ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

日本の医療小説・ノンフィクション40冊(2)医療ノンフィクション傑作20選

Kunioyanagida
(柳田邦男氏)
 前回に次いで、日経メディカルの500号記念増刊号「日本の医療小説・ノンフィクション40冊」企画よりノンフィクション編を取り上げてみます。選者はやはり前回と同じく書評家の東えりか氏と日経メディカル編集長千田敏之氏です。

医療ノンフィクション傑作20選
1:ガン回廊の朝 柳田邦男(1979)
2:誰も書かなかった日本医師会 水野肇(2003)
3:エイズ犯罪 血友病患者の悲劇 櫻井よしこ(1994)
4:ルポ 精神病棟 大熊一夫(1973)
5:ガン病棟の九十九日 児玉隆也(1975)
6:乳ガンなんかに負けられない 千葉敦子(1981)
7:生と死の境界線 岩井寛(1988)
8:「死の医学」への序章 柳田邦男(1986)
9:癌と闘った科学者の記録 戸塚洋二、立花隆編(2009)
10:病院で死ぬということ 山崎章郎(1990)
11:救命センターからの手紙 渡辺祐一(1998)
12:検疫官 小林照幸(2003)
13:レーザーメス 神の指先 中野不二夫(1989)
14:蘇る鼓動 後藤正治(1991)
15:凍れる心臓 共同通信社移植取材班(1997)
16:日本の臓器移植 相川厚(2009)
17:院内感染 富家惠海子(1990)
18:「尊厳死」に尊厳はあるか 中島みち(2007)
19:わたしのリハビリ闘争 多田富雄(2007)
20:臨床瑣談 中井久夫(2008)

テーマ
1-4:戦後から現代までの医療を俯瞰
5-9:癌闘病記
10-12:現場で戦う医師たち
13-16:医療技術の進歩
17-18:医の倫理
19-20:現代医療の問題点

 やはりノンフィクションは小説にもましてよく読んでいますね。ですから大半は知っていますが、特に「病院で死ぬということ」は初めて読んだ時は涙で最後まで読みとおす事が大変だったのを覚えています。読後には全く自分の分野とは畑違いのこの方向へ進もうかとさえ考えましたが、続編が次々と出るに連れて少しずつ覚めてしまいました(苦笑。
 一方で「レーザーメス 神の指先」などは自分の専門分野のど真ん中なんですが、冒頭の医師の態度が余りに奇矯で最後までのめりこめなかった覚えがあります。たしか、アポロ12号の月面着陸のTVでの生中継に熱中する余り、9時からの外来業務をサボタージュしてしまい、ついに外来時間が終わってしまったと言うエピソードでした。それにはそれなりの理由があるとはいえ、当時の真面目な自分には許せない愚行のように感じましたね(^_^;)。

 前回取り上げた「和田移植」に関しても二冊入っています。ただ、いくら最近の言動がおかしいとはいえ、立花隆氏の渾身の力作「脳死」「脳死再論」が入っていないのはやっぱりおかしいかな、と思います。

 

 あと、医療関係者以外の方が医療ノンフィクションを読まれる場合気を付けていただきたいのは、医療自体が日進月歩であるため賞味期限がある事、そして医療には不確定な要素が多く、また立場によって考え方も大きく異なってきますから、著者の主張が必ずしも100%正しいとは限らない事です。

 例えば柳田邦男氏の「ガン回廊の朝」は、発刊当時大変感激しながら読んだ記憶がありますが、例えば今の医学生、研修医あたりが勉強するにはもう古すぎます。まさに古典を読むような感じでしょうね。もちろん医学の歴史、先達の苦労を知るには良いでしょうけれども。

 そう言えば柳田邦男氏の講演も学会で聴かせていただいた事があります。失礼ながら、あれだけの文章を書く方とは信じ難いほどぼそぼそとした語り口で、話の内容も要領を得なかったので大変がっかりした覚えがあります。そのときの体調がお悪かっただけなのかどうかは分かりませんが、それ以後あまり氏の著作は読まなくなりました。