ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

サイダーハウス・ルール

 3月7日のNHK衛星映画劇場で「サイダーハウス・ルール」をやっていたので録画して昨日見ました。「ガープの世界」「ホテル・ニューハンプシャー」などで知られる現代米文学を代表する作家の一人ジョン・アーヴィングの小説ですが、映画化にあたって自身が脚本も担当しアカデミー脚色賞を受賞した事で話題になりました。

サイダーハウス・ルール DTS特別版
トビー・マグワイア ラッセ・ハルストレム

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アメリカ、メイン州の孤児院で純粋無垢に育った青年ホーマー(トビー・マグワイア)は、院長のラーチ医師(マイケル・ケイン)がひそかに行っている堕胎手術を受けに訪れたキャンディ(シャーリーズ・セロン)にひかれ、孤児院を飛び出してリンゴ園で働くことに。そこで彼はさまざまな人生の喜びや哀しみを体験していく…。(AMAZON解説より)

 実は私、この小説の文庫本(上下2巻、結構分厚い)を大分前に購入し何度か読破を試みたのですが、挫折したままだったのです。とにかく冒頭から1940年台のメイン州の孤児院の状況説明が延々と続いて、話がちっとも進まないもので、第1章を読み終わって第2章くらいになると根負けしてしまうのです。この作品中にあの長大なディケンズの小説を毎晩子供たちに朗読する場面が出てきますが、まさしくそのままの作風です。というわけで原作を読破するのは諦めて、映画の方を見るチャンスをうかがっていたのですが、やっとかないました。

 見終わって先ずの感想としては、脚本家としてのアーヴィングの手腕に脱帽しました。早速文庫本を斜め読みでざっと目を通してみましたが、枝葉の切り方とその上での設定の変更の仕方が非常に上手いため、ストーリー展開がスムーズで分かりやすくなっています。私のような原作挫折者を想定して書いたかのようです^^;。

 脚色賞に小膝叩いて納得、って感じですね。でも裏返せば、アメリカ人もあの小説には辟易していたのかも^^;。まあ冗談はともかく、さすがは映画王国アメリカだけあって、ポール・オースターにしてもそうですが、米作家は映画にも積極的にコミットしていますね。

 でも、内容についてはツッコミどころ満載、おいおい、いくら1940年台の設定にしてもそれは無いだろうと思うところが多々ありました。その際たるものが、これ。

孤児を増やしたくないがために中絶手術を行い、孤児たちに人生のルールを優しく説き聞かせていく院長を名優マイケル・ケインが好演し、アカデミー賞助演男優賞を受賞(AMAZON解説より)

 このラーチ院長という人物、とにかくとんでもない設定なんです。箇条書きにすると、

1:エーテル中毒である

2:当時違法であった中絶堕胎手術を行っている

3:自分が教育したホーマーの為に医大卒業証書を偽造する

4:医師の資格の無いホーマーを孤児院の後任医師にしようと画策する

5:その画策の流れでリンゴ園にいるホーマーに医療器具を送り、ホーマーは成り行きからサイダーハウスで中絶手術を行ってしまう

5:最後はエーテルの過剰吸入で死んでしまう

 これだけ並べたら普通は、医師としての資格剥奪か、下手すれば監獄行きの人物設定なんですが、どういうわけかヒューマンドラマのほぼ主役(?_?)。

 マイケル・ケインの演技はもちろん素晴らしいものですが、訴訟社会が昂じすぎて極端な萎縮医療になっているアメリカにおいて、この作品でこの人物設定でアカデミー助演男優賞を獲得した、と言う事実は正直なところ驚きです。こういう人物像をアメリカ人は内心では許しているんだなあと変な感慨にふけってしまいました。

 主役の設定にしてもツッコミどころ満載ですが、まあこの辺でやめておきます。トビー・マクガイアスパイダーマンの印象が強すぎて、妙にダブってしまいました^^;。