ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

僕だけがいない街 (6) 三部けい

僕だけがいない街 (6) (カドカワコミックス・エース)

 幼児・学童誘拐・殺害の事件報道が絶えない現代社会の病根をタイムスリップと推理劇形式で抉り出していく展開が注目を集めている三部けいの「僕だけがいない街」第六巻です。

 簡単におさらいしておきますと、主人公は売れない漫画家・藤沼悟。漫画では食っていけないためピザ屋のアルバイトをこなしながら日々を過ごしていましたが、彼は「再上映リバイバル)」と呼んでいるタイムスリップ能力を持っています。それは、その能力が発現した前後で起こる「事件」の原因が取り除かれるまで、「事件」の直前の場面に何度もタイムスリップしてしまうというもの。
 自分の意思とは関係なく発現するので、悟はこの能力を嫌っていましたが、一回目のリバイバルから現在にタイムスリップした後、母が殺害され自らが犯人として誤認逮捕されるに及び、再びリバイバルして小学校時代に戻った悟は、その時代に起こった学童連続殺人事件の犯人が母を殺害したことを確信してそれを解決しようと決意します。

 そして第五巻の最後の最後、ついに善人の顔を貫いていた人間がその奥に隠れた表情を垣間見せます。

『 ●●の車に同乗した悟が見たもの…それはあの「眼」だった?車内で交わされる●●との会話。信じたい?信じられない?不安な気持ちに心がざわつく…。果たして、悟の運命は!?物語が大きく転換する第6巻!! (AMAZON解説より) 』

 名前の部分は敢えて伏せました。何故なら、こいつが犯人なら当たり前すぎるだろう、というツッコミを入れる暇もなく、本巻冒頭で自ら犯人だと明かし、車ごと悟を真冬の川の中に突き落としてしまうのですから。

 そこからしばらくは、犯人の生い立ちとなぜこうも性格や人格が歪んでしまったか、誰と誰を殺したかなどが●●の一人称で語られていきます。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」が引き合いに出されますが、今一つ説得力がないというか、筋違いで芥川もかわいそうと言うか。まあ性格が歪んでいるので仕方ありません。

 さて、悟が死んでしまえばこの物語は成立しないので、当然生きていますが、リバイバルで現在へは戻りません。その展開はこれまでにないパターンで結構面白いのですが、ネタバレさせると未読の方の読む気を削いでしまうので伏せておきます。

 読みごたえはありますし、次巻で閉ざされた「鍵」はおそらく開けられるのでしょう、それを楽しみに待つとしましょう。