ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

墨攻

Bokkou
 2月3日に公開された映画「墨攻」を昨日早速観てきました。墨攻は、戦国時代の中国を舞台とした酒見賢一歴史小説を原作とした森秀樹の歴史漫画を映画化した日中韓合作の作品です。日本の中国歴史漫画を中国が映画化するというのがユニークですね。私の好きな作家酒見賢一氏の原作でアンディ・ラウ主演と言うことで、公開を心待ちにしておりました。公開に合わせて中国ロケしたTV番組「世界不思議発見」でしっかり予習もしておきました。

 「墨攻」という単語は、現在でも使われる「墨守」と言う言葉から酒見氏が作り出した造語ですが、その「墨」という言葉の由来は「墨家」という学団に発しています。墨家は紀元前450年ごろ春秋戦国の世に墨子によって形成され、一時は儒家と拮抗する勢力を誇りながら、秦の始皇帝の時代に忽然として姿を消してしまいます。その墨家の一人の男を主人公にしてこの物語は構成されています。

スタッフ
監督: ジェイコブ・チャン
撮影監督: 阪本善尚
編集: エリック・コン
音楽: 川井憲次

キャスト
革離: アンディ・ラウ (墨家の男)
巷淹中: アン・ソンギ (趙の名将)
梁王: ワン・チーウェン (優柔不断な梁王)
逸悦: ファン・ビンビン (梁の重臣だった父の後を次ぐ騎馬隊長、革離にひそかな思いを寄せる)
子団: ウー・チーロン (弓の名人で革離により弓隊の長となり良くその大役を果たすが後に革離派として造反者の汚名を着せられ右腕を落とされる)
梁適: チェ・シウォン (梁の王子、最初は革離に反感を覚えていたが次第に心酔するようになる、革離が反逆者として捕まりそうになった時に機転を利かせて彼を逃がすが)

 一人の墨家の男が住民僅か四千人の梁城を大国趙の10万人の精鋭軍団の攻撃から如何に守りぬくのか、そもそも彼は何故一人で正式な派遣者としての印も無く現れたのか、王や王の臣下、住民は彼を信頼し続けることが出来るのか、、、

 智略にとんだダイナミックな戦闘シーンの数々はそれだけでも十分に見ごたえがありますが、アジア映画らしく、単純に善悪正邪勝敗を分けない重厚なストーリー展開には感銘を受けました。特に紆余曲折を経て敵の趙軍に制圧された梁城、すなわち死地へ単身赴く主人公革離が最後に仕掛けた乾坤一擲の作戦により、種々の登場人物の運命が翻弄されていく様が個人的には大変見応えがありました。
 特に原作には無かったヒロインが単に色添えに終わらず、物語に深い深い余韻を与えて物語が終わるところなど、私が常々日本映画の弱点として指摘している「脚本」の大事さを見事に証明してくれている気がします。

 個人的にはやはりアンディ・ラウの佇まい、演技に目が釘付けになっていました、大した俳優です、やはり彼は(嘆息。ちなみにパンフレットによると漫画の原作のようにスキンヘッドになる覚悟も出来ていたし、むしろ楽しみにしていたのに監督がその必要は無い、と言ったそうです、ちょっと見てみたかったですね。ちなみに書の達人でもある彼は冒頭シーンの「墨攻」の字も書いています。
 その他韓・台の俳優も頑張っているのに日本の俳優が一人も居ないのは少し寂しく感じました、いつまでも金城武真田広之しか認知されていないのでは情けないです。とはいえ、本編前の「蒼き狼」の予告編を見ただけで「こりゃダメだ、いつまでたっても追いつけんわ」と思いましたけれど。

 日本勢では「男たちの大和」でも素晴らしいカメラワークを見せた阪本善尚、そしてアニメ音楽で有名な川井憲次が、この映画でも大変良い仕事をしていました。俳優がいない分スタッフの頑張りで原作国の日本の面目を保ったというところでしょうか。

 という訳でアジア映画の総力を結集した感のある佳作です、是非どうぞ。