先日40万ヒット企画でT.REXを取り上げましたが、もしクラシックにするなら女流ヴァイオリニストで一番好きなヴィクトリア・ムローヴァをレビューしたいと思っていました。結局自分には荷が重すぎる事もありあきらめましたが、そんな折りも折り私も大好きな最新作「J.S.Bach: Sonatas & Partitas BWV1001-1006」がprimex64さんの主宰するブログMusic Arenaで「Music Arena Grand Prix 2009 」を受賞しました。受賞理由を引用させていただくと、
「2009年度はこれに尽きると思う。時代考証を重ねてあるべき解釈を検討し、そして16~17世紀に思いを馳せた曲想、そして吟味した楽器・・・。ムローヴァのひたむきなチャレンジはまだまだ続くはずだ。他にも交響曲やフルオケ器楽作品や室内楽など色々あったがVn一挺でここまでの音楽を構築する彼女に脱帽。」
う~ん、これ以上何を書けばいいのか(笑。とにもかくにも初めてかけた時の第一印象は鮮烈で、音が鳴り始めた途端空気がさぁ~っと綺麗に浄化され無色透明になった音場の中央にヴァイオリンの音がピシッと定位する様に「見」惚れました。傳先生みたいですが(笑。
ムローヴァと言えば、研ぎ澄まされたナイフのように硬質で温度感の低い演奏を想像されるかもしれませんが、彼女はロシアで教えられてきた従来のバッハ観を大きく変更し、ガット弦にバロック時代の弓を使用しウォームで滑らかな音色で弾いています。それにしても調弦が狂いやすく、高音が不安定なガット弦をモノともしないムローヴァの技量にはやはり脱帽です。
まあこれ以上詳しいことはprimex64さんのレビューをご覧いただければ良いわけで、こちらはもっとベタな愛聴盤をご紹介したいと思います。美人姉妹で有名なラベック姉妹の姉でかつてジョン・マクラクラン(マクラフリン)と結婚していた事もあり、あのマイルス・デイビスのアルバムにも「Katia」という曲があるほど、クラシック畑以外の音楽ファンに良く知られたピアニスト、カティア・ラベック(Katia Labeque)とムローヴァが共演したリサイタル・アルバムです。
クラシックのアルバムは美人の顔をアップにしておけば売れると良く言われますが、美人二人が写っていてなおかつこれだけセンスの良いジャケットはめったにお目に掛かれないんじゃないでしょうか。さすがONYXです。
『ムローヴァ&ラベック~リサイタル
美しきミューズたちが贈る最高のリサイタル!
ヴィヴァルディの協奏曲集(ONYX4001)、シューベルトの八重奏曲(ONYX4006)が世界各国で最高の評価を獲得するなど、オニックス・レーベルの看板アーティストとしての地位を不動のものとしたムローヴァ。サード・アルバムとなる新譜は、これまでに幾多の共演を重ねている盟友カティア・ラベックとのデュオによるリサイタル・プログラムです。
収録曲は、ムローヴァとラベックが実際のコンサートでよく演奏する曲目をずらりと揃えた魅惑のラインナップ。ジャケットもムローヴァとラベックのビジュアルを余すことなく活かしたセンスの良いデザインに仕上がっており、注目度は抜群です。
・ストラヴィンスキー:イタリア組曲(プルチネラからの編曲)
・シューベルト:ヴァイオリンとピアノのための幻想曲ハ長調 D.934
・ラヴェル:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調
・クララ・シューマン:ロマンス Op.22-1
ヴィクトリア・ムローヴァ(ヴァイオリン)
カティア・ラベック(ピアノ)
録音:2005年12月、パリ』
ムローヴァとカティアは以前からライブで共演を重ねており、その代表的なレパートリーがこのアルバムに収録されています。いきなりストラヴィンスキーの「ブルチネラ」からしてぴったりと息のあった、というよりは丁々発止の演奏を展開しております。
正直言って人気先行型のアーチストで、かつ姉妹のうちで我の強い方のカティアが「ムローヴァの伴奏」と言う形でこれだけの演奏ができるとは驚きです。
続くシューベルトの幻想曲では一転して甘く柔らかい演奏でしっとりと聴かせます。次いでカティアの故国フランスを代表するラヴェルのソナタではカティアのピアノの音の粒立ちが抜群。そして最後にクララ・シューマンの「ロマンス」は美の極致で何度聴いても素晴らしい。クララと言えばロベルト・シューマンの妻でブラームスとの艶聞で有名な女性程度の認識しかなかった自分にとっては本当に驚きの曲です。
この全ての演奏を通じてムローヴァは一分の隙も無い演奏をしていますし、ここでの弦は当然ながらガット弦ではありませんが、それでも女性同士の共演という事もあってか、女性らしいしなやかさ、たおやかさを感じる演奏をしています。彼女が決してクール・ビューティで無いのだなと分かり始めたアルバムでもありました。
といってもムローヴァの全てのアルバムを聴いているわけではありませんが、この頃オーディオネタもない事ですし(笑、最後に簡単に私のオーディオライフとムローヴァの関わりについて紹介させていただきます。
私がWilson AudioのCub IIでオーディオを再開した頃、どうしてもクラシックのヴァイオリンに馴染めず、Tak Saekiさんに「とにかくいろいろ聴いてみてください」と言うアドバイスをいただき購入したうちの一枚が「鏡の国のアリス」でした。
ヴィクトリア・ムローヴァという名前くらいは知っていて、その彼女がポップスやジャズをカバーしたアルバムを出したという事で食指が伸びたわけです。が、、、そのヴァイオリンの音の硬い事硬い事(笑。まあ、Cub IIですから余計に硬かったんでしょうね。そんな中でも、最後の曲ホリーズのカバー「安らぎの世界」はとても良い演奏で心に残りました。この曲をうまく鳴らそうと努力した事がとても勉強になったと今でも思っています。
そして時は流れ、この2006年録音の「リサイタル」アルバム。無難に鳴る事は鳴るのですが、上に書いたように動と静、暖と寒、硬と軟が交互に並ぶため、やはりCub IIではその魅力の十全には引き出せていないと感じていました。そんな頃ステサンにある一枚のスピーカーの写真が載りました。そう、DynaudioのSapphireです。これや!と直感しました(笑。それが今の拙宅のメインスピーカーなのですが、セッティングを煮詰めていくにつれ、その直感は正しかったと確信するようになりました。
その後はムローヴァと拙宅のメインシステムとの相性はとても良いです。以前ご紹介した「Vivaldi Concertos for Two Violins」は最初から何のストレスもなく楽しめましたし、ダントーネのチェンバロとの共演によるバッハのソナタ、そして今回の無伴奏バッハと、サファイアはムローヴァをかけると機嫌が良くなります(笑。これからもムローヴァさんにはオーディオに喝を入れるためにも頑張っていただきたいと思います。
以上、ムローヴァについていつかは書きたいと思っていたものの、綺羅星の如く数多い女性ヴィオリニストの中での位置付けに自信がなかった私に一つの明快な座標を与えてくださったprimex64さんに感謝します。