ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

「冒険王」横尾忠則展@兵庫県立美術館

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 先日盛夏の中、兵庫県立美術館で催されている「冒険王」横尾忠則展に出かけてきました。世間の耳目はオリンピックや高校野球に集まっているかと思いきや、結構な人出でした。

1965  横尾氏は兵庫県西脇市出身で、地元で過去最大級の個展を行えるのは彼にとっても本望でしょう。私たちの世代には画家というよりも寺山修司の劇団天井桟敷のポスターや雑誌「話の特集」の表紙、更にはサンタナの「ロータスの伝説」の伝説的22面ジャケット等のデザイナーというイメージの方が強烈です。もちろんそのような過去の業績も展示されていましたが、今回は号数の大きなキャンバス画がメインで結構見応えがありました。

 過去の業績で言うと、彼の手法は「模倣」「コラージュ」が主体で、アンディ・ウォーホルたちに通じるような現代美術の系譜を継ぐ人なのだろうと思います。そのような作品群の画風は彼等に通じるところのある諧謔とユーモアに包まれていて懐かしいなと思いました。特に'60-'70年代に活躍した知識人(今東光開高健岡本太郎三島由紀夫等)の写真をコラージュしたポートレイトには、その人の個性をわしづかみにして浮き上がらせることのできる才能が溢れていたんだなあと改めて思いました。

Classic__senses2001  ただ今回の展覧会のテーマもなっている「冒険王」的絵画の画風はかなり独特です。昔の江戸川乱歩南洋一郎などの冒険活劇の挿絵に大きな影響を受けた事は一目見れば分かりますが、それを素直に再現するのではなく、幻想の世界、夢の世界、虚構の世界、そして子宮内のエロティックなイメージ等を一見ランダムに絡めているため、妙な居心地の悪さがあります。
 具体的に言うとヌードのみならず性器や交接図が至るところに描かれており、そのような中心部の世界を戦前風の少年たちが絵の片隅から覗いている、と言う構図が多いのですね。だから家内は

「この人の絵、気持ち悪いわ」

と言って流し見だけでさっさと出口に直行してしまいました(笑。個人的にはまあこんなものだろうと思いつつ見ていましたし、これがないと「横尾」というアイデンティティの無い絵になってしまいますし仕方ないかなと思います。

2004  そして画家横尾忠則が最近熱中してモチーフとして入るのは

「Y字路」
「温泉」

の二つだそうです。Y字路のYは横尾のイニシャルにも通じるところがあるとの事で熱中しておられるようです。確かにさまざまなモチーフのY字路作品があり、興味深く観ましたが、特に故郷のノスタルジアを感じさせる「Bamboo Horse Constellation(2006)」が良かったです。もちろん「気持ち悪い」Y字路も沢山あります(笑。

2006  気持ち悪いと言えば「温泉」シリーズ。温泉の宣伝には少なくともなりません、と言うか、観光協会の人が見たら卒倒しそうになる絵ばっかり(苦笑。「道後温泉に現れた怪人二十面相」なんて、多分愛媛県民から総スカンを喰いそうです。
 まあまともなのは「有馬の赤湯」くらい。もともと赤湯ですから横尾氏得意の真っ赤に塗りつぶしたキャンバスにも丁度合ってるし。左の絵は「城崎幻想」ですが、これくらいはまあまともな方ですので、後は推して知るべし、と申し上げておきましょう。

 以上極端に好き嫌いの分かれる展覧会だと思いますが、これだけ膨大な彼の作品を一度に観られる機会はそうないと思います。関西の方で60-70年代の横尾氏にシンパシーのある方、現代美術に免疫のある方はお出かけになる価値はあると思います。24日までで終わってしまいますので、お早めにどうぞ。