ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ピカソとクレーの生きた時代展@兵庫県立美術館

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 兵庫県立美術館で4月10日から始まっている「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代展」を観てきました。私にとっては久しぶりの近代美術展だったのですが、その内容と量の素晴らしさに圧倒されました。これは凄いですよ、表現主義キュービズムシュールレアリズムに興味のある方は必見だと思います。

『本展は、ドイツ西部の商工業都市デュッセルドルフにあるノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館が所蔵する西洋近代美術のコレクション64点で構成されるものです。このコレクションは、豊富な専門知識と優れた鑑識眼で選び抜かれた名品群であり、その質の高さはヨーロッパ屈指のものとして世界的に知られています。本展では、そのなかでも特に著名なピカソとクレーの作品を中心に、20世紀前半のモダン・アートの流れをたどります。(オフィシャルHPより)』

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 現・兵庫県立美術館が大震災からの復興という明らかな目的をもって建てられたように、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館は極めて明らかな政治的な意図のもとに建てられました。目録から引用しますと

「美術館設立は何にもまして政治的な決断だった。第二次世界大戦とともに終結したナチスの独裁と第三帝国による文明破壊の後、ドイツは政治的にも行政的にも新たに整えられた。民主的に選ばれた政治家は、政治的寛容や公明さを持つことを公言した。新たに作られた行政区画ノルトライン=ヴェストファーレン州においてもこの政治的寛容と公明性という価値あることがらが約束され、文化的な事柄に寄与するという使命が州憲法に明確に記載されたのだった。」

 またしてもナチス。。。今回の展覧会でも「退廃画家」の烙印を押された画家や海外へ逃亡せざるを得なかった画家の作品が多く見られました。そのうちの一人でこの地方に所縁のあったパウル・クレーの作品が1960年にまとまって美術市場に流出し、偉大な画家をこの地から失った事を文化的に償うという目的で州が数億円と言う巨額の支出を可決し購入した事からこの美術館の構想が具体化したそうです。

 そして初代館長に任命されたヴェルナー・シュマーレンバッハにより、クレーの作品群を補完すべく20世紀前半の近代美術に焦点を絞って素晴らしい作品群がこの美術館に蒐集されました。そして今回、美術館改築のための休館を機会として同美術館の素晴らしいコレクションの一部が初めて海外へ渡り日本へやってきたわけです。

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 展覧会は4部から構成されていますが、そのどれもが素晴らしく目録を見返してみても、その豪華さにはため息が出ます。主だった画家をあげてみましょう。

第一部:表現主義的傾向の展開: マティス、ドラン、ブラック、マルク、シャガールグロス、ベックマン等

第二部:キュビズム的傾向の展開: ピカソ(6点)、ブラック、グロス、シュレンマー等

第三部:シュルレアリスム的傾向の展開: マックス・エルンストマン・レイ、ミロ、マグリットタンギー

第四部:カンディンスキーとクレーの展開: クレー(27点)、カンディンスキー(3点、但しミュンヘン市立レンバッハハウス美術館からの特別出品)

 これでもか、と言わんばかりの超大物の作品揃いで、なおかつ抽象画が多いにもかかわらずどの絵のクオリティの高さも歴然と分かるレベルの高い作品ばかりでした。私が言うまでも無いことなんですが、ヴェルナー・シュマーレンバッハの慧眼には驚嘆します。

 とはいえ、まあ表題の一人であるピカソは別格ですね。具象に近い「二人の座る裸婦」から典型的なキュビズムの「肘掛け椅子に座る女」までの6点全てに圧倒的な迫力と説得力があり、今回のハイレベルな作品群の中でも別格的な存在でした。そしてその中でも「鏡の前の女」は今回の展覧会の白眉でしょう。

 そのピカソとクレー、カンディンスキーを除いて印象に残ったのは

マティス「午後の休息(サン=トロペ湾)」
マルク 「3匹の猫」
エルンスト 「揺らぐ女」 「我々の後の母性」 「穀物の芽のある風景」
ミロ 「リズミカルな人々」
マグリット 「とてつもない日々」 「出会い」
マン・レイ 「詩人、ダヴィデ王」
タンギー 「不在の淑女」 「暗い庭」

等々です。中でもやはりマックス・エルンストは天才だと改めて思いました。唯一残念だったのは、キリコの作品がなかった事くらいですね。マン・レイはおそらく今回の出展で唯一のアメリカ人だと思います。名前をご存じなくても、ポリスの傑作「シンクロニシティ」のジャケット写真中の目玉のついたメトロノームを覚えておられる方は多いでしょう。あれがマン・レイの代表作の一つです。

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 さて、オオトリはパウル・クレーです。なにしろ27点です、これだけのクレーの絵を一挙に見たのは初めてですが、やはり彼の持ち味であった色彩感覚の豊かさに圧倒されます。逆に言えば後半の子どもの落書きのような鉛筆でのデッサンは、まあなくても良かったんじゃ無いかと(苦笑。

 まあ、私が四の五の言うよりも、美術館が用意してくれたダウンロード用のJPG画像をゆっくりご鑑賞ください。

「クレーのそれはむしろシュルレアリスムオートマティスムに近く、具章と抽象に間を自由に行き来するのみならず表現素材たる物質と、イメージとしての彼の精神との間をも自在に往還する。(中略)極めて物質的なマチエールを抽象的な、また時には象徴的なイメージに転化させるかと見えれば、その逆にまた、深い精神性を物質的なマチエールと融合させる」(会場解説より抜粋)

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