今年初のオーディオネタです。年末に注文してあった「Lyra Kleos」がようやく届きました。3ヶ月待たされましたが、まあ、Heliconで経験済みなので、今回はおっ、早いな、消費税UP前に来たな!的な感覚でした。
ジョナサン・カーの好みなのでしょう、ギリシャ語の名前の多いライラですが、Kleosもギリシャ語で「Renown(名声)」「Glory(栄光)」の意味だそうです。ちなみにHeliconはギリシャ神話でアポロとミューズが住む山でした。
さて、買い替えの簡単な経緯を述べますと、昨年末の「今年を振り返る:オーディオ編」にも書いたのですが、10年以上使ってきたLyra Heliconが随分へたってきたのでそろそろ買い替えねばと思っていました。Heliconの情報量の多さ、鮮烈さ、楽器音の再現のリアルさなど、いかにも現代型カートリッジであるところを気に入って使い続けてきた者にとっては針交換で済めばなんら問題はありません。
ところが気がついた時にはHeliconはディスコンになっており、後継機種のKleosは10年前に買った当時のHeliconの倍近いプライスタグがついています。RoksanのシラズやHoteiさんの使っておられる国内販売されてない凄いブツなども頭を掠めたのですが、やはりこれらも高価すぎて手が届きません。
で、Lyraの下位機種で我慢するかと思ってHPを覗いてみたところ、KleosをHeliconの針交換として購入すれば定価より9万円近く安いではありませんか。
これは朗報としか言いようがない。しかも海外のレビューをいろいろ読んでみると軒並み
「確実にHeliconより音が良い」
と礼賛されています。このごろステサンを購読してないし、日本語のレビューをネットで探しましたが全くヒットせず本当に市販してるのか?という心配もないではなかったですが、とりあえず年末にルーツサウンドさんから問い合わせてもらったところ、
「お時間はいただくが作ります、Heliconの状態は問いません、後で送り返してもらえば結構です」
という返事がありましたので、速攻注文しました。
というような経緯で3月8日についにKleosの実在を確認できたのでした。
詳細は後ほど述べますが、2日間聴きこむともう本性を現してきました。海外レビューにも書いてあったのですが、珍しくブレークインの時間が短くて済むカートリッジです。
その感想を、対ヘリコン比でまとめてみますと
1: レコード再生の安定性が格段によくなった
2: 内周にきても音が劣化しなくなった
3: 情報量の多さ・正確さは同等かそれ以上
4: 聴感上のS/N比が良くなった
5: 周波数帯域の広さはそのままにピラミッドバランスになり低音の力感が増して芯のある音になった
6: ダイナミックレンジが広くなりピアニシモからフォルテシモまで安定して再現する
7: 音の温度感が上がり、やや暖色系になった
というところです。ライラの特徴である現代型カートリッジの鮮烈さ、ハイスピード感はそのままに、ちょっと神経質で再生に凄く気を使うところのあったヘリコンに比べると安心して任せておけるカートリッジで
「解像力、トラッカビリティー及びダイナミックレンジが共に向上し、より存在感の強い、より新鮮な音」
というキャッチコピーはだてじゃないなと実感しています。
もちろんこれよりずっと凄いカートリッジがあることは承知していますが、コストパフォーマンスを考えるとこれでベストのチョイスであったと思います。
「 Lyra Kleos 主要仕様(上記リンクのHPより):
発電方式:Moving Coil型
出力電圧:0.4mV
再生周波数:10Hz-50KHz
チャンネル・セパレーション: 35dB (1kHz)
内部インピーダンス:5.7Ω
カンチレバー・システム:ソリッド・ボロン・ロッド(Lyra original)・ダイアモンド・ライン・コンタクト・スタイラス(3×70μm)
負荷抵抗:100Ω~47kΩ(昇圧トランスの場合は10Ω以下)
針圧: 1.7g~1.8g
自重: 8.8g(スタイラスカバーは除く) 」
さて、早速箱を開けますとHelicon同様の梱包でしたが、嬉しいことに定評のあるLyraのスタイラスクリーナーSPTが付属していました。これは嬉しいサービスです。
そしてこれがスタイラスカバーのついた新品のKleos。外見はロゴさえなければHeliconそっくりです。
写真撮影を済ませて早速取り付けです。Lyraのスケルトンに近いカートリッジも、Roksanの無骨なストレートアームのTabriz ZI
も取り付けには随分気を使いますが、Heliconの調整で大分慣れました。
オーバーハング(17.5mm)を確認してカートリッジをトーンアームに取り付け、水平とって針圧調整して、、、って推奨1.7-1.8gって狭すぎないかい?特にTabrizは目盛りも何もないので勘でウェイトを動かさないといけないので大変です。とりあえずデジタル針圧計で1.74gと出たあたりで妥協しました。まあ、Lyraの意図としては1.8g以上負荷をかけるなよってことなんでしょうけどね。
まずはDENONのテストディスクで音出し。左右、位相、クロストーク、トラッカビリティ、ワウフラなどを確認。Heliconが随分神経質だったのに比べると、この時点からKleosはすごく安定していました。
次いでフォノイコAccuphase C-27のLoad Inpedanceを決定します。リファレンスはいつものごとくWRの「Heavy Weather」。おっ、冒頭のシンセベースの音が随分野太いな、とか思いながら各インピで聴いていきます。大体Heliconと同じ300Ω受けでも推奨下限の100Ω受けでもどちらでもいける感じです。何回か聴き比べた上で、低音が出すぎるきらいはあるものの、やや音場が広く音数も豊富な300Ωに決めました。Heliconは300Ωだけがスイートスポットでしたが、こちらは随分余裕がありますね。
さて音のほうですが、Helicon同様の情報量の多さ正確さ、楽器の再現性のリアルさに加えて、重心が下がりピラミッドバランスとなりかつ芯が太くなったと感じました。
さらに喜ばしいのは内周に進んでも音がほとんど劣化しないし、盤やジャンルによっての得意不得意もありません。これにはHPに載っている新開発の「非対称ダンパー」によるトラッカビリティの向上が寄与しているものと思われます。結構神経質で盤も選ぶところのあったHeliconに比べると、「私に任せなさ~い、どーんと来いですわ」という感じです。
その分、Heliconの持っていたカミソリのように鮮烈な切れ味はやや影を潜めた感もありました。
が、、、
なじみのLPを数枚聴き込んできたら、なんやら凄い音になってきました。
最初は情報量が多すぎて音数を捌ききれない印象があったのですが、次第にS/N比がぐ~んと上がり、各楽器の音がくっきりと分離され、濁りのない艶のある音になってきました。ボーカルの中央への定位もびしっと決まりバックの演奏との距離感がきっちりと取れるようになって来ました。滑らかさと切れ味が見事に両立した感じです。トラッカビリティが良さがここにきてダイナミックレンジが広がりにもつながり、大音量のオケのトゥッティもビビルことなく再生するようになりました。先日naskorさんと杉ちゃんさんにお褒めいただいたオフ会を一人で再現してみましたが、
山崎はこの「飛びます」のギターストロークのリアルさ、ボーカルの伸びのよさ、
イ・ムジチ(1960)の四季の弦楽器の切れ味と艶、ハーモニーの解像度、
「Kenny Drew Trio」のリズムセクションのグルーブ感と低音の沈み込み、そして珠を転がすようなドリューのピアノ、
Led Zeppelin Iの「Good Times Bad Times」の迫力と「Baby I'm Gonna Leave You」のアコギの音色の美しさの対比、
オイストラフ&セルのブラ2のヴァイオリンの音色の美しさとトゥッティの再生の安定感、
などなど、セッティングを詰めてやっと出た音があっさりと前回同様にきっちりと再現され、かつピラミッドバランスとなり安定感が増しました。やや温度感が上がり暖色系の音になった気がしますが、この辺は好みの問題でしょう。
さらには今までどうしてもうまく鳴らなかったジョニ・ミッチェルの重量盤「Blue」の安定した再生ぶり、中島みゆきの「寒水魚」でのボーカルの説得力、弾むようなエレキベースの質感と次曲での一転してのストリングスの美しいハーモニーとの両立等、今まで少し気になっていた盤や曲を難なくこなす能力の高さは、Heliconからあきらかに改善しています。
以上、ジャンルを問わずに高次元で安定して音溝から情報が掬い上げられ、ライラならではの切れ味と演奏のリアルさが正当進化した印象を持ちました。もちろんHeliconならではの俊敏な反応と鮮烈な再生音も魅力的ではありました。しかしそれを差し引いても、海外のレビューにあるように
「確実にHeliconより音がいい」
ことは事実だと思いますし、再生の安定感が増したのは何よりも嬉しいことです。
もちろん最上位機種であるTitanなどはもっと凄いのでしょうが、最初に述べたように個人的にはコストパフォーマンス的にベストの選択だったと思います。当分はいろいろな盤を聴きなおして楽しめそうです。