ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ (Blu-ray Disc)
はむちぃ: 皆様こん**は、今年初の映画レビューはとんでもない事(カンフーパンダ)になってしまいました故、邦画の方はキネマ旬報2008年度第8位を獲得しました力作「クライマーズ・ハイ」を選んでみました。
ゆうけい: 我々の世代に強烈な衝撃を与え、私自身未だに鮮烈に記憶に残っている日航ジャンボ機墜落事故を扱った映画ですので見たいのが半分、追いかける地元新聞社の内情を描いた映画ということですので見たくない気半分、と言うところだったんですが、大変な力作という評判でしたので見てみましょう。

『 走り、叫び、書いた。
 新聞記者たちの激動の一週間。横山秀夫原作による同名原作を『魍魎の匣』の原田眞人監督が映画化した社会派ドラマ。85年8月、群馬県御巣鷹山日航ジャンボ機が墜落。未曾有の大惨事を取材することになった地元新聞の記者たちの激動の一週間を、緊迫感あふれるタッチで描く。

 群馬県,北関東新聞社。地元が現場となった,航空機事故の全権デスクに任命されたのは,組織から一線を画した遊軍記者・悠木和雄(堤真一)だった。モラルとは?真実とは?新聞は<命の重さ>を問えるのか?プレッシャーに押しつぶされながらも信念を貫き通そうと必死にもがいた悠木が見たものは?これはあの暑かった夏をひときわ熱く駆け抜けた新聞記者たちによる濃密な日々の記録である。

【スタッフ&キャスト】
《製作》若杉正明
《監督》原田眞人
《脚本》加藤正人/成島出/原田眞人
《出演》堤真一堺雅人山崎努

AMAZON解説より』

は: 地元新聞社を通して描いたあの夏の記録として見応えのある映画でございましたね。
ゆ: 確かに主人公の堤真一をはじめとして社内各部署の人物像を実にリアルに的確に描いており、その辺はさすが原田眞人だなあと思いましたね。携帯電話もPC端末もデジタル印刷も無い時代の新聞社の苦労というのも良く分かりました。でも、逆に言うとそれだけなんですよ。後は何も描いていないし、分かりにくいところも多い。。。
は: 導入部で幾つかの年代が細切れに錯綜して分かりにくうございましたし、高嶋政宏様など何のために出てきたのかさっぱりわかんないままくも膜下出血で倒れちゃいましたね(苦笑。
ゆ: やっと事情が分かるのが中盤近くで、しかも日航機事故とは何の関係もない

「社内事故処理係」

だったんだよね。
は: 何じゃそりゃ(--〆)みたいで気の毒でしたね。

ゆ: でもそれより何より許せないのは、日本航空機史上最大の犠牲者を出した事件だというのに、彼等のやってる事が浅ましすぎるんですよ。
は: コップの中の嵐、と言うことでございましょうか?
ゆ: そうそう、

「インテリが作ってヤクザが売り捌く」

と昔々から言われてる新聞社内の抗争実録に過ぎない内容でした。
は: 確かに出てくるのは地元新聞社の意地、拡販の思惑、政治家への配慮、全国紙への敵愾心、社内の出世欲、名誉欲、各部署や上下の確執、そんなことばっかりでしたね。
ゆ: その通り、新聞を読む側にとっては記事が一日遅れようが、他紙に出し抜かれようが、テレビに先に報道されようが、そんな事は正直言ってどうだって良いでしょう、そんな事に血道をあげてる連中を感動的に描くのはなんか違う気がするんだよね。

は: だから肝心要の日航機墜落事故の生存者や遺族は一人も出てこられませんでしたね。
ゆ: もちろん彼らも血も涙もある人間たちなんでしょう、この事件に涙する場面だって出てはきます。
は: あまりの悲惨な現場に発狂してしまう記者もいました。
ゆ: でもそれら諸々が「クライマーズ・ハイ」に例えられる社内の狂騒状態に埋没されていく様を見てると、この映画が描きたかったものが事故の悲惨さではないことが分かってきて段々と情けなくなっていきました。

は: その悲惨さに関して、先程鮮明な記憶があると申しておられましたが?
ゆ: 良く覚えているよ、あの日チームで頑張って治療していた女の子が亡くなってね、みんな辛い思いに沈んでいたところへ「日航機行方不明」の速報が飛び込んで来たんだ。一人の幼い患児の長い闘病の末の死亡、500人超の健常者の一瞬の失命、命というものの重さが分からなくなって眩暈を覚えたよ。新聞を見るのがそれからしばらくは辛くてね。

は: そうでございましたか、一方で「見たく無さ半分」とおっしゃっておられたのはどの部分でございます?
ゆ: 新聞社のスクープ合戦には強い反感があるんだよね。この映画でも

「圧力隔壁の金属疲労による破壊」

と言う超特ダネを、結局ダブルチェックが100%でないという判断で堤真一は見送るんだ。これはとても立派な姿勢だと思うんだけど、、、
は: 結局「スクープの毎日」と言われた毎日新聞がすっば抜いて脚光を浴びるのでございましたね。そして最後に

「この見解が100%正確であるかどうかは未だに判明していない」

旨のキャプションが流れて映画は終わります。
ゆ: そう、毎日は今でもその体質が変わってないよ。近年の大淀病院事件なんて、事件でも医療ミスでも何でもない段階から先ずスクープありきで突っ走ってさ、青木某という女性記者は何とか賞を獲得してさ、結果奈良県南部の産科医療を崩壊させてさ、大嫌いだね、あの世界は。だから、この映画を見てても、社長の山埼努が出し抜かれた翌日の新聞を叩きつけて

「こういうのを恥の上塗りと言うんだ!」

と叫んだ時には、堤真一の替わりに本当に殴ってやろうかと思いましたね(苦笑。

は: まあそれはともかく、俳優陣の頑張りは賞賛に値しますね。
ゆ: それが無きゃこの映画は二流に成り下がってたよね。それにしても堤真一はそれ程華のある顔立ちでもない二枚目なんだけど、この映画や「容疑者Xの献身」みたいなシリアスな演技から、「三丁目の夕日」シリーズの二枚目半役、更には「舞妓Haaaan!!」みたいなコメディまで実に幅広くこなすよね。その他にもベテラン人から若い人まで演技の下手な有名人は使わなかったところに製作サイドの見識を感じますね。
は: 堺雅人様くらいでしょうか、売れっ子の若手は?
ゆ: 壬生義士伝ハチクロなんかでも見かけたけど、良い表情を作れる役者さんですね。
は: 他に印象に残った方はおられますか?山埼努様はご主人様を本当に怒らせてしまいましたが(^_^;)?
ゆ: まあ、彼ならあれだけの事ができて当然ですけど、その演技力に見合う役どころを上手く見つけてもらったというところですかね。あとは反目しながらも理解を示す社会部長役の遠藤憲一が美味しいところを持っていきましたね。

は: と言うわけでございまして、ご主人様も社会部長並みに反感半分理解半分というところの様でございます。では最後に一言どうぞ。
ゆ: キネ旬8位はまあまあ妥当なところじゃないでしょうか。あの暑い夏を忘れられない方、泥臭い人間模様のドラマがお好きな方には是非ご覧になっていただきたいと思います。