ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ウォッチメン

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
はむちぃ: そろそろ水温む候、皆様いかがお過ごしでございましょうか、はむちぃでございます。本日の映画レビューは昨年前田有一の超映画批評で98点と言う驚異的な点数を叩きだしました洋画「ウォッチメン」でございます。
ゆうけい: とか何とかいいながら今朝は猛吹雪でございました(涙、ゆうけいでございます。さて、アメコミと申しますと独自の発展を遂げた日本のアニメと違って「ラフな作画と子供向けの荒唐無稽なストーリー」という固定観念がございますが、前田有一の言葉を借りますとこれは「完全に大人向けの、ほとんど文学と呼ぶべき」コミックで、しかもあの暗く陰鬱だった「ダークナイト」よりまだ「地味で難解」と言うんですから楽しみです、まあいっぺん観てみましょうで、はむちぃ君。
は: まったく、マニアックなものには目がないんですから(-_-;)

『 2009年、アメリカ映画、167分

配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督: ザック・スナイダー 
原作: デイヴ・ギボンズ 
キャスト: ジャッキー・アール・ヘイリーパトリック・ウィルソンビリー・クラダップマリン・アッカーマン

1985年、ニューヨークで一人の男が死んだ。その正体を知る元仲間のロールシャッハジャッキー・アール・ヘイリー)は、単独で調査を開始する。男の正体は長くヒーローとして活躍してきたコメディアンことエドワード・ブレイク(ジェフリー・ディーン・モーガン)。ロールシャッハは、ヒーローチームのメンバーが、次々と変死をとげている事実を重大な脅威と感じていたのだ。 』

は: こ、これは度肝を抜くような凄い映画でございますね。2時間47分という長尺をモノともせず息つく暇も与えないようなストーリー展開でございました。
ゆ: さすがコミック原作にもかかわらずR指定されてるだけの事はありますな、スプラッターにセックスにど派手なCG、どこが地味やねん(苦笑。
は: そっちにきますか(-_-;)、しかし難解である事は間違いございませんね。
ゆ: 確かに。アメリカ人が「Rorschach(ロールシャッハ)」を「ロールシャック」、「Kovacs(コバチ)」を「コバックス」と発音する事が分かりましたぁ(^O^)
は: 違うっちゅうに(--〆)。

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(第二次世界大戦終結を祝う若い男女)
ゆ: まあまあはむちぃ君、そう怒らずに(^_^;)、真面目にいきましょか、確かにこの映画、アメリカの近・現代史の教養がないと面白くもなんともありませんな。ついでにスーパーマンやらワンダー4やらバットマンやらアメコミのヒーローについても知っとかないといけませんが。
は: タイトルロールでボブ・ディランの「時代は変わる」をBGMに流れるアメリカ史を彩る様々な場面のグロテスクなパロディは、元の写真や映像を知らないと何の事か分からないでしょうね。
ゆ: 上の写真は第二次大戦で日本が降伏し終戦を迎えたNYの路上で撮られた、有名な海兵隊員と恋人の路上のキスですが、それをあんな風に変質させるとはねえ、それもタイトルロールで。。。
は: それ以外にも、以前拙ブログの20万ヒット記念企画でも紹介したしましたフラワームーブメント時の銃口に花を挿すデモ隊の青年、アポロ月面着陸、ケネディ暗殺、アンディ・ウォーホール、東西冷戦、終末時計等々、有名なシーンばかりでございましたが、
ゆ: その年代を微妙にずらしていて、例えば1985年が舞台にもかかわらずニクソンらしき人が大統領をやってたり、かなり細部に凝って作っているんですが、日本人には馴染みの薄いものも多いですし、今の若い人には一つ一つ解説がいるかもしれませんね、池上彰さんよろしくお願いしますm(__)m。

は: 違うっちゅうに(--〆)(再。
ゆ: まあまあ(^_^;)(再。大体からヒーローの名前からしてパロディにして難解ですからな。バットマン(蝙蝠)が「Night Owl(梟)」になってるくらいはまだご愛嬌で、覆面の白黒模様が蠢くように変化するロールシャッハは心理学テストで有名な「ロールシャッハ・テスト」ですし、放射能を浴びて「青いフルチン男」と化したDr.マンハッタンに至ってはどう考えても「マンハッタン計画」と無縁ではないでしょう。
は: 解説しよう、マンハッタン計画とは

第二次世界大戦中、枢軸国の原爆開発に焦ったアメリカが原子爆弾開発・製造のために、亡命ユダヤ人を中心として科学者、技術者を総動員した国家計画」

のことである。
ゆ: はむちぃ君、いつからヤッターマンのナレーションに(苦笑。

Watchmen は: さて、そのような一癖も二癖もあるスーパーヒーローを

「現実世界にぶちこんだらどうなるか」(前田有一

を描いたのがこの映画でございます。
ゆ: ようやく映画の内容に入りましたな、あいかわらず前置きの長いレビューじゃ、許せよ~(横山たかし師匠風。
は: 無視無視、現実世界では善悪の境界は必ずしも明快ではございませんから、典型的なアメコミのスーパーヒーローは

「ただのコスプレ自警団。素顔を覆面で隠し、法律では裁けぬ悪党どもを、暴力で制圧しているに過ぎない。もちろん、中身は普通の人間」
「そんな酔狂なことをするのは、猛烈な愛国右翼か、ちょっと頭のおかしい奴、あるいは暴力大好きな危険人物とか、自己顕示欲の強いナルシストしかいない。」(前田有一

となってしまいます。
ゆ: で、そういう奴が現実世界で悪人退治と称して暴れたら

「市民たちも、彼らの行き過ぎた暴力や監視社会にやがて反発する。その結果、ヒーローという名の自警活動は違法行為となる。この規制法により自称ヒーローたちは、あわれ引退を余儀なくされる。」(前田有一

事になります。「ダークナイト」におけるバットマンとジョーカーの葛藤をさらに一歩推し進めこの二人にタッグを組ませているようなもんで、これはもう、従来型の勧善懲悪アメコミに対する強烈なアンチテーゼですね。

Watchmen2 は: この映画におけるスーパーヒーロー軍団・ウォッチメンの中では、冒頭で謎の人物に殺される「コメディアン」と本作の中心人物である「ロールシャッハ」がその「ちょっと頭のおかしい奴、あるいは暴力大好きな危険人物とか、自己顕示欲の強いナルシスト」に該当いたしますね。
ゆ: ロールシャッハはそのキャラ作りからしてジョーカーに似てますねえ。そしてあくまでも従来型の善人で正義感の強いヒーローが「ナイトオウル2世」と「2代目シルクスペクター」の男女コンビ、どちらも2世というところがにやっと笑わせますな。まあ、この4人が小悪人に制裁を加えたり災害救助してたりする分には、せいぜいアメリカ市民がありがた迷惑するだけで済むんですが。。。
は: 「誰がウォッチメン(監視者)を監視するのか」(Who watches the watchmen?)でございますね。
ゆ: そうそう、深く掘り下げるとそのフレーズは古代ローマの詩人ユウェナリスの詩に由来するそうなんですが、まあ単純にアメリカ市民がスーパーヒーローに辟易していると考えてください。私も詩を吟じてみますと、

U: うるさいぞ、そこのスーパーヒーロー
S: せっかく楽しい夜を過ごしてんのに暴れくさって
A: アホかおまえ等、消えさらせ!

ジャジャジャジャジャジャジャン、サンキュー!
は: フットボールアワーの新ネタをかましている場合ではございません(ーー;)。問題はこの4人のはるか上を行く文字通りの超人の存在、すなわち「Dr.マンハッタン」と「オジマンディアス」でございましょう。
ゆ: そうそう、こいつ等がいるから話が突飛も無い展開になっていくわけです。特にDr.マンハッタンは

放射線科学実験室の事故で、原子を操る能力を身に着けたこの男は、テレポートも飛行も自由自在、核ミサイルすら無効にする力を持つ。外見は青い肌にフルチンのマッチョマンだが、その存在は米ソ冷戦のバランスを崩すことになる。」(前田有一

というとんでもない存在です。一人で世界をどうにでも替えられる力を持つ彼は、最初の頃はアメリカの味方であり、ニクソンの命令によりベトナム戦争に介入してあっさり勝利し「神」とまで崇められますが、次第に人間性を失っていき、揚げ句の果てに火星で一人暮らしするようになってしまいます。このあたりのシュールさはちょっとカート・ヴォネガット・Jrを思い出させましたけれど、ちょっと飛び抜けすぎていて現実とフィクションのバランスを崩していたようにも思いますね。
は: そしてオジマンディアスは

「Dr.マンハッタンを利用して核戦争による人類滅亡を回避させる」

という他の4人とはスケールの違う壮大な野望を抱いており、それ故に桁違いの大迷惑が後半世界中に降りかかってくるわけでございます。
ゆ: 「新たな強敵が現れればケンカ相手同士も協力し合う」というのは、考えてみれば少年ジャンプが「ドラゴンボール」をはじめとして最も得意としていた発想で、その意味ではやっぱりこのストーリーもコミックはコミックだな、と思わないでもないですね。まあその方法については見てのお楽しみとしておきますが、当時の東西冷戦は人類を何十回と滅ぼせるだけの核兵器をお互いが装備しあい、終末時計が0時4分前を指すという状況を産みだしてましたから、彼の計画にも確かにある程度の説得力はありますよね。逆に言えば現実世界がそれだけ非現実的となってしまった事の裏返しでもあるのですが。

Rorschachは: と大筋はそんな感じなんですが、この映画全体を貫いての主人公はロールシャッハですね。
ゆ: 「ダークナイト」においてジョーカーがバットマンを完全に喰ってしまったように、彼の人間臭さと残忍性が最も生彩を放っていましたね。
は: 当初はスケールの小さい普通のスーパーヒーローだった彼が何故あれほどの狂気を孕むようになったのか、その理由が明かされるシーンを見て、はむちぃメ心臓が止まりそうになりました、トラウマになりそうでございます。
ゆ: お気の毒です(苦笑、まあだからこそのR指定なんでしょう。そしてラスト近く、彼が命を賭けて南極の氷の上に描いたロールシャッハ図。これがそれまでの彼を不快に思っていたであろう観客にも鮮烈極まりない印象を与えます。間違いなく彼がこの映画のキーパーソンであり、ザック・スナイダー監督が彼に託したメッセージを、観るものはしかと受け止める必要があるでしょうね。

ロールシャッハという男の存在はきわめて重要だ。彼の行動を是とするか非とするか。彼を好きか、嫌いか。そこに最も重要な、監督からの問いかけが隠されている。この映画は彼の名前、そしてマスクにある模様、見るものによって意味を変える、ロールシャッハテストそのもの、というわけだ。

いったい何の事を言っているのか、作品を見ていないほとんどの方にはさっぱり理解不能に違いない。

だが、もし見終わったら、ロールシャッハ、そしてあの青いフルチン男がいったい何の象徴だったのか考えてみてほしい。「現実世界にヒーローがいたらどうなるか」。それが果たしてフィクションだったのかどうか、を。」(前田有一

前田有一はさすがプロ、うまいですね、この文章を読んだら観ずにはおれんでしょう(笑。

Photo は: 最後に俳優陣ですが、当初はかなりの豪華スターをウォッチメンにキャスティングする予定だったらしいですが、結果的にはあまり有名でない俳優さんばかりになってしまいました。
ゆ: その方が却ってストーリーに没入する事ができてよかったんじゃないでしょうか。ただ、無名俳優を使ったヒーローモノと言えば以前レビューした「ドラゴンボール」のように、どうしてもB級映画になってしまうのですが、それを超A級映画に仕上げたザック・スナイダーという監督はただものではないですね。閑話休題、まあその中でもロールシャッハ役のジャッキー・アール・ヘイリー(写真)は抜群に良かったですね。

は: その他印象に残った点はございますか?
ゆ: 時代を感じさせる有名曲の使い方の見事さでしょう。
は: 冒頭でコメディアンがTVのチャンネルを変えると流れてくる甘いスタンダード・ナンバー「Unforgettable」、それをBGMに激しい格闘の末の彼の殺害シーンが描かれ、そこから一転してタイトルロールに入る際にフィル・インしてくるボブ・ディランの「The Times They Are a-Changin'」、この流れは見事でございました。
ゆ: その他にも「99 Luftballons」「Sound Of Silence」「All Along The Watchtower」などが効果的に使われておりました。そして最後の最後、エンドロールの二曲目に流れるレナード・コーエンの名曲、これを絶対に聴き逃さないでください!この映画の内容と見事に合致していますし、日本では全くの無名曲であるにもかかわらずオーディオファイルには超有名な曲だというところも美味しいですよ。

は: というわけでございまして、R指定ではございますが大変深く多層的なアンチヒーロー映画の傑作となっております。
ゆ: こういう観客の知的レベルや教養に応じて楽しみ方が変化する映画というのは度を過ぎると嫌味になってしまいますし、そういう映画ばかり作られても困ってしまいます。ただ、今回は楽しめました。唯、のほほんと観られる映画ではないので、気力の充実した時にレンタルで楽しんでくださいませ。
は: では恒例の採点です。

はむちぃ: 85点
ゆうけい: 80点

ゆ: なんぼなんでも前田有一の98点は高すぎですね。笑い飯鳥人に100点つけるようなもんでしょう(笑。

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