ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

清須会議

Kiyosu

 去年の10月に拙ブログで紹介した三谷幸喜の小説「清須会議」の映画版がようやく公開されたので家内と観てきました。小説の方が「生誕五十周年記念」三谷幸喜大感謝祭のラストを飾る作品であっただけに、映画の方もいつもの三谷組をはじめとする超豪華キャストで力の入った見応えのある作品となっておりましたが、その分全体に小説よりまじめに作っちゃったな、という感じでした。

 そしてとにもかくにも大泉洋。この会議が秀吉一世一代の大芝居だったように、大泉洋にとっても一世一代の名演技、彼の代表作になったな、と思いました。

『 2013年 日本映画 配給:東宝

スタッフ
監督、脚本: 三谷幸喜
製作: 亀山千広、市川南

キャスト
役所広司大泉洋小日向文世佐藤浩市鈴木京香、他

三谷幸喜が17年ぶりに書き下ろした小説を自ら脚色し、メガホンをとって映画化。本能寺の変織田信長が死去した後、家臣の柴田勝家と羽柴(豊臣)秀吉らが後継者を決め、日本史上初めて合議によって歴史が動いたとされる清須会議の全貌をオールスターキャストで描く。三谷監督作品では初の時代劇。

天正10年(1582年)、本能寺の変織田信長がこの世を去り、筆頭家老の柴田勝家は信長の三男でしっかり者の信孝を、羽柴秀吉は次男で大うつけ者と噂される信雄をそれぞれ後継者に推薦する。勝家、秀吉がともに思いを寄せる信長の妹・お市は秀吉への恨みから勝家に肩入れし、秀吉は軍師・黒田官兵衛の策で、信長の弟・三十郎信包を味方に引き入れ、家臣たちの人心を掌握していく。やがて後継者を決める会議が開かれ、それぞれの思惑が交錯する。

(映画.comより) 』

 日本の歴史ドラマでは、源平合戦織田・豊臣・徳川の天下取り、そして幕末志士・新撰組ものが三大人気で、これさえ出しておけばある程度の視聴率、観客動員は確実と言われています。そしてその中でもとりわけ人気が高いのが太閤秀吉でしょう。彼が山崎の合戦で明智を破った後、天下取りに向けて大きな素地固めをしたのが清須(清洲)会議でした。そこに集まった面々は歴史ドラマでおなじみの人物ばかり。

 というわけで比較的地味な「会議」の人間模様に目をつけた三谷幸喜が、「現代語訳」と称して今風に御馴染みの面々に本音を語らせたのが小説「清須会議」でした。その目論見は見事に成功し、大変面白い小説となっていました。

 しかし、それを映画化するとなると、モノローグだけで構成するわけにもいかず、普通のドラマとして各面々の言動によりそれを表現しなければなりません。そこにこの小説の映画化の難しい面があったと思います。

 しかし、そこはさすがの三谷幸喜、コメディタッチでありながらも秀吉、信雄、信考、黒田官兵衛柴田勝家お市の方を始め各登場人物のキャラクターを見事に描き分けていきます。もちろんそれは過去に語られ尽くした感のある人物造形からかけ離れたものではありませんが、城での会議と言う限られた空間の中でより濃密にそれぞれの個性をあぶりだしているのはさすがだと思います。

 ただ惜しむらくは残念ながら、というか当然というか、台詞はやはり「現代語訳」ではなく、各登場人物の所作も一応時代劇の作法にのっとったものであったこと。あれだけの立派なセットを作ってハチャメチャコメディにするわけにもいかなかったのでしょうが、もう少し型破りな展開があっても良かったのではないかと思います。

 まあそれを逆手にとって、お市の方松姫のメイクを史実に忠実に再現して白粉塗りたくりにお歯黒にしてしまい、逆に笑いを取ったのはさすがと言えばさすがです。映画序盤でゴーリキーちゃんがいきなりスクリーン一杯にどアップで登場した時には思わず噴き出してしまいました。鈴木京香さんにしてもあれだけ年齢から来る白粉の乗りの悪さ、お歯黒の気持ち悪さを晒してでも楽しげに演じていたのは三谷監督への万全の信頼があってのことでしょう。

 さて、この映画の主役は誰か?格から言えばやはり勝家役の役所広司ということになるのでしょうし、勿論彼の熱演もむさくるしいほど(笑)見事なものでしたが、史実と同じく、美味しいところを大泉洋演じる秀吉に持っていかれましたね。

 大泉洋自体の個性そのままの演技が、狡猾、野卑でいて人たらし、そして内に秘めた野望の大きさ、巷間伝えられる秀吉像にピタリとはまることを見抜いた三谷幸喜の慧眼もさすがですが、それに応えた彼の熱演も見事でした。

 その他には黒田官兵衛役の寺島進、うつけで知られた織田信雄役の妻夫木聡の二人が良い味を出していましたね。女優陣では寧々役の中谷美紀が、動きの多い躍動感溢れる美味しい役どころで溌剌としていました。

 そう言えば「素敵な金縛り」の更科六兵衛役で西田敏行が再登場するとことが話題になっていましたが、本当に本当にチョイ役でややがっかりでした。

 さて、ストーリーの方ですが、会議の趨勢が決してからはやや散漫になってしまったところが惜しかったと思います。しかし最後はきっちりと締めるのが三谷幸喜の偉いところ。エンドロールでそれまで何度か出てきた清須の青空を背景にかぶせ、音声でその後の誰もが知っている歴史を示唆し、この清須で織田信長の元、共に戦った諸将やその妻のその後の運命に思いを馳せさせるところはさすがだなと思いました。

 というわけで良質のコメディであり、優れた時代物であったと思います。惜しむらくは脚本が小説の出来栄えに及ばないところで、できれば先に映画を楽しみ、その後で小説を読んで大笑いする方がより楽しめると思います。

 そうそう、「いろんな声」とクレジットされていた山寺宏一さん、どんな声をやってたんでしょうか?調べてみると人間の声ではないそうです。その辺にも気をつけて観ていただくとより楽しいかも。

評価: B:秀作
(A: 傑作、B: 秀作、C: 佳作、D: イマイチ、E: トホホ)