ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

今年を振り返る:番外編: STAP細胞捏造論文と理研の調査委員会報告についての私見

 今日で私の職場も仕事納めでしたが、急変患者が出るなど、相変わらず慌しい年末です。そんな中でも少し時間に余裕ができたので、以前から気になっていた、理研の「STAP細胞論文に関する調査結果について」を読むことができました。

 年末でマスコミはこぞって今年の重大ニュース或いは十大ニュース特集なんてのをやってますが、必ず入ってくるキーワードが「STAP細胞」「小保方騒動」です。理研のある神戸に住むものとして今年はぬか喜びが落胆、怒りに変わり、先日の最終報告でばっさりと終止符が打たれた一年でした。
 マスコミはあいかわらず小保方さんの動向や理研叩き、真犯人探しを前面に押し出していますが、私個人としては、以前腫瘍免疫の研究をしていたこともあり、

何故あのような杜撰で捏造だらけの論文が出来上がったのか?」

という点の検証こそが、今後の再発防止と新たなる研究への教訓となりうると思っていました。

 その点でこの報告書は大変参考になります。笹井氏が亡くなり、小保方氏がかたくなに不正を否定する中で、ほぼ全容を解明し論文の問題点も徹底的に洗い出した、内部調査としては異例なほど真摯な報告です。
 TVで発表した桂勲委員長ののらりくらりとした態度は批判されるべきだとおもいますが、スタッフはよくやったと思います。それがマスコミでは十分に伝わらず、報告書の内容より、スキャンダルの部分にスポットライトが当たっているのは残念の一言に尽きます。そこで、報告書をもとに私見を述べてみたいと思います。

 断定は慎重に避けていますが、存在もしないSTAP幹細胞の替わりとして故意にES細胞が使用されたことは明白です。そのES細胞株まで同定したのはよくやったと思いますし、書いた方も本当は故意だと断定したかったでしょう。
 ただ、これは2月に疑惑が浮上したときにすでに多くの方が指摘されており、卑近なところでは理研で故笹井教授のもとにおられた私の職場の同僚もたぶんES細胞を使ったんじゃないですかと言っておられました。だから個人的には当然出るべくして出た結果だと思います。

 報告書自体は素人の方にはわかりにくい、というか難しくて解読できないと思いますが、結論の部分を専門用語を省略し、推定文のまどろっこし言い回しを削り取って断定調で書くと事の本質が見えてきます。

 以下私が「改ざん」した文章であることを承知でお読みください。

『 STAP 論文に関して、科学論文およびその基礎となった研究の問題点まで視野を 広げると、ここで認定された研究不正は、まさに「氷山の一角」に過ぎない。以下の4つの点で、非常に問題が多い論文である。

1: 本調査により、STAP 細胞が多能性を持つというこの論文の主な結論が否定された。その証拠となるべき STAP 幹細胞、FI 幹細胞、キメラ、テラトーマは、すべてES 細胞の混入に由来する。STAP 論文は、ほほすべて否定された。これだけ多くのES 細胞の混入があると、過失というより誰かが故意に混入したはずである

2: 論文の図表の元になるオリジナルデータ、特に小保方氏担当の分が、顕微鏡に取り付けたハードディスク内の画像を除きほとんど存在せず、「責任ある研究」の基盤が崩壊している。最終的に論文の図表を作成したのは小保方氏なので、この責任は大部分、小保方氏に帰せられる

3: 論文の図表の取り違え、図の作成過程での不適切な操作、実験機器の操作や実験 法の初歩的な間違いなど、過失が非常に多い。これも、図の作成や実験を行った小保方氏の責任

4: このように実験記録やオリジナルデータがないことや、見ただけで疑念が湧く図表があることを、共同研究者や論文の共著者が見落とした、あるいは見逃した。 また、STAP 幹細胞やキメラについて明らかに怪しいデータがあるのに、それを追求する実験を怠った。これらに関しては、STAP論文の研究の中心的な部分が行われた時に小保方氏が所属した研究室の長であった若山氏と、最終的にSTAP 論文をまとめるのに主たる役割を果たした笹井氏の責任は特に大きい

最後の問題について、もう少し詳しく考察したい。小保方氏が実験記録を残さず、過失が非常に多いことを見逃した理由の1 つは、プログレスレポートのあり方など、研究室運営のやり方に問題があったためである。論文の共著者は論文原稿の最終版を全部読んで内容を承認する責任があるが、共著者全員がこの責任を果たしていない。(中略)このような追及の甘さは、論文発表を焦ったからである特許や研究費獲得や著名雑誌への論文掲載は、本来、悪いものではないが、それに夢中になるあまり、研究の中身への注意がおろそかになった。 以上のいずれかで適切な行動をとっていたら、STAP 問題はここまで大きくならなかった。 』

 以上から見えてくる構図は、研究費獲得競争、iPS細胞に水をあけられた再生医療チームの焦りです。そしてそのキーパーソンは、

ES細胞に通暁している、山中教授と比肩し得るほどの人物

であったはずです。誰とは言いませんし、もうこの研究が行われることはないでしょう。理研には新たなスタッフで真摯な再出発を望みます。