ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

静物画の秘密展@兵庫県立美術館

Photo
 学生時代西洋史を専攻された方なら、「ヨーロッパで史上最大の貴族は何家か?」と問われれば即座に「ハプスブルグ家」の名前を思い出されると思います。そのハプスブルグ家の蒐集した絵画を一堂に集め管理している美術館がウィーン美術史美術館です。去年上野のフェルメール展の記事で来なくて残念だった、と書いた彼の「絵画芸術」もこの美術館に保存されています。その美術館の静物画( Still Life )を中心に75点の絵画が今兵庫県立美術館で催されているウィーン美術史美術館所蔵静物画の秘密展に来ております。昨日やっと体調も少し良くなってきたので鑑賞してまいりました。ちなみにトリビアですが、女優の鰐淵晴子さんはハプスブルグ家の末裔です。

『 ウィーン美術史美術館は「ヨーロッパ最大の貴族」ハプスブルク家の400年にわたる遺産をもとに1891年に開館した美術館です。そのコレクションは、ハプスブルク家と関わりの深かったオランダ・フランドル地方、スペインをはじめとしてヨーロッパ各地から収集され、世界屈指の質・量を誇ります。そして、2009年は、「日本オーストリア交流年」。この記念すべき年の幕開けに、ウィーンの誇る珠玉の作品が神戸にやってきます。

 静物画の黄金期である17世紀の作品を中心に、さまざまな静物画、そして静物が重要な役割を果たしている風俗画や肖像画を展示します。ヤン・ブリューゲル(父)の花、コルネーリス・デ・ヘームの食卓、バスケニスの楽器・・・美術の歴史に残る静物画の名手たちに出会えます。また、ヤン・ステーンのにぎやかな風俗画における雑多な家庭風景や、物の質感を表現するヘーラルト・ダウの超絶技巧をはじめとして、様々な絵画の中で静物の放つ魅力を堪能していただけます。知る人ぞ知る名作・ペレダの《静物:虚栄(ヴァニタス)》も見逃せません。

 本展覧会ではあまりにも有名なベラスケスの《薔薇色の衣裳のマルガリータ王女》が日本初公開されます。ハプスブルク家の華麗な歴史を彩った王女の可憐な姿をご覧頂く稀有な機会です。 』

 「静物画の秘密展」と言いながら一番の呼び物はベラスケス肖像画薔薇色の衣裳のマルガリータ王女」(冒頭写真)です(苦笑。マネが「画家の中の画家」と呼んだスペインの大画家の作品が何故ここにあるのかというと、解説にもあるようにハプスブルグ家の勢力がスペインまで及んでいたからに他なりません。

 婚姻政策が繁栄の基礎であったハプスブルグ家は当時のスペイン王フェリペ4世の娘マルガリータの嫁ぎ先を後の神聖ローマ皇帝オポルト一世と生まれて間もなくから決めており、フェリペ4世に引き立てられ宮廷の要職にあったベラスケスが何年にも渡ってその準備として肖像画を書き続けたわけです。今回来日した作品はマルガリータが僅か3歳の頃のものです。

 静物画的に見ると、マルガリータの名前に合わせてガラスの花瓶に飾ってあるマーガレットの美しさ、胸のブローチの質感などがさすがベラスケスという感じがします。

Photo_2 
 さて、取り敢えずは静物画の傑作中の傑作「青い花瓶の花束」を見てみましょう。「花のブリューゲル」と称されたヤン・ブリューゲル(父)の作品、さすが周囲の絵画を圧倒する迫力でした。
 よく見ると四季の花が咲き乱れており、当時では一度に花瓶に活けることは困難であったと思われる事から、ブリューゲルの想像力と構成力の賜物と思われます。壁に解説がありましたが、(父)と書いてあるようにブリューゲルの一族は悉く画家で、むしろ一族の工房で絵が産み出されていたと言っても寡言ではないようです。この他にも、今回の展示では花が誰、鳥が誰、人物が誰といった共作が数多くみられました。

 さて、フランドルの画家の作品が何故(以下略^^;)、当然フランドル・オランダなどもハプスブルグ家の勢力範囲内にあったからですね。当時世界最初のバブル時代を迎えていたオランダを中心とした地域の作品も数多く展示されていました。

2
 これまたスペインの奇才デ・ペレダの傑作「静物:虚栄(ヴァニタス)」です。静物画の一分野に「虚栄(Vanity)」があると言うのも不思議な気がしますが、当時の宗教感、或いは「華美を慎め」という統治政策の落とし子なのでしょうか、3点ほど「Vanity」関連の絵がありました。やはり共通しているのは頭蓋骨です。専門家の私から見ても17世紀によくこれだけ観察しているなと(笑。ちなみにこの作品はハプスブルグ家自体の没落をも暗示していると言われています。

2_2
 先ほどオランダも版図の一部だったと述べましたが、そのオランダで静物画を得意としていたデ・ヘームの「朝食図」です。フェルメールに代表されるように細密画を得意としたオランダの画家だけあって、なんでもないような静物画ですが、実に細やかな配慮が行き届いています。当時食べあわせが良いとされていた三点セット牡蠣、レモン、胡椒をそつなく配していますし、異質な懐中時計が先ほど述べた「Vanity」の主題をも取り込んでいるとも言われているそうです。

 この配置を再現したテーブルを展示してあり、これまた興味深いものでした。意外に奥行きが深くまた、低い位置にテーブルがあります。

 その他にも色々なジャンルの静物画がありました。もちろん「Vanity」とか言う説教臭い絵ばかりではなく、牛の解体とか、猟の獲物の鳥とか、以下にも肉食民族らしい絵も満載でした。ちなみに鳥の大きさで絵の注文先の階層が分かるそうです。まあ、そんなこんなで結構面白い展覧会でした。

 ちなみに1階で催されているコレクション展にも寄ってみましたが、こちらは現代アートが主体で、静物画を堪能した後で見ると新たな刺激が得られます。特に典型的な静物画に描かれている沢山のオレンジ全てに様々な表情の顔がついている絵があって、思わずニヤリとしてしまいました。