ゆうけいの月夜のラプソディ

ゆうけいの月夜のラプソディ移植版

Billy Bat 12 / 浦沢直樹

BILLY BAT(12) (モーニングKC)
 Billy Batの最新刊が出ました。前回予想したとおり、本巻はケネディ暗殺事件の時にケヴィン・ヤマガタに助けられたケヴィン・グッドマンが大学生となって中心人物として活躍しており、新たな展開に新鮮さを感じました。

『1963年、あのダラスの熱い日、漫画家ケヴィンに命を救われたゴールデンコーラ御曹司ケヴィン。18年後、彼は成長し、気楽で奔放な学生生活を送っていた。そのケヴィンには、大学生と別の顔・・・・・・そして別の能力があった。

偽のビリーバット・・・・・・
偽のチャック・カルキン・・・・・・
偽の月面着陸・・・・・・
時の巻物の行方・・・・・・
古代からのすべての謎の答えが月を指し示した時、
最後の物語が始まる・・・・・・!

彼こそが地球の存亡を握る最後の”天然”!?
物語は真の主人公を迎える!

1981年ー
主人公の登場により謎が一つに向かうー!!

(コミックスの帯より)』

 というわけで今回は全編にわたり、ケヴィン・グッドマンが主人公です。もちろん彼にはビリー・バットが見えます。というか、自由に呼び出せるのです。過去の多くの登場人物よりはるかにその能力が高いという予想通りの設定で、彼が最後の切り札であることは間違いありません。彼はコウモリが教えてくれるイメージを描きたいままに街中にウォール・ペインティングしていくのですが、その技量もバスキアウォーホール級、と謎の女が鑑定しています。

 その衝動に突き動かされるままに次々と描いていく絵は悉く翌朝には壁ごと破壊され消されてしまいます。そしてそんな彼を付け狙う謎の集団。彼は知らず知らずのうちに常に命を狙われる存在となってしまっているのですが、そこに様々な過去の登場人物が絡んできて。。。

 と、相変わらず面白くて息もつかせぬ展開ですが、今回ちょっと驚いたのは偽のビリー・バットで巨万の富を得たチャック・カルキンの意外な過去。なんとあのアドルフ・ヒトラーが関係しいていたのです。老いたカルキンの回想の中でヒトラーが語った驚くべき内容とは。。。それは読んでのお楽しみ。

 さて、それとも関係するのですが、今回の舞台となる1981年のアメリカには現代アメリカの3大都市伝説が存在します。

1: ビリー・バットの模写をするとチャック・カルキン・エンタープライズの人間がやってきて殺される。

2: エルビスは生きている

3: 人類は月へ行っていない

2はともかくとして、3はこの物語と深く関係していることは以前、日本人の特撮エキスパート、明智監督がアメリカ政府の要請で偽映像を作成したことからも明らかです。その明智監督はコニー・アケチ監督としてアメリカに残っており、本巻の最後でケヴィン・グッドマンと遭遇します。そこで明らかとなる、アメリカ政府が月面の偽映像を作らねばならなかった理由とは。。。

 以前の謎をいくつか回収しつつも新たな謎が出現してきて、次回で収拾がつくのかどうかやきもきするという、相変わらずの展開ですが、どう考えてもケヴィン・グッドマンが最後の主人公でしょう。物語は終盤にさしかかっていると思います。と、信じて次回を待ちたいと思います。

  最後に本筋には関係ないおまけですが、1981年という時代を反映して浦沢直樹好みの音楽ネタも随所に登場します。ケヴィンの学生仲間に「そのベースラインで『スリラー』という題名で踊りもつけりゃ4000万枚売れるぜ」と言わせてみたり、街角のレコード屋に並んでいるLPの数々に浦沢の好みが垣間見えたり。ちなみにジャニス・ジョプリンジミ・ヘンドリックスルー・リード、レッド・ゼッペリン、ジャクソン・ブラウンジョニ・ミッチェルらの有名なジャケットがきっちりと描き込まれています。