ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

西の魔女が死んだ

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はむちぃ: ご主人様、先日はまた奥様とお出かけでございましたね。
ゆうけい: 所用があって家内と出かけたついでに映画「西の魔女が死んだ」を観てきました。
は: 先日手嶌葵のアルバム紹介の記事に、この映画の事をコメントしてくださった方がおられましたね。
ゆ: そうそう、それで気になってたんです。ちょうど出先の近くのシネ・リーブル神戸で公開中だったし、それに夫婦だと一人千円になるしでね(笑。
は: 渡りに船、でございますか、で如何でございました?
ゆ: 解説の野島孝一氏の言葉をそのまま引用すると

「シンプルで力強く、しかも繊細で美しい映画」

でした、静かな感動を得る事のできる佳作ですね。

Weatwitch2 『 「魔女が倒れた。もうダメみたい」。中学3年生になった少女・まい(高橋真悠)に、突然の知らせが届く。魔女とはイギリス人の祖母のこと。まいはママ(りょう)の運転する車で、おばあちゃん(サチ・パーカー)の家へ向かう。2年ほど前、学校に行くのが苦痛になってしまったまいは、一時期だけおばあちゃんと暮らしていた。脳裏にあのころがよみがえる。豊かな大自然に囲まれて、“魔女修行”に励んでいた日々。いつも見守ってくれた優しいおばあちゃんのまな差し……。

Westwitch7 おばあちゃんは学校に行かない理由も問わず、無条件にまいを受け入れる。大好きなおばあちゃんのもとで、自然とともに生きる暮らしが始まった。おばあちゃんはまいを尊重し、一人前に扱ってくれる。おばあちゃんから魔女の家系だという話を聞いたまいは、自分も魔女になりたいと願う。おばあちゃんが課した“魔女修行”とは、早寝早起きをして規則正しい生活をすること。そしてもう一つ、「何事も自分で決める」ということだった。

Westwitch4 まいはスケジュール表を作り、“魔女修行”に励む。ジャムを作り、ニワトリを飼い、野菜やハーブを育てる毎日。新鮮な体験を重ねる中で、まいは次第に本来の自分を取り戻していく。だが、近所に住む謎の男ゲンジ(木村祐一)だけが気に触る。ゲンジのことをきっかけに、まいとおばあちゃんは、大きなわだかまりを抱えたまま別れてしまった。おばあちゃんの死に直面し、後悔の念に押し潰されそうになるまいを救ったのは、いつかおばあちゃんと約束した、“秘密のメッセージ”だった……。(Yahoo!映画ー西の魔女が死んだより、文、写真とも)』

は: 少女がひと夏の祖母との生活を通して成長していく物語ですが、祖母が英国人と言うところが普通の子供映画と様相を異にしておりますね。
ゆ: 英国人ですから日本のお祖母ちゃんとは違って確固たる個人主義があり、それに「魔女」というスパイスを効かせていますから、確かに邦画の雰囲気とは随分違いますね。
は: この祖母を演じられたサチ・パーカー様はシャーリー・マクレーンのお嬢様で、子供時代10年間日本にお住まいだったそうでございます。
ゆ: 「適役」とはまさに彼女のためにある言葉ですね、この映画を観た後で梨木香歩の原作を読んでみたのですが、サチ・パーカーの台詞の言い回し以外の表現方法はありえないだろうと言うくらい原作の祖母になりきっていましたね。長崎俊一監督も良くぞこんなにぴったりの女優さんを探してきたものですね。

は: 先程「シンプル」という評価がございましたが、確かにストーリーは淡々としておりますね。
ゆ: 確かに映画としては物足りない面もありますが、ほぼ原作通りなんですよね。脚本も長崎監督が担当しているんですが、原作に忠実に脚本を書き上げるか、改変してメリハリを付けるか、いろいろな考え方があると思いますが、今回彼は前者を選んだんですね、敢えて小品で良いと割り切ったところなど彼も老成してきたのかな(笑。

は: その代わりセットには思いっきり凝りましたね。
ゆ: 美術監督矢内京子さんが精魂こめて作り上げたお祖母ちゃんの家と広大な庭はそれは素晴らしいものですね。CGに頼らない自然なセットで作る映画の良さをしみじみと感じますね。
は: 来年1月まで清里のオープンセットが一般公開されてるそうでございますよ。
ゆ: 元気なら是非行ってみたけどな~(涙。もし映画に出てくる料理が出るなら無理してでも行くけどね(笑。

は: さて心に沁みる原作、それに忠実な脚本、そして素晴らしいセットと揃えばあとは役者さんですね。
ゆ: 先程も言いましたが、サチ・パーカーを選んだ時点でこの作品の成功はほぼ決まりましたね。後でパンフレットを読んで彼女が何とまだ51歳で、実はそれ程日本語が堪能ではないと知った時はびっくりしましたが。
は: 孫娘役の高橋真悠様も好演されていたようですね。
ゆ: 原作の母親に言わせると「扱いにくい子」、祖母に言わせると「生まれてきてくれて本当に嬉しい子」という難しい役柄ですが、うまく演じていましたね。美少女ではなく演技が上手い子を選んだところに長崎監督の慧眼を感じますね。

は: 美人と言えばハーフの母親役のりょう様はいかがでしたか?
ゆ: 彼女には今まであまり良い印象を持っていなかったのですが、今回は見直しました。もちろんハーフらしい顔立ちと言うところも適役ではあるんですが、実はこの物語は祖母と孫だけの物語ではなく、母子の信頼と反発の葛藤と言うテーマの裏打ちがあってこそ深い物語となっているんですね、それを短い登場時間で見事に演じ切っていたと思います。

は: そしてストーリーにアクセントを付けるのはお笑い系のお二人、高橋克実様、木村祐一様でございます。
ゆ: 高橋克実の役柄は原作には無いんですが、あれくらいのメリハリは好もしいと思います、ほのぼの系の笑いを取れるいい役者さんですね。キム兄はサチ・パーカーに負けず劣らず原作のイメージどおりの適役でした、「ゆれる」でも好演していましたし彼も日本映画界に欠かせない存在になりつつありますね。

は: 最後に音楽でございますがトベタ・バジュンという方が担当しておられます。
ゆ: 所謂「癒し系」の方なんだと思うのですが小品であるこの映画に無理なく溶け込んでいて出しゃばりすぎず引っ込みすぎず、いい仕事をしていますね、そしてエンドロールに手嶌葵を持ってくる、今回長崎監督が仕掛けた唯一のケレンかもしれませんね(笑。

は: ところで、スピリチュアル系には嫌悪感を持っておられるご主人様が本作はすんなり誉めておられますね。
ゆ: おっ、あえて避けてきた話題を(笑。まあ、児童文学の範囲内で許容していいんじゃないでしょうか。
は: 例えば最後のシーンで曇った窓ガラスに描かれたメッセージをお祖母ちゃんの死後に起こった「奇跡」ととるか、死ぬ前に書いた「孫との約束」と取るかですが?
ゆ: それは人それぞれで良いんだと思います。まさしく、

「自分で判断するんですよ」(祖母の口癖)

ですね。もちろん、成長とともに考え方が変わる事もあるでしょう。私は主人公の父と同じく

「人は死んだら何も残らない」

と思っていますが、幼い子にそういう事を押し付けてはいけないと、今回このお祖母ちゃんから教わりましたね(苦笑。
は: そう言えばシャーリー・マクレーン様は熱心な輪廻(reincarnation)の信者でいらっしゃいますね。
ゆ: サチ・パーカーがその影響を受けている事はインタビューでも語っていますが、役柄の通りしっかりとした個人主義で軸のぶれない人のようですから、

「自分で判断するんですよ」

と、決して他人に強制することはしないでしょう。

は: 今回は作品が作品だけにあまりボケやツッコミがございませんでしたが、最後に一言お願いします。
ゆ: 戦後、真の意味での西洋の「個人主義」を日本人は理解・消化しきれないうちに物質文明の奔流に飲み込まれてしまい、その結果現在の様々な社会問題が発生しているのではないかと思います。そう言う意味でこういう児童文学を映画化する意義は大きいと思います、多くの人に観ていただきたい映画ですね。