ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

The Door Into Summer / R.H.Heinlein

夏への扉 [英語版ルビ訳付] 講談社ルビー・ブックス
はむちぃ: 今回の書籍レビューはアメリカSF界の巨匠R.F.ハインラインの傑作「夏への扉」でございますね。
ゆうけい: 彼の最高傑作とこの本では紹介されてるけど、まあそこまでは行きませんね。ハインラインの膨大な作品の中では比較的小品で佳作と言ったところです。ただ、「瑞々しい純愛小説」「猫小説」としてSFファン以外の一般層にまでファンの多い作品ですよね、はむちぃには心臓に悪いだろうけど(笑。
は: 確かにそうでございます(>_<)。そう言えば猫好きのきっこ様もお気に入りだそうでございます。
ゆ: 彼女の決まり文句「ジンジャエール」はこの小説の主人公猫ピート(本名Petronius the Arbeiter)の大好物だもんな。

『ぼくらは、1970年12月、コネチカット州に住んでいた。猫のピートは、いつも冬になると、夏への扉を探す。たくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じ込んでいるのだ。そう、ぼくも夏への扉を探していた。婚約者のベルに裏切られ、仕事は取りあげられ、生命から二番目に大切な発明さえも騙しとられてしまった。そんなときだ、ぼくの目が「冷凍睡眠保険」に吸い寄せられたのは。ぼくは、猫のピートと共に、30年後に蘇る冷凍睡眠を申し込もうとする。そして、2000年の12月に…。』

は: ご主人様はSFファンでおられますから、もう昔に読まれておられるのでございましょ?
ゆ: はい、もちろん昔読みました。ちなみに初めて訳されたのは日本のSF界の礎を築かれた福島正実先生なんですよ。だから今回は再読で、粗筋は知っているわけなんですが、どういうわけか英語で読むと次はどうなるんだろうとドキドキしますね(^_^;)。
は: で、またどうして今頃それも原書で?
ゆ: オーディオファイルのDolonさんが講談社のルビーブックスと言う、ルビ訳のついたシリーズを次々読破されておられるので刺激を受けたわけですな。それにこの小説、1970年と2000年が舞台なんです。丁度この小説を初めて読んだ頃が1970年代だったんですが、その頃はるか未来だと思っていた2000年がもう過去になっている、それも興味深くってね。

は: 書かれたのは1957年と更に時代を遡るのですが、その頃に想像した未来と現実の2000年代を比較するのも確かに一興でございますね。実際如何でございましたでしょう?
ゆ: さすがに巨匠ハインライン、現在でも古さを感じさせませんね、大したものだと思いました。Module構成、CybernetCADと言った現在のコンピューター文化を極く原始的な形ではありますが既にこの小説の中で描いている事にあらためて脱帽しました。「バグ」という現在では誰でも知っているコンピュータ関連用語も頻出してますしね。同じ1950年代に時代を席巻したサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」でさえ、もう古典を読むように感じざるを得ないのとは対照的です。

は: タイムトラベルものの代表作と言う側面からは如何でしょう?
ゆ: 私がいつもSF関連作品で問題にするタイムパラドックスに関してもハインラインは積極的な論陣を展開した先駆者なんですね。ただ、この作品ではパラレルワールド的な解釈で整合性をつけようとしているんですがかなり無理がありますね。まあこの作品に関してはそんな堅苦しいことは抜きにして、胸キュン小説的に無邪気に楽しめばいいんだと思います。

は: さて、ルビ訳付きの英文は如何でございました?
ゆ: 最初は凄く違和感がありましたね、英語を読んでるのに和書を読んでるような変な感覚でした。受験参考書のように消してくれるセルロイドみたいなものをつけて欲しいくらいでした(苦笑。でも、途中からは慣れてきたし、この小説には企業関係の経済用語や法律用語といった私の苦手分野の用語が山ほど出てくるんで助かりました。

は: この前読んでおられたのがハリー・ポッターのクイーンズ・イングリッシュでございましたから、そういう意味での違和感もございましたでしょう?
ゆ: 全く別の言語のようでしたね(^_^;)。例えばハリー・シリーズでは「reckon」と言う単語が頻出するんですが、「夏への扉」では見事に一回も出てきませんでしたね。
は: 「考える」に近い「思う」というニュアンスの動詞でございますよね、米語では何が代替するのでございましょう?
ゆ: そうだねえ、幾つかあるんだけど「figure」あるいは「figure out」なんか良く使われていてやや近いニュアンスで使われてたんじゃないかな?

は: 感情表現や慣用句も随分違いますしね。
ゆ: 全く。暗めで沈思黙考型の英国人と陽気で皮肉好きでめげないアメリカ人と言ったキャラの違いが文章から汲み取れますよね。
は: 先ほどの「バグ」なんかも含めてスラングも多いですし。
ゆ: そうそう、ルビ訳で大体はイメージが湧くけれど、難しいのもありましたね。「Napoleon Factory」なんてどこ探しても「精神病院」なんて意味載ってなかったけどなあ。

は: まあそういう事も含めて古き良きアメリカらしい小説でございますね、皆様も是非どうぞ。
ゆ: 巨匠ハインラインさえ「未来は確実に良くなる」という夢を抱いていたところが微笑ましくもある、暖かさを感じさせてくれる作品です。邦訳で読まれた方も、今の時代にもう一度読んでみると新たな感慨が湧くと思いますので是非どうぞ。