ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

ある編集者の生と死ー安原顯氏のことー

 今月号の文藝春秋村上春樹氏が寄稿しておられます。といっても決して愉快な話題ではなく、皆さんニュースでご存知だと思いますが「生原稿流出事件」に関する告発と言ってよいものですが。スーパーエディターと呼ばれた中央公論社の名物編集長安原顯氏の出会い、不本意な訣別、そして安原氏による生原稿流出事件のことが彼独特の文体で丁寧に描写されています。
 安原顯(通称ヤスケン)氏は我々のようなオーディオファイルにとっては晩年のオーディオへの熱中振りのほうが強く記憶に残っていますが、私には二つ疑問に思っている事がありました。

1: 村上春樹を育てたと言われる人が、何故後年掌を返したように彼を批判し続けたのか?
2: 癌末期と公言している方に、あれだけ高額なオーディオ機器を次から次へ買っていける財力があるのか?

 多分に不本意ではありますが春樹氏の文章を読んでぼんやりとながら納得できた気がします。これ以上勝手な推測を書くと名誉毀損にも当たりかねないので、興味がある方はご一読ください。ただこの文章にはオーディオに関しては一切触れられていないので、傍証として私が覚えている限りでの彼が最晩年に揃えたオーディオ機器を紹介してみましょう。

CD Player: Linn CD12 (定価280万円、現在生産中止)
Control Amplifier: Mark Levinson No32L (定価320万円)
Power Amplifier: McIntosh MC602(?) (定価120万円)
Loudpeakers: B&W Nautilus 801 (定価210万円)

 もちろんこれだけでは済みません。特に安原氏は寺島靖国氏と親交があっただけに、ケーブル類に対する熱情も尋常じゃなかったと思います。この世界、ケーブル一本ウン十万円が当たり前の世界です。その当時は癌末期にしてこの熱情、とある意味尊敬してみておりましたが、今回の春樹氏の文章を読むとう~ん、これはいかんーーーと思ってしまいました。

 それにしても事ここに至っても、村上春樹氏の他者への思いやりは、彼独特の文体とあいまって私のようなファンには鮮烈な印象を残してくれます。凡百のエッセイや短編小説を超える文章の「力」と言うようなものを感じます。