ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

中原の虹 第四巻

中原の虹 第四巻
 第一巻をご紹介してから一年、そして前作「蒼穹の昴」からは十年余の歳月を経て、清朝崩壊の壮大なドラマ「中原の虹」がついに完結しました。浅田次郎先生お疲れ様でした。

『そして王者は、長城を越える。龍玉と天命を信じ、戦いに生きる。英雄たちの思いは、ただ1つ。ついに歴史が動く。感動の最終章。浅田次郎の最高傑作、堂々完結!

「答えろ。なぜ宦官になどなった」
「将軍はなにゆえ、馬賊などにおなりになられたのですか」

最後の宦官になった春児と、馬賊の雄・春雷。極貧の中で生き別れた兄弟は、ついに再会を果たし、祖国は梁文秀の帰国を待ち望む。龍玉を握る張作霖玉座を狙う袁世凱。正義と良識を賭けて、いま、すべての者が約束の地に集う。(AMAZON解説より)』

 今回も著者の十八番である感涙を絞る場面は多々登場しますが、やはり何と言っても李春雷(長男)と李春児(次男)、そして李春雷梁文秀(恩人)・玲玲(妹)夫婦との再会がハイライトでしょう。この兄弟妹は前作「蒼穹の昴」で極貧の果てに離散してしまうのですが、遥かな時を経て再会を果たすところでは涙が止まりませんでした。その舞台がはむちぃの故郷、アカシアの大連であったことも何かの因縁でしょうか(笑。

 今回新たにフォーカスがあたる実在の人物は宋教仁です。著者の彼に対する入れ込み方は並大抵のものではなく、あたかも同時代を生き彼に寄り添っていたかのような筆致には息を呑む思いがします。その人物を浅田ワールドの中に実にうまく溶け込ませているあたりもさすがの筆力で、彼を庇って凶弾に倒れる登場人物には著者万感の思いがこめられていると言って過言ではないでしょう。

 ただ、それが逆に本来の主人公である張作霖一派の存在感をやや薄めてしまったことも否めません。また第三巻で登場した蒋介石、そして「蒼穹の昴」のラストでちらりと顔を見せた毛沢東といった重要人物も本巻では登場せずじまいでした。

 更に、四部作において当然張作霖の北京侵攻失敗から爆殺事件までを描くのであろうと思っていましたが越過長城までしか描かれておらず、少し物足りないと思うのは私だけではないでしょう。越過長城を清王朝の成立と重ね合わせているところなど当然計算尽くではあるのでしょうけれども、浅田ファンとして贅沢を言わせて頂ければ中国近代史シリーズの続編があることを願って止みません。