ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

バビルサの牙 / 柴田淳

バビルサの牙【初回限定盤プラチナSHM】

  柴田淳の新譜「バビルサの牙(Babyrousa's tusk)」です。彼女のアルバムもついに10枚目となりました。1週間ほど聴きこんでいるのですが、まだ今ひとつピンとこないものがあります。とりあえずファーストインプレッションを書いてみたいと思います。

 ちなみにバビルサというのはインドネシア周辺に棲むイノシシ科の動物の名前で、巨大な牙を持ち伸びすぎると頭蓋骨に突き刺さって死に至るという言い伝えがあり、「自分の死を見つめる動物」と呼ばれているそうです。

 彼女が何を思ってこの名前をつけたのか、ファンクラブの期限が切れて公式HPしか覗けないし、「牙が折れても」という曲がピアノソロなので謎のままですが、レコーディングはいつもにもまして「あたまパンパン」の危険な精神状態まで追い込まれていたようです。自分の創っている音楽に納得できず、悶々とする中で死を見つめていたんでしょうか?
 とりあえずHPの日記を見ますと、コンセプトは

「 いつも、ありのまま、いつもその時の私をリアルに切り取る事、
 
それをコンセプトにしてきました。」

だそうです。

Pltshm

 ちなみに高音質を謳ったプラチナSHM版を購入してみましたが、シバジュンの声の透明感がより一層増しているように思えますが、あとで述べるようにアレンジが今ひとつなのと、シバジュンのボーカルを前面に押し出すあまりにバックの楽器の音が平板で高音質盤の良さを活かしきれていない気がしました。

1. 王妃の微笑み
2. 反面教師
3. 白い鎖
4. 牙が折れても~ instrumental ~
5. 車窓*テレビ朝日系木曜ミステリー「科捜研の女」主題歌
6. 哀れな女たち
7. ピュア
8. 愛のかたち
9. 横顔
10. 記憶

あなたと見た夢 君のいない朝」以来、1年9か月振りとなる待望のオリジナルアルバム! 記念すべき10枚目のオリジナルアルバムとなる本作は、初期のプロデューサーである坂本昌之氏、澤近泰輔氏とのコラボ曲を中心に、初のタッグとなる森俊之氏とのコラボ曲も収録。柴田淳の初期衝動への回帰と新機軸への橋渡しを網羅した記念すべき作品。全10曲収録。(AMAZON解説より)」

 全体を概観しますと、一曲目「王妃の微笑み」は西洋のちょっと怖い御伽噺のような内容で、シンセによるオルゴール音から入るという、見開き立体絵本をめくるような感覚のアレンジで始まります。

 二曲目「反面教師」は冒頭のシンセベース、シンセドラムの疾走感がとてもいいです。

 そして四曲目でピアノソロが入り、五曲目にTVタイアップ曲で本アルバムのキラーチューン「車窓」を持ってきました。

 ここまでは大変良い流れだと思ったのですが、7曲目の「ピュア」以降四曲は全て大同小異のバラードでアレンジも率直なところ凡庸です。折角のプラチナSHMなのに、シバジュンの透明な歌声、独特のファルセットボイス以外にはあまり活かしきれていません。

 というわけで、折角前半は工夫を凝らしているのに、後半はよく「金太郎飴」状態と揶揄される構成で終わってしまうので、アルバム全体としての魅力には欠ける印象です。まあ、バラードが何曲も並んでいるのだから、自分の好きな曲を見つけ出せばいいじゃないか、と言われればそれまでで、それがCD時代~ネット配信時代の聴き方なのでしょうけれど。

 それはさておき、先ほど気になったと書いた彼女の精神状態。今回は歌詞に顕著です。例えば二曲目「反面教師

「自分の心 切り裂き 膿み出して
 そうやって生き延びてきたの
 やられてたまるかって

 人の気持ちのわかる大人にならなきゃダメと教えてくれた
 あなたのような大人には決してなりません!とここに誓います
 仰せの通り 」

六曲目「哀れな女たち

「鼻につく笑顔と 見せつける顔と
 自己陶酔に気付いていない
 反感は嫉妬と 勘違いするから
 嫌われていることにも気付かない
 

 人の評価が 何より幸せ
 羨ましがられて 嬉しくて
 本当はバカにされ 笑われてるあの背中は誰?」

 まあシバジュンの持ち味の一つはトーチソングなのですが、さすがにここまで来ると男から見るとちょっとついていけないなあ、と思ってしまいます。もちろん何を書いてどう歌おうがシバジュンの自由なんですが、ちょっと「歌の歌詞」としてはどうかなあ、とも思います。

 これとは対照的に昭和の歌謡曲全盛期っぽい「車窓」の歌詞はメロディラインにも無理がないし、すっと耳に馴染んできます。

 後半のバラード「ピュア」「愛のかたち」「横顔」「記憶」の歌詞はいつものシバジュン調でほっとするのですが、先ほど述べたように四曲も並べられると、どうだどうだと押し売りされているみたいです(^_^;)。まあ敢えて言うと「ピュア」が良かったかな。

 というわけでまだ今ひとつピンとこないのですが、聴き込めば印象が変わってくるのもシバジュンの魅力の一つ。当分ヘビーローテーションで聴いてみます。
 とにかく、シバジュンの声の調子はとても良いので、彼女のクリスタルヴォイス、独特のファルセットがお好きな方は、是非プラチナSHM盤を買ってください。