映画ファンの間ではもはや伝説となっている「ニュー・シネマ・パラダイス」。その後も傑作を撮り続けいてるジュゼッペ・トルナトーレ監督と巨匠エンリオ・モリコーネがまたタッグを組んだ新作「鑑定士と顔の無い依頼人」です。既にシネ・リーブル系で公開されていたのですが、ようやく観ることができました。
イタリアでは「ゼロ・グラヴィティ」を押さえて初登場一位を記録するなど、大変な話題になっているそうですが、「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」といった感動系の大作ではなく、ウィットの効いたプロットに美しい美術品の数々を絡めて見せるいかにも欧州風のサスペンス・ミステリーでした。
「最後に明かされる驚愕の真実」、半券があれば二回目を1000円で見られる、と宣伝しておりますが、まあ数あるコンゲーム映画と比べて特段のビックリ度合いはない(笑。それでもトルナトーレ監督がじっくりと暖めていたシナリオだけあって、十分満足できる作品には仕上がっていました。
『 2013年 イタリア映画: 原題 La migliore offerta 配給:ギャガ
スタッフ
監督、脚本: ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影: ファビオ・ザマリオン
音楽: エンリオ・モリコーネ
キャスト
ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルビア・ホークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、他
「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」の名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、ジェフリー・ラッシュを主演に迎えて描くミステリー。天才的な審美眼を誇る鑑定士バージル・オールドマンは、資産家の両親が残した絵画や家具を査定してほしいという依頼を受け、ある屋敷にやってくる。しかし、依頼人の女性クレアは屋敷内のどこかにある隠し部屋にこもったまま姿を現さない。その場所を突き止めたバージルは我慢できずに部屋をのぞき見し、クレアの美しさに心を奪われる。さらにバージルは、美術品の中に歴史的発見ともいえる美術品を見つけるが……。音楽はトルナトーレ作品常連のエンニオ・モリコーネ。イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で、作品賞、監督賞、音楽賞をはじめ6部門を受賞。
(映画.comより)』
ストーリーについてはどこを触ってもネタバレになってしまうので、まあ映画.comの記載程度の情報にとどめておきます。原作の題名はイタリア語ですが、英語の題名は
「The Best Offer」
オークションに出てくる最良の出品、という意味ですが、もちろんこの映画においてはいろんな意味を持ってきます。その意味を考えながらみていくと面白いと思います。ちなみに台詞はすべて英語です。
プロットを別にすれば一番面白いのは、偏屈で名画の中の女性にしか興味のない偏屈なカリスマ鑑定士が次第に見えない依頼人クレアに夢中になっていく模様。
「英国王のスピーチ」でオスカーを獲ったジェフリー・ラッシュが、この老いらくの恋を実に上手く演じています。HPの解説を読むと、トルナトーレ監督は脚本を書いていく段階で次第にこの主人公役は彼しかいないと確信し、直接彼の自宅へ出向いて説得したそうです。さもありなん、演技というより主人公オールドマンになりきっていてさすがでした。
そして見逃せないのが美術品や、プロットの重要な役割を果たすオートマタ(機械人形)。主人公は広大な隠し部屋に、売れない画家と組んで安くオークションで落とした数々の名画、それも女性像ばかりを飾っているのですが、まあその豪華なこと。印象派もあれば古典主義もあればフェルメールもある。おまけに先日レビューしたプーシキン美術館展の目玉、ルノワールの「ジャンヌ・サマリーの肖像」まであったのには笑いました。上記写真はシネリーブル神戸の壁宣伝で、この隠し部屋を真似たしゃれた演出ですね。
そしてオートマタが出来上がっていく過程も凝っています。ちょっと「ヒューゴの不思議な発明」をおもいだしてしまいましたけどね。この機械に関してはラストシーンで見事な演出があります。それは、騙された主人公が訪れるプラハの喫茶店の装飾。そこでのジェフリー・ラッシュの静の演技と相まった名シーンで、さすがトルナトーレはエンディングが見事だと思いました。
もちろんエンニオ・モリコーネも健在です。彼独特の弦の旋律もさることながら、今回はコーラスを多用して映画を盛り上げていました。
というわけで、トルナトーレ監督のファンはもちろん、欧州映画ファン、ミステリー・ファン、美術愛好家のかたなどいろいろな方がいろいろな楽しみ方のできる一本となっていました。評価はもちろん高くて当然なのですが、トルナトーレ監督であればもっと感動できる映画を期待したい、というところで「佳作」とさせていただきます。
評価: C: 佳作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)