ゆうけいの月夜のラプソディ

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ゲド戦記:まとめ

シュナの旅 (アニメージュ文庫 (B‐001))
 過去5回の記事において、ル=グイン女史の「Earthsea Quartet(通称ゲド戦記四部作)」と、ジブリ映画「ゲド戦記」について検討してきました。

 まず映画・ゲド戦記にあまりにもキャラクターやストーリーの無断の変更が多く、著者が不満(憤懣)を持っている事を最大の瑕疵として指摘しましたが、詳細はル=グイン女史が公式にコメント(和訳をリンクしておきます)されていますのでご参照ください。簡単にまとめますと

1:宮崎駿氏に監督して欲しい
2:キャラクターやストーリーを変えないでほしい
3:第一話と二話の間の時期を利用した新しい物語を作る事を宮崎駿氏にならば許可する

というオファーをことごとく裏切られた事はまことに遺憾である、という事になります。

 怒るのもごく当然だと思いますが、交渉責任者のプロデューサー鈴木敏夫、責任を持つと言いながら投げだしてしまいしかもその後引退を撤回して女史を憤慨させた宮崎駿は彼女の公式コメントを見てどう思ったのでしょうか?事実ならこの二人はル=グイン女史に公式に謝罪を表明すべきであったと思います。

 ル=グイン女史が映画を見終わった後、そのような怒りをこらえて宮崎吾朗に答えた

「ええ、あれはわたしの本ではなく、あなたの映画です。いい映画でした」

というコメントにこめられた彼女の最大限の忍耐には感服します。

 この情報を得た時点で、もうこの映画は見ない、と決意した原作ファンも多かったと思います。もちろんそれも一つの見識だと思います。そのようなジブリ首脳陣の「裏切りの作品」である事は承知の上で、本ブログでは「宮崎吾朗の初監督作品であるゲド戦記」が「いい映画でした」かどうかを、総論一回各論三回に渡って検討してきたわけですが、ゲド戦記三部作ファンであった私の結論としては

「できの悪い映画である。しかし新人監督としては合格レベルである」

と評価します。私の感じた映画の長所と短所をここでもう一度整理して箇条書きにしてみます。

長所:
1: ジブリの観客層が広く子供も観る事を考えれば脚本並びに背景・動物デザインはまずまず合格点レベルである。
2: ホートタウンの描写は美しい。
3: テナーのキャラクターデザインは合格点である。声優(風吹ジュン)は合格レベル。
4: クモのキャラクターデザインは良い。声優(田中裕子)も良い。
5: ドラゴンの共食いシーンはスペクタクルシーンとしては合格点である。
6: テナーの竜への変身シーンは美しい。

短所:
1: 原作者が四話各々に込めたテーマを無視し、シュナの旅の少年少女の成長物語にテーマをすりかえている。
2: アースシー世界の地図を無視し、ゴント、ワトホート、セリダーを一つの島にしてしまっている。
3: 世界の均衡が崩れているという設定を流用しながら説明が不十分であり、クモ殺しで解決するわけでもない。
4: 影との戦いをゲドからアレンに変えた事によりその意義が変質している。
5: アレンの父殺しという無理無要の設定を設けた上その説明に説得力がない。父の宮崎駿へのあてつけとさえ思えてしまう。
6: アレンのキャラクターデザイン、声優(岡田准一)は不合格点レベル。
7: ゲド影との戦いをアレンに置き換えておきながら、影に負わされた傷が顔にあるのは矛盾している、声優(菅原文太)も満足できるレベルではない。
8: テルーのキャラクターデザインはジブリそのものという感じで原作とは大きく異なるし言動も納得できない、声優(手嶌葵)は素人レベル。

 一昔前の某関西球団のように、人気はあるがお家騒動で内情はガタガタのチームにおいて新人投手が6勝8敗の成績ならまずまず合格点ではないでしょうか。まあ冗談はともかく、この作品に感動し力づけられたという人も多くいる事は事実ですので、それは評価してあげないといけないと思います。

 ところが一番励ましてあげないといけないはずの父親宮崎駿が映画にダメ出ししてまた現場復帰するという事が結局この作品を一番不幸にしていると思います。早い話が自らがル=グイン女史の提案を全面的に受け入れて作っていれば、何ら批判される事のない作品が出来たはずです。彼には猛省して貰いたい、と思いますが、もう次の作品に没頭しているようですね。やれやれ、ぽにょぽにょ。

 と、やや締まりのないまとめになってしまいましたが、永らくのおつき合いありがとうございました。原作ファンの方も興味が少しでも湧けばレンタルで観てみて下さい。そして映画だけしかご存知ない方は、何をそこまでこだわっているのだろうと訝しがられていると思いますが、図書館に行けば児童書コーナーにおいてあると思いますので是非手にとってみて下さい。