ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

藤島武二と小磯良平展

Koiso071011
 相変わらず人混みに出るのは無理ですが、かといって家で寝てばかりいるわけにもいかず、リハビリを兼ねて神戸市立小磯記念美術館藤島武二と小磯良平展を鑑賞してまいりました。

『 藤島武二(1867~1943)は、日本の近代を代表する洋画家であり、常に画壇の中心的存在として洋画界をリードする一方、東京美術学校(現東京藝術大学)で後進たちの指導にも努めました。そして自由な気風を特長とした藤島教室からは、次代を担う画家たちが多数巣立っていきました。その中の一人である小磯良平(1903~1988)は、昭和を代表する洋画家として活躍するかたわら、戦後は、梅原龍三郎安井曾太郎の後を受ける形で、東京藝大の教授として小磯教室を率い、師の藤島と同様に後進たちの育成に尽力しました。
 神戸市立小磯記念美術館の開館15周年を機にとりあげる藤島・小磯の二人は、師弟いずれもが画壇を代表する洋画家として活躍し、ともに美校・藝大で後進の育成にも尽くしたという、他例の少ない共通点を持っています。本展ではこの二人の画家の作品計約130点を集め、それぞれの画業と日本の近代洋画に果たした役割をたどります。(小磯記念美術館HPより)』

 藤島画伯も日本の洋画界をリードされた方だけあってどれも風格のある絵ばかりでした。さすが小磯先生とは師弟関係に当たられるだけあって、人物画に特に非凡なものを感じました。冒頭写真のポスターの「官女と宝船」や初期の「婦人と朝顔」など特に素晴らしかったです。そう言えばどちらも結構な号数で、しかも個人蔵。家内と「お宝鑑定団」に出したら幾ら位やろう?と不謹慎な会話をしておりました(笑。

 小磯先生の作品は殆どが当美術館所蔵のもので、見慣れたものばかりでしたが、一角だけ目新しいものがありました。というか、今回はそれが目当てだったんです。
 実は今回、小磯先生の今年になって発見された書簡が展示され、それに伴い、藤島先生と小磯先生の戦争画が展示されております。藤島氏の「ロジェストウェンスキーを見舞う東郷元帥」や小磯先生の「カリジャティ会見図」等、有名なのになかなかお目にかかることができない作品を鑑賞できたのは収穫でした。

 小磯先生が戦時中従軍画家として活躍されたのは有名なのですが、あたかも戦争協力していたかのように思われるのが嫌なのでしょうか、当美術館でも戦争画は滅多にお目にかかれません。今回の展示の趣旨も、

「小磯先生は戦争に批判的だった」

という点を強調したい、という印象を受けます。まずはニュースを探し出してきましたので、引用してみましょう。

『 洋画家・小磯良平(1903―88年)が太平洋戦争中、戦争画について批判した書簡が、神戸市立小磯記念美術館で開催中の「藤島武二小磯良平展」 (11月18日まで)で公開され、話題を呼んでいる。小磯は戦後、戦争画について一切語らなかったとされる。書簡は小磯の実際の心境ばかりでなく、戦時中 の美術界の状況を伝える貴重な資料といえる。
 書簡は1944年12月に洋画家、内田巌にあてて書かれた。内田の遺族が自宅で発見し、今年8月、同館に寄贈した。
 小磯は自身も戦争画を描いたが、書簡の中で「戦争画をいい方向だと理由づける何ものもない。(中略)戦争美術のタイコをヂャンヂャンたたいても何もなら ない」と告白。さらに「戦争画も純粋芸術と称する絵も同じく多少ともに病気にかかっている。戦争画を悪口云(い)う人達の気持ちもよくわかるし、純粋芸術 を悪く云うのも又(また)わかる」と当時の美術界を取り巻く状況を嘆いている。同館の広田生馬学芸員は「戦争画の目的はプロパガンダ。小磯は戦争画が画家 の個性を殺すものと考えていたのだろう」と話す。(日経ネット関西版より)』

 いかにも産経以外の新聞が書きそうな記事ですね。実際展示してあった書簡は紙を表裏使った4ページにわたる長いものでした。それをじっくり読んでみたのですが、そう声高に戦争批判をしているわけでなく、この後話はすぐに子規の「写生」論に移っていきますし、あくまでも絵画に関しての愚痴(後で自分でそう言っておられます)に過ぎないように思いました。
 それよりは、それまでの手紙数通が普通の便箋にしたためられているのに比して、薄い悪質な紙をそれも表裏を使っているところ、また内田厳の住所がそれまでの東京から岡山の片田舎に変わっているところなどが印象深かったです。物資の不足、東京からの疎開などが汲んで取れますよね。

 こういう書簡を無理やり反戦思想に曲解したり、戦争画を恥ずかしいもののように隠したりするのは、それもある意味「プロパガンダ」だと思うんですよね。「逆説の日本史」の井沢元彦氏の言を待つまでもなく、

「戦時中も優れた芸術家はみな反戦思想を持っていた」

と考えるのは幻想であり、過大評価であり、現在の価値基準の押し付けであると思います。もちろんだからといって小磯先生が戦後戦争画に対してあまり良い印象をお持ちでなかったことを否定するつもりもありませんけれども、先生が故人となられた今となっては、作品展示に変なバイアスをかけずに見せていただきたいものです。

 なんか難しい議論になってしまいましたが、もちろん理屈抜きに素晴らしい絵画が揃っていますので機会があれば是非どうぞ。14日で前期展示が終了し、15日から11月18日まで後期展示が開催されています。