ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

君はフィクション / 中島らも

君はフィクション (集英社文庫 な 23-23)
君はフィクション (集英社文庫 な 23-23)
 今日7月26日は中島らもの命日です。先日のセルフ・セレクション・ベスト10で紹介した「わかぎゑふさんのコメントに泣く」を書いてから5年の歳月が経ったわけですね。アクセス記録を見ますと沢山の方にその記事を見ていただいたようで、感謝しております。ちょっとはらもさんへの供養になったでしょうかね?あの世で「余計なお世話や」とぼやいてるかもしれないけど。
 その彼の最後の短編集が「君はフィクション」で、最近未刊行短編3本を追加して文庫本化されました。先日買ってもうとっくに読み終わったんですが、裏を見ると「2009年7月25日 第一刷」となっています。深い意味はないのかもしれませんが、泣けますね。

山紫館の怪
君はフィクション
コルトナの亡霊
DECO-CHIN
水妖はん
43号線の亡霊*
結婚しようよ
ポケットの中のコイン*
ORANGE'S FACE*
ねたのよい - 山口富士夫さまへー
狂言「地籍神」
バッド・チューニング

 異端者、特に精神・身体障害者への強いシンパシーを示す「君はフィクション」「DECO-CHIN」「ORANGE'S FACE」、怖いようなおかしいようなもの悲しいような、らも風としか言いようのないホラー「山紫館の怪」「コルトナの亡霊」「水妖はん」「43号線の亡霊」「狂言地籍神」「ポケットの中のコイン」、音楽への傾倒を示す「DECO-CHIN」「バッド・チューニング」、中津川フォークジャンボリーや京都ロック・シーンのルポとも言える「結婚しようよ」「ねたのよいー山口富士夫さまへー」、どれをとってもらも節は健在です。

 死の数年前はアルコール・薬物中毒、躁うつ病で入退院&拘置所留置などを繰り返し、完全に日常生活は破綻していたはずの彼ですが、他作品とのネタの重複や若干の文体の乱れはあるものの最後の最後まで書く文章は昔からのらもそのものだった、と言うところには畏怖の念さえ覚えます。

 ことに未刊行だった3作品は文体に切れがあるし、文章が立っていて凄いなと思います。他の短編より以前にどこかに発表されたものならむべなるかな、とも思いますし、もしこれが死の間際の作品であったなら、蝋燭の灯の消える前の最後の輝きだったのかもしれません。

その時、後方で、全ての色彩が炸裂した。ビュウウンという、ものすごい音がして、色彩の、光芒のかたまりが彼のポルシェを抜きさっていった。そしてそれは中央からフェンシングの刃先のように、真紅や、青や、緑や、オレンジ色の閃光をひらめかせながら一つの光の玉となり、そのままビュイッという音だけを残して路上から消えたのだった。(43号線の亡霊)

らもさんの散り際そのもの、かな。