ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Pollini Plays Chopin, Opp. 33-36 & 38 / Maurizio Pollini

Pollini Plays Chopin, Opp. 33-36 & 38
 今頃レビューすんの?と言われそうですね、もう語りつくされた感のあるポリーニショパンです。このところ体調があまり良くないのでピアノのソロを聴くことが多く、その中でも特に聴く機会が多いアルバムなので取り上げてみました。ショパンと言えば以前紹介したポラジャズや最新のビリスも良いですが、やっぱりポリーニに止めをさすと言う感じです。以前某試聴会で菅野沖彦先生が

ポリーニの演奏を自宅で聴ける、こんな贅沢な事ができるのがオーディオの素晴らしさなんですよ、そしてそれにはやはり10万円以下のシステムでは失礼でしょう」

とおっしゃっておられたのが良く分かります(笑。体はヘタりこんでいてもポリーニショパンだけはボーっとした頭にも染みこんできますね。

1. Ballade no. 2 in F, op. 38
2. Mazurka in G sharp minor, op. 33 no. 1
3. Mazurka in D major, op. 33 no. 2
4. Mazurka in C major, op 33 no. 3
5. Mazurka in B minor, op. 33 no. 4
6. Waltz in A flat major, op. 34 no. 1
7. Waltz in A minor, op. 34 no. 2
8. Waltz in F major, op. 34 no. 3
9. Impromptu no. 2 in F sharp, op. 36
10-13.Piano Sonata no. 2 in B flat minor, op. 35

 全く拍手の音が入っていないのでスタジオ録音のような気がしますが、2008年3月にミュンヘンで行われたライブを録音したアルバムだそうです。

 「ポリーニショパン」と言えば一点の曇りも乱れもない完璧な演奏で「ショパン演奏かくあるべし」という教科書的イメージがあります。そして私の記憶ではその教科書は殆どがモノグラフでした。例えばエチュードならエチュード、ワルツならワルツ、以下スケルツォソナタ等々以下同文という感じで、テーマを一つに絞って完璧なアルバムを作るピアニストであったと思います。

 ところが今回はライブということもあり、ショパンが27-29歳の頃、つまりマリアとの恋愛に敗れた後、 ジョルジュ・サンドマジョルカ島への旅行中に作曲されたものでまとめる、という趣向をとられたようです。ですから、バラード、マズルカ、ワルツ、ソナタと多彩な構成になっており、ポリーニファンには美味しい構成です。そしてライブ故か、その演奏は懐は深く技術的には決して隙は見せないけれども、少しリラックスした余裕のある演奏になっているように思います。

 当たり前と言えば当たり前ですが、ノクターンには「感傷」を感じますし、マスルカには彼の技術の「」を感じます。彼のワルツで踊れるかというと「まあそんなこたぁない(タモリ風)」のは当然ですが、何か昔の彼にはないふわっと包みこむような暖かさ、お爺さんが孫に接するような笑顔のようなものを感じたりします。

「天才が年齢を重ねて熟練を手に入れたらこういう演奏になる」

と表現しても決して的外れではないと思います。

 そして最後のピアノソナタ2番(所謂葬送行進曲)は健康を害している自分でさえも素直に聴き入る事のできる「品格」を感じます。口はばったい事を言わせてもらえば、死期を悟っているとは言いませんが(苦笑、健康を害している自分だからこそ分かる部分のある演奏なのかもしれません。

 結論を言うと何度聴いても飽きない、そしてどれを聴いても飽きないショパンです。今更ポリーニですか~?という声も聞こえてきそうですが、やっぱりポリーニ、さすがポリーニ、と納得せざるを得ない素晴らしいアルバムだと思います。菅野先生曰くの「自宅でポリーニを聴ける幸せ」をかみしめてこれからも聴き続けたいと思います。