ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

アメリカの風景:ホイットニー美術館展

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 今日は雲ひとつない快晴でした。陽気に誘われて兵庫県立美術館で行われているホイットニー展にでかけてきました。丁度「アメリカ・家族のいる風景」「ブロークン・フラワーズ」といったアメリカのロード・ムービーを見たばかりだったので、まあアメリカの原風景探索の総仕上げといったところでした。

Hat2 ポップカルチャー等に代表されるアメリカ美術は今でこそ芸術と理解・評価されるようになりましたが、彫刻家ゲートルード・ヴァンダービルト・ホイットニーアメリカ美術を蒐集していた二十世紀初頭には、芸術的にヨーロッパ文化よりずっと下に見られていたので、高名なメトロポリタン美術館には寄贈を拒否されるような状況であったそうです。そこで彼女は自分で美術館を立ち上げることを決意し、現在12000展以上の作品を収蔵するアメリカ近代美術を代表する美術館となっています。

 高名なアンディ・ウォーホルの「二重のエルビス」「毛沢東」、ロイ・リキテンスタインの「窓辺の少女」、ブロークン・フラワーズにも出ていたジェフリー・ライトが映画で演じた事でも有名なジャン=ミシェル・バスキアのグラフィティ・アート、そして「パリ・テキサス」「アメリカ・家族のいる風景」を彷彿とさせるような風景を描いたエドワード・ホッパージョージア・オキーフ更にはアメリカ抽象表現主義大御所ポロック、クライン等々、個人的には見所一杯でした。

 そして展示の最後のコーナーにたどり着いた特、私は言葉を喪いただ作品を凝視してしばし動けなくなりました。現代アメリカに甚大な絶望・喪失感を与えたエイズに関連したアート、ロス・ブレックナーの「カウント・ノー・カウント」、キース・ヘリングの「祭壇衝立」が胸を打ったのです。この二作品の絵葉書が無かったので、普段は買わない図録まで購入してしまいました。この2作品に挟まれることにより、ジュリアン・シュナーベルがセーム革をくっつけたり布を投げたりして作成した抽象画「無題」が、何か神々しい輝きを放っている、と感じたのはおそらく私だけではないはずです。

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カウント・ノー・カウント」は夜空の広大な広がりを示唆している。ここでは、青黒い地色を柔らかに光輝く星々の一群が埋め尽くしている。本作品はより抽象的な、超自然的な、とすら言えるような啓示の感覚をも示唆しているようだ。この作品の持つ瞑想的特質は画面の大きさとその空気感によって強調されている。
 カウント・ノー・カウントはこの疫病・エイズの犠牲者に対する一層繊細な賛歌である。(中略)ブレックナーは絵画の表面を人間の皮膚に例えている。これらの作品で塗り斑や薄くなったニスはカポジ肉腫に苦しめられた彼の友人や同僚の破壊された肌を示唆している。(図録解説より)

1987年、ヘリングは検査の結果エイズに関し陽性とわかり、その後制作された作品は寄り真摯に宗教的政治的色合いを濃くした。「祭壇衝立」はヘリングがエイズによる合併症で1990年に亡くなる前に制作された最後の作品に属するものであった。ただし、実際には、作家の仕様書に従い、作品は1996年まで鋳造されなかった。これまで幾度か年に一度エイズで亡くなった多くのアーティスト達を記念する「アートの無い日」においてホイットニー美術館はロビーに彼の「祭壇衝立」を展示してきた。(図録解説より)

 リンク先から図録をネット購入もできますが、号数の大きな絵が多く、また、オブジェや防水シートに描かれた絵画等、普通の美術展と趣・質感の違う雰囲気も楽しめますのでやはり実物を見るに越した事はありません。5月14日まで開催されていますので、興味をお持ちの方は是非どうぞお出かけください。