ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

少女横顔 / 小磯良平(リトグラフ)

Koiso1
 「いつかは本物の小磯良平画伯の作品を家に飾りたい」という私の夢がついにかないました。感無量です。
 もちろん小磯画伯の油絵などは高値の花もいいところですし、個人で持つレベルのものでもありません。でも決して強がりでなく、私が望んでいたのはデッサン画でした。たとえデッサンでも自筆画ならやはり美術館所蔵レベルですので、必然的にエッチングリトグラフになります。ちなみにエッチングですとバブルの過ぎた今でも小磯作品の場合200万円は下りませんが、リトグラフだと大分お安くなります。と言っても勿論そう易々と買える値段でもありません。

 実はまだバブルの名残が残っていた頃、これは欲しいと思えるリトが売りに出ていたことがあったのですが、残念ながらそれでも高価で手は出せませんでした。とはいえ手が届かない値段でもなかったので惜しいことをしたなあ、という後悔の念はずっと消えずにいました。そして、いつか

デッサンの筆致の素晴らしさとモデルの美しさの両立した作品

に巡りあえればその時はきっと、と思っていたのですが、ついに先日このリトグラフを某アトリエでみつけたのです。画伯独特のデッサンの一つ一つの線の生き生きとしていること、そしてモデルの女性の美しさに思わず見惚れて立ち尽くしてしまいました。
 というわけで、今回はどうしても手に入れたくて、アトリエと交渉し、家内の理解も得て購入することができました。

 以上が入手の経緯なのですが、冒頭のデッサン画、皆さん如何でしょうか。熱心な小磯ファンの中には「こんな横顔の絵見たことないなあ」という方もいらっしゃるでしょうね。実は私も見惚れた後で冷静に思い返してみたのですが記憶にありませんでした。また、この作品には捺印だけで見慣れたkoisoのサインはありません。

Certificate
 アトリエの方の説明によるとこの作品は氏の死後アトリエから原版が発見され、ご遺族ご了承のもとに捺印した上で150部刷られたリトであるとの事でした。それもあり少し求めやすい値段になっていたのかもしれませんが、決して贋作ではないようです(笑。卸元が長く小磯作品を扱って定評のある梅田の某画廊であることからしても信用してよいものと思われます。

Atelier
 以前ご紹介したことのある、小磯良平記念美術館内に保存されている小磯画伯のアトリエです。この部屋に(もちろん移転前でしょうが)原版が眠っていたのかと思うと感慨深いものがあります。

 さて、何故そんなにデッサン画にこだわるのか?というと、小磯画伯のデッサン力が傑出していると常々感じているからです。
 小磯画伯がマネを尊敬していたことは有名ですが、以前紹介したことのある「ベルト・モリゾの肖像」をはじめ、人物画の得意だったマネの技巧を先生も求め続けておられたのでしょう。ですから人物、殊に女性のデッサンの完成度は余人の追随を許さないものがあると思います。柔らかいタッチの鉛筆の線は一見無造作に描かれているように見えて邪魔な線は一本もなく、髪の毛のほつれの一本まで生き生きとしています。ご自身生前には、

「柔らかい鉛筆で無造作に引かれた線は、仕上がった絵よりも、いつも面白く、生き生きしている」
「無駄と思われるような線も不思議と効果があり、捨てがたいものである」

と語っておられます。

 勿論世評もそうで、中には出来上がった油絵よりも素晴らしいと思えるものも多いという指摘もあり、流通市場では小磯作品の重要な一ジャンルとして確立しています。
 その中でもやはり女性像は圧倒的に人気があり、「白川女(しらかわめ)」系と「バレリーナ」系が二大主流と言われています。このリトグラフは後ろで髪を束ねてあげておりますので「白川女」系の範疇に入る作品かと思います。それにしてもこのデッサンは美しい(嬉。ということで、このリトグラフは末永く大事にしたいと思います。