自体の持つ美しさ

にあると思うんだ。だから、彼の作品を映画化する場合、その文体の扱い如何によってはただのメロドラマに堕してしまう可能性が高い、と実は危惧していたんだ。
は: ところが、実際この作品は太宰の文体を可能な限り台詞に残していると?
ゆ: そういう事、それだけで私はこの作品を評価しますね。

は: さて俳優陣でございますが?
ゆ: 先ほども述べたように主要登場人物全てに監督の目が行き届いていて、みんな良い演技をしていますよ。その中でも際立っているのは徹底的なダメ男振りを演じた浅野忠信でしょう。「剣岳~点の記」の浅い描き方とは対照的で、やっぱり監督の力は大きいと思いました。
は: 松たか子様は絶賛され、数々の賞を総ナメにされましたが?
ゆ: 正直に申し上げて私はあまり彼女には魅力を感じないんですが、まあそれにしてもこの映画は彼女のオーラで一作品として持ち堪えたといっても過言ではないです、本当に立派ですね。
は: 浅野様の陰の力に拮抗してダークサイドから彼を引き戻したラスト・シーンは深い余韻を残しましたね。
ゆ: 心中未遂で「人非人」と書かれた新聞を読んでいたたまれず居酒屋を出ていった夫を追いかけていき、

人非人でも良いじゃありませんか、二人こうして生きてさえいれば」

と夫に語りかけ、夫が食べていた桜桃を一つつまんで食べて種を吐き出し、そっと二人手をつなぐシーンが白黒の静止画像に変わってエンドロールが滑りこんで来た時、初めてこの映画は救われましたね。

は: 先ほど少し触れられました広末涼子様はいかがでございました?
ゆ: ソバージュに眼鏡が魅力的でしたね(笑。演技としてはただ一点、留置場で松たか子とすれ違った時の勝ち誇った笑顔、あれだけで成長したなあと思いました。
は: 心中未遂を起こしたという事で妻に対する以上の愛を浅野から勝ち取った、という優越感をあの笑顔一つにこめたのでございましょうね。

は: ということでございまして、まことに救い様のない映画なのではございますが、安易なブームに堕し無かった太宰作品でございます。太宰ファン以外には途中で逃げ出したくなるような映画でございますが、一度太宰文学を読んでみようと思われる方は入門編としていかがでございましょうか。
ゆ: 台詞回しに違和感がある方も多いかも知れませんが、私見ではあの言葉遣いが真の太宰文学の魅力だと思います。噂では最近の文庫本は現代風仮名遣いになっていると聞きますが、出来れば旧来の仮名遣いで読んでいただきたいと思います。

は: では採点でございます。今回は私よりゆうけいの方が高い点数を出しそうでございますね。

はむちぃ: 65点
ゆうけい: 77点

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